第8話 関所では今日も無意味な行為が行われていた。

関所では今日も無意味な行為が行われていた。ただ偉ぶりたいだけの人間が、自分の権威を見せつけるためだけに、やり直しを何度もさせている。


 ノビルはその列に待たなければいけない人々を見て、その全員であの人間を辞めさせればどんなにいいだろうと思った。あの関所の巨大な機械の口に、あの人間を放り込んで、ガソリンを付けて燃やしてやればどんなにスッキリするだろうかと思った。そうすれば皆自分がこんな場所にいて、自分のほんの爪先ほどしかない人生を浪費することはないと気付くだろうに。


 紫のアスファルトはどこまでもどこまでもノビルの元を離れなかった。ため息をついて上を見上げてもおぞましい数の電線やどうしようもなく醜い家々が目にちらつくだけだった。空だけが唯一の救いだった。この紫色の空。


 恐ろしいまでに耳障りな雑音が聞こえてきた。セットされた拡声器はこの商品がいかに人々のためになるかがなった。しかし拡声器が語る価値は便利とか安いとか人気とか、それこそが人々を苦しめてきたものを価値と語るのだった。それは砂糖中毒者にアイスクリームやチョコレートを勧めるようなものだった。


「あんなのうそだよ」雑音に顔をしかめた人が、自分の適性を示すために、または共同体に危険を促すために、隣の家族に話しかけていた。


 何もかもあのようなものだとノビルは思った。誰かがいいといったものがさっぱり効かなかった。ある人が興奮して話していた何かはノビルには全く嘘のようなものだった。何もかもがつまらなく何も思いつくことはなかった。多くの場合ノビルにとって自分自身とは単なる乗り物のようなものだった。そして自分はそれを運転するロボットだと思っていた。この乗り物が突き飛ばされてバラバラに壊れてしまっても、アスファルトに叩きつけられた自分はまだ形があるものだと思っていた。その時初めて横たわりながら涙が出るのだろうとノビルは思っていた。

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