第22話 オオバコの体調がはっきりと悪くなっていた。

 オオバコの体調がはっきりと悪くなっていた。


 管理人達は手厚くオオバコを扱った。しかしノビルはそれに違和感を覚えていた。ノビルは管理人達はオオバコを人形か何かとしか見ていないと思ったからだった。


 管理人達は同情の言葉をオオバコに投げかけた。薬をやり横に寝かせ、本当に親切にオオバコに対応した。しかしそれはいつもの暴力の裏返しでしかないとしか見えなかった。暴力を振るう配偶者が、時々ひどく優しく振る舞うようなものだろうと。


 結局管理人達は自分達のために他者をいいように動かしているだけだった。まるで人形を動かすように、集団の命令に従って相手がどう思おうがお構いなしに糸を繰るっていた。台本に書かれた規則通りに人形を動かし、集団が価値だと語るものに自分がなるために怒りや優しさを演じた。そのために他者を使っていた。そうしてしまうのは結局管理人達も集団の操り人形だったからだった。


「誰かが苦しんで成り立っていることが想像できれば、それはきっと間違いなんだろうね」


 寮の裏のゴミ溜めを掃除をしながらノビルは蓼に話していた。


「奴隷理論だね」


 ノビルの掃いたゴミを集めながら蓼は応えた。


「間違いではないけど、完璧ではないだろうね、きっと」


「奴隷がいて嬉しい奴もいるだろうが、それは単なる苦しみの押し付けでしかないんだから、質が低いんだよ。方法として。苦しみ自体を減らすのが知性であり、成熟した社会の証だよ。苦しみを左から右に押し付け合たって、疲弊していくだけして結局パイが減っていくだけなんだよ」


 蓼はいつも以上に鼻につく言い方をしていた。


「相手が本当に奴隷ならいいだろうけどね。豚や稲から私達は永遠に搾取し続けることができた。泣き寝入りというのは遍く存在するものなんだよ。嫌だけどね、本当は。でも私達人間同士のあり方だとすればね、物凄いコストだよ。奴隷は」


 蓼は伝わるようにと少しだけ意識して話し方を練習していたようだった。言葉が伝わるのはIQの差などではなく、共有しているツールの差だと蓼は思ったのだった。金を基準にして生きている人間にはコストやパイといった言葉の方が意味が分かった。しかし蓼は相手の話をまず聞くとか、もっと朗らかに喋るとか、もっと柔らかい言葉を使うとか、相手を責めないとか、そういう基本的なことから習得しなければいけないようだった。

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