第3話 激ムズな採用試験

私はどうして死んでしまったのかでしょうか。

(初めてのお仕事は浮遊霊の死の真相を暴く)と言う推理ミステリーだった。


未央さんと紫音そして俺の関係を改善した最大の理由は、社長が激ムズ案件と言った、俺が担当する最初の案件「人気者の池田さん」がなぜ亡くなったのかを解決しないといけないからだ。


「お父さん、仕事行こ?」紫音が言ってくる。


「紫音ね。もう一回、池田さんに話を聞いてみるべきだと思うの。」

(実際はかなり喋る子なんだな。)


昨日はお父さんと寝るとか。お父さん大好きなんて言われたりした。


父親が実の娘に言われたら嬉しいワードを連発していた。


「すっかり仲良しね。紫音。」と未央さんが言うと、


「うん!紫音ね。お母さんも好き。」未央さんにも甘えまくる。


俺は未央さんに

「未央、今日は紫音を連れて依頼人の所に行ってくる。何か感じるものがあるのかもしれない。」


「ええ、わかったわ。何かあれば、いつでも頼ってね。」

と未央さんは答えた。


「ありがとう未央。」


「紫音。それじゃ、行こうか。」


「うん!」

「お母さん。行ってきま~す。」と紫音は未央さんに手を振っていた。


俺たちは白河の家を出て昨日の場所に向かった。


昨日は黙って後ろを付いてくる紫音だったが、

今日は俺にベッタリと引っ付いて笑顔で上機嫌だ。


「紫音。優しいお父さんが大好き。」


精神年齢は小学生くらいだろう。

ずっと、何年も紫音の心の時間は止まっていたのだ。


これは、未央さんと相談して教育方針を決めないといけないな。



昨日とほぼ同じ場所に池田さんはいた。

「こんにちは。池田さん。」


「あら、昨日の…神里さんだったかしら。」昨日と同じ格好で彼女はいた。

(霊だから…服が変わるわけ無いよな…。)


「いつもここに?」と尋ねると


「ここはとても落ち着くの。」池田さんは言った。


(耳塚………確か秀吉の朝鮮出兵時の捕らえた朝鮮兵の耳や鼻を埋めたとされている場所。弔いの石碑だな。)


 土葬や風葬が行われた場所なんかは霊が好むのかな。


「おばちゃん。」突然、紫音が池田さんに話し掛けた。


「あら、お嬢ちゃんも私が見えるのかしら?」

 昨日は一言も話さなかった、紫音ちゃんが見える事に驚いていた。


「うん!あのね、きっとおばちゃんは誰かに殺されちゃったんだよ。」

(!急に何を言い出すんだこの子は。)


「どうしてそう思うの。」と驚かない様子で池田さんが聞いている。


紫音は続けた。

「現世に留まる理由はね。大きく分けると4つあるの。まず、家族がその人を強い想いで忘れられずにいてあの世に逝くのを邪魔しちゃうの。」


「仏教の考え、六道の人間道にある愛別離苦あいべつりくの話。


 もう一つは怨憎会苦おんぞうえく憎い人がいてその人の強い憎しみがあの世に行かせないように邪魔してるの。」


「あとの二つはおばちゃんに関係なさそうだから、そのどっちかだと思うの。」


(六道の話がここで出てくるとは。)


「紫音、それなら愛されて現世に置き留められてると考えられるのが普通じゃ無いのか?」と俺は聞いたら、


「愛するものが実は憎まれているという矛盾が生じているから、あの世に行けないんだよ。」

 専門的な分野での知識は16歳とは思えないくらい、スゴかった。


「憎まれない人間なんてこの世にはいないんだよ。」と紫音が言った。


(とても息苦しくなるような言葉だ。)と俺は思っていた。


 ますます真相が分からなくなってきた。誰かに殺されたのなら、警察が気づくはずだ。本人に兆候が無かったんだから尚更、警察は疑うはず…。


 考えられるのは、入念な根回しをして池田さんを呼び出し、自殺に見せかけて殺した…。そこまでして恨まれる人には見えないけど…。


 俺はとりあえず、未央さんに電話をして、怨恨が無かったか?などを調査してほしいと依頼した。


「私は誰から恨まれていたのかしら?」と池田さんが言うので、


「もう少し調査します。お待ちください」と答えた。



 池田さんと別れた俺と紫音は未央さん情報の中にあった自殺現場に行ってみる事にした。自殺は報道規制がある程度かかるから一般の人は調べない限り分からない。人身事故とかいう感じで処理される。


「お父さん。」紫音に声をかけられた。


「どうした。紫音。」


「聞かないの?色々変な事に詳しい事を。」


「大丈夫だ。六道の教えなら詳しくないが、分かるから。」


「それより、物知りで偉いな。」紫音を優しく撫でてやる。

(俺はこの子を否定しない。もう心の時を止める訳にはいかないからな。)


「お父さん、大好き。」また抱きついてきた。

(心がまだ不安定なんだこの子は、守ってあげないとな。)


現場は見通しのいい交差点だった。

突然、道路に飛び出したそうだ。現場近くにいた目撃証言や事故を起こした運転手の証言がすべて相違点が無いことから自殺と判定されたらしい。


交通事故……。未央さんは死を調べてトラウマにならないだろうか。心配だ。


花束に添えられた場所に手を合わせて拝んだあと、紫音に、

「紫音、何か感じる事はないか?」


「霊が絡んだとは考えられない?」と聞いた。


すると、

「お父さん。霊がこの世に干渉することはほぼありません。」


「強い怨念があれば、別ですが。」と紫音が答えてくれた。


「どういうこと?」と俺が聞くと、


「呪いみたいなものです。」と紫音が言う。


 詳しく聞くと、呪い、その他類いの呪術で対象者を侵食し、負の気持ちを溜め込む事で、衝動的な行動を起こさせたり、体に異常を起こしたりするそうだ。


「確かに警察じゃ手に負えないな。見えないんだから。」

(俺の知らない世界がこの世にはまだまだあるんだな。)


「問題は誰が池田さんを強く恨んでいたか、だな。」


「お父さんは頭が良いですね。」紫音の目がキラキラしている。


「紫音より長く生きているからな。経験則と言うやつだ。」


 電話が鳴っている。未央さんからの着信だった。

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