第12話 汽車はガラガラで人気がなかった。
汽車はガラガラで人気がなかったが、駅に停まる度ぽつりぽつりと人が増えていった。その人たちの殆どが僅かばかりの荷物を、ほんの一握り持っているだけで、身なりも貧しく乞食がそのまま乗ってきたかのようだった。何人かまともな服装とそれなりの荷物を持っている人もいたが、その衣服から見える生身の肌や表情といったものは、色も生気もなく、寧ろ周りの乞食のような人々の方が生の活力にあふれているように見えた。
人が増えるにつれ汽車内は奇妙な臭気に満ちていった。
別の車両に行ければ簡単な話ではあったが、この人々が持つ切符がそうはさせなかった。安い本当に安い切符だった。この切符は目的地までのこの車両への滞在権を得られるものでしかなく、いくら人が増えようと別の車両へ移ることは許されなかった。ある者は別の車両へ出て横になって寝はじめたが、それを見つけた車掌ともみ合いになった挙句、まさに今全速力で走っている汽車からそのまま外へと押し落とされてしまった。
紫の薄黒い石ばかりの山々が連なるだけのどうしようもない景色が延々と繰り返され、汽車は止まった。
人々はぞろぞろと降り、新しい空気を気持ち良さげに息を吸っていた。それは砂埃だらけであったが、臭気もなければ熱気もなかった。
ノビルも降りて一息ついていた。ノビルは水が飲みたと思っていた。水筒は持ってきていなかった。
「水、ないかな」
「まず、あそこだな」
そういって声をかけた人は管理所のような場所を指差した。行列だった。ノビルはおとなしく並んだ。意外にも列は早々と短くなりノビルの番はすぐに来たが、話をする間もなく服装を渡され整列させられた。人間が何人か出てきて、その内の一人が喋りだした。
「ご応募いただきありがとうございます。今日から管理者として皆さんの管理させていたく笹野と申します。お仕事内容につきましてはご応募用紙にあった通りでして、坑道内の切削作業に従事していただきます。つきましては、契約内容について今から説明させていただきますので、もし契約内容に同意していただけないのであれば申し訳ございませんがこちらも雇用ということはできませんのでその際の帰り賃はご応募者さま負担での」
などということを長々と話すのだった。ノビルは主に水が飲みたいとしか思っていなかった。
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