第5話 ノビルは仕事を探していた。

ノビルは仕事を探していた。


 ノビルは金を稼がなければと思っていた。なぜなら全てのものは金で交換され、人々さえも金で動いていたからだ。そのために人々はいつでも金が集まる場所に、身体も精神も群がった。壊された家は放置され、一方で金を吸い上げるためだけの箱が次々とできていった。そして人々の精神運動も、多くは金にまつわることに消費されていた。金をどう得るか、どう使うか、どう使わないか。


 その場所にただいるのにさえ金が必要になる。土地に値段がついていたからだ。路上でさえも安心ではなかった。人々の軽蔑や暴力に耐えても、公さえも路上の人間を追い出した。ただ横たわっているだけでも、金は必要になる。そうやって人々は何の価値を生み出さないものに高値をつけて、人々が身動きが取れないようにしていた。


 ノビルは倹約に惑わされていた。危ない戦争に駆り出されないためには金を極力使わないことだと思っていた。ノビルの見ていた母親の姿は仕事に苦しんでいる姿だった。家で小さなボヤが起きたときも、疲れ切った母親は眠っていた。ノビルが苦しんでいて無意識に助けを必要としているときも、母親は仕事にいて不在だった。母親が生活の安定を得るために別の父親と結婚したとき、それは長い暴力に晒される苦痛に満ちた生活の始まりになった。


 金が無いと母親はいつも言っていた。画面の中の人々はいつも金によって交換されるものがあなたを喜ばせると謳っていた。不幸な人々はそれが救いなのかと思って、その救い手に入れようとしてさらに自らを壊すのだった。


 ノビルは街を歩いて張り紙を探した。仕事の募集はいくらでもあったが、ノビルはそれらを見ていつも落ち込むのだった。そこに書かれていることは、この世界に自分の居場所はない、この世界には苦しみしかないと教えているようなものだったからだ。


 しかしノビルは、自分が残酷な仕事に対して、強く興味が惹かれることに気が付いた。死体清掃や屠殺業。ノビルは人を殺したいと思うこともあった。それは人間という敵を殺せる自分自身の価値を裏付けるものだからだろうとノビルは考えていた。しかし残酷なものを好むのは一体何なのか。


 ノビルは自分自身も繰り返しを求めていることが分かった。

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