第4話 家族のやり取りと事件の真相

昼食を兼ねてファミレスで未央さんと合流した。


「光さん、お待たせしました。」と未央さんが言ってきたので、

「いや。ほぼ同時に到着したよ。気にしないで。」と答えた。


「紫音。好きなものを頼んでいいよ。」


「未央は何を食べる?」可愛い妻に話し掛けるように言うと、


(なんて事ない家族の雰囲気を作り出そう。不幸な事があった彼女たちには、少しでも幸せを感じていて欲しいから。)


「光さんは?」と彼女に聞かれたので、


「夜まで動きたいからここでは食事を軽めに取っておくよ。」

 依頼の事を考えると長引きそうなのでそう答えた。


「紫音は、サンドイッチがいい。」

(サンドイッチが好きなのか。昨日の選択は正解だったな。)


「じゃあ俺はこの軽めのランチセットにしようかな。」


「私も同じものします。」そう言って、彼女は同調してくる。


サンドイッチを頬張っている紫音に、

「もう少し野菜を食べないとな紫音。」


レタスやキュウリなんかは含まれているが、サンドイッチは野菜が少ない。


「紫音は、苦いのは嫌い。」と言ったので、

「好き嫌いはなるべく無くすべきだ。」と言い返す。


未央さんに俺は

「未央。夕食は少しだけ野菜を増やして食べさせよう。」


「面倒かと思うが、食べやすいように加工して料理してやってくれ。」


「はい、夕食はそうしますね。光さん。」と答えたくれた。


「あと…。」俺は追加の要望をするのは申し訳無く感じたため、


「料理が大変なら俺が替わるからいつでも言ってくれ。」と気を使うと、


「ふふっ、分かりました。」と未央さんは微笑みながら答えた。


 食後に未央さんに調べてもらった事と俺たちが調べていた事をまとめることにした。


「………って言う事があったみたいです。」

「そうか、やっぱりそうだったか。」


「真相を家族に伝えようと思う。アポイントは取れるか?未央。」

「はい、大丈夫です。任せて光さん。」


「私も同行しましょうか?」未央さんが言うのだが、


「いや、俺と紫音二人でいくよ。」と答えた。


「人数を増やすと精神的に気を使わせる事になるから。」

 事件だから…、危険があると言う、万が一も考えていた。


気にしていた事を俺は未央さんに聞いた、

「事件とかを調べていて辛いことはないか。未央。」


「辛くなったらいつでも止めて構わないから、俺に出来ることがあれば、言ってくれ。」と話すと、


「光さん」


「どうした。未央。」


「婚姻届にサインをお願いします。」

(色々あった後の未央さんは重めの女性になったのか。)


「それは家でじっくり話し合おう。」


「………分かりました。気を付けてくださいね。」

(少しだけ間があったような。)




未央さんと別れファミレスを出たあと、

「お父さんは優しいね。」


「なんの話?」


「お母さんに同時に来たから待ってないって言ってたし。」


「紫音。夫婦だからと言って何でも本当の事ばかり言ってはダメなんだ。近い存在であればあるほど、言葉を発する時には相手を思いやる事。放った言葉は取り戻す事が出来ないから。」

 大人として気を使う事も大事だと思っていたので、


「だから、日々の言葉に感謝や尊敬の意を込めて話すんだ。」

 紫音…娘にはこの事を理解して欲しかった。


「うん、分かった。」と紫音は答えた。



少し時間があったので、気になる事を聞いてみた。

「紫音。問題が解決したあと、池田さんの霊はどうなるんだ。」


「六道のどれかの道に行って転生するよ。」と答えてくれたので、


「輪廻転生と言うやつか。」


「記憶も何もかも無くして生まれ変わる。例外はない。当然、信じない人もいる人もいるけど、私たちの最後の仕事は、


 霊(たましい)を正しい道へ旅先案内することだから。」


 紫音は霊的な事に関してのプロ…、だった。


「重い荷を背負っているんだな…。じゃあこれから俺は紫音の手伝いをしよう。」と話をして、娘を手伝うと話すと、


「……ありがとうお父さん。」紫音は安堵した表情を浮かべていた。



夕方になり俺たちは、

「はじめまして、神里といいます。」


「ああ、あなた方が息子の言っていた神里さんですね。」

(池田さんのご主人に会うことにした。)


「妻の死の真相を調べてくれているという。」

 旦那さんは息子さんから聞いていたらしく、俺たちに驚く事はなかった。


「死の真相が分かりましたのでお伝えにきました。」


「本当なのかい。」


「はい。では、話をさせて頂きますね。」


俺は息を整えたあと、

「あなたたち夫婦は息子さんの就職先について意見の相違があった。息子さんの自由を尊重する奥さまと安定した企業への就職を望む、あなたとの間で対立していた。」


「そんな事ぐらいで命を絶つわけないじゃないか!」

 と池田さんのご主人は声を荒げた。


(やはり…、夫婦感で何かあったみたいだ。)


気にせず俺は続けた、

「それはあくまで一つの要因だった。あなたは仕事も対人関係も良好な奥さまに嫉妬と劣等感を持っていた。それも何年も。


だから、あなたは奥さまの変化に気づかなかった。」


「正確に言うと、奥さまはそれでも、あなたを憎んだりしていなかった。

でも、あなたは、家に帰るなり、奥さまに愚痴を言ったり、上から目線で物事を強引に決めたりしていた。


それでも、奥さまはあなたに黙って従い、常に笑顔を絶やさなかった。」


「端から見ると良好な関係に見えたかもしれない。でもずっとあなたの負の気持ちを受け続けた奥さまの心は限界を迎えていたんだ。


そしてついに、その日が来た。」


「おそらく、あなたは奥さまに死を連想させる発言をしてしまったんだ。


その瞬間、奥さまの心が壊れた。あとは、放心状態の奥さまが事故に遇い、亡くなった。」


「これが真相です。」と俺は話を終えた。


「犯罪には当たらないので罪に問われることは無いでしょう。


息子さんが真相を知りたがっていたので話すかどうかはお任せします。あとは、家族の問題ですから。」


「私はどうしたら。」池田さんのご主人が言うと、


すると、紫音が、

「今日、お父さんが言ってました。」


「放った言葉は取り戻す事が出来ない。だから、日々の言葉に感謝や尊敬の意を込めて話すんだ。って」


紫音の言葉に続いて俺は、

「もう、遅いかもしれないですが、これからを考える。それでいいんじゃないでしょうか?」と伝えた。


「失礼します。」とその場を紫音と一緒に立ち去った。



その結果を池田さんにも伝えると「そうですか。」と一言だけ、発した。


「おばちゃん。送っていくね。」

 と紫音は池田さんを連れて東山の坂へ向かった。


東山の急な坂の前に立った、俺と紫音と池田さん。


「この世とあの世の境目はどの坂道にも存在する。」


「ただ、通れるのは霊のみなんだ。」と紫音は言った。


池田さんが、

「ありがとう、ちゃんと調べて真実を話してくれて。」とお礼を言われて、


俺は、

「真実が自分にとって正しいとは限らないから何も悔やむ必要はありませんよ。」と言葉をまとめた。


「おばちゃん、登り始めたら振り返っちゃダメだからね。」と紫音は言った。


「ありがとう。」と言い残し、池田さんは旅立っていった。

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