第20話 蓼の様子がおかしいのを心配していたらしい先輩のスベリヒユが、蓼に話し掛けた。

「蓼くん」

「はい」


 蓼の様子がおかしいのを心配していたらしい先輩のスベリヒユが、蓼に話し掛けた。


「君がどういうものをやったか、何となくわかる」


「はい」


「でも、あまりそれに執着しないほうがいい」


「……」


「あれをやったあと、みんな最初は元気になってニコニコしだすんだ。でもみんな精神が不安定になってどうにかなってしまうんだ」


「……」


「笑えることはいいことさ。でもよく考えてご覧。こんな苦しい世界で笑っているなんて、それこそおかしいじゃないか」


「だから、やるんですよ」


「君の自由だよ。でも私は心配なんだ。こんなこと言ってしまっては身も蓋もないかも知れないけど、君はひどく評判が悪いよ」


「……」


「よく考えてご覧。みんなと仲良くできた方がよっぽど君にとって幸せだと思うよ」


 評判が悪いときっぱりと言われてそれなりに傷付いた蓼は、早速ノビルに愚痴った。


「なぜ人々は専門家面するのだろうね? 全くそのことを知らないのに! 興味なんてないと言っておきながら全く間違ったことを言いふらす。興味がないって知ってるなら自分が全く詳しくないこと位分かるだろうに!


 結局そういう人々がどうしてそんなに破綻したことをやり続けているかって言うと、村長がそう言ってるから! ただそれだけ!


 海に出ている人間に偉そうに海は如何に危険かって講釈を垂れて。自分は一度たりとも海へ出たことがないくせに! 村の長老に海は危ないから出るなと、人が溺れたから危ないぞって言われて、ただその通りにしているだけ! それが偉いことだと思ってる。馬鹿馬鹿しい、いつまで子供でいるつもりなんだ?


 やつらは海に入ったことがないどころか、海に魚がいることすら知りもしない。そのくせそれで持って帰ってきた魚を美味そうに食べるだけ食べて、それが海のものだと知ったら途端にぎゃあぎゃあ騒ぎ出す。全く一体何がしたいんだ?


 海に行った人間が死んだとか、おかしくなったとか、そりゃそうだよ! お前たちの濁声を聞いていたらおかしくもなるよ! なぜ人間が一番人間を傷付けてるってことを分かってないんだ?


 どうして自分で考えられないんだ? どうして他者ばかりでなく自分の気持までもをここまで蔑ろにできるんだ? どうして自分が美味しいと言って食べた魚を肯定できない? それが海のものだと分かったら、それを持ってきた人々がにこやかに笑っていたら、海が危険だなんて言ってる連中が何かおかしいんじゃないかって気付けないのか?


 ああ、ただ単純に人々は恐ろしいまでに臆病なだけなんだよ。哀れな犬みたいに」


「心配してくれたんだから、いいじゃない」


 ノビルが笑いながら口を挟んだ。


「あれのどこが心配なんだ。ただ単に気持ち悪いから普通にしてろって話だろう」

「まあ、そうだけど」


「本当に私のことを心配してくれるなら、皆に仲間はずれにしないでくれって頼んでくれればいいのに。いや、そこまでしないでいいんだ。ちょっと最近の楽しかった話でもしてくれればいいのに。なんで叱るんだ……」


「珍しく素直だね、今日は。優しくされるとやっぱり人間素直になるんだね」


 ノビルがケラケラと笑ったので、愚痴ってスッキリした蓼もまあいいかと思ったようだった。

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