第4話 ノビルの母親や家族が画面をみていた。

家に帰るとノビルの母親や家族が画面をみていた。そこでは紫の人々がただ紫を強めるためにひしめき合っていた。画面上ではあらゆる紫が、爆発するように膨らんでは人々は手を叩いて喜び、それがしぼんではまた膨らむのを過剰に期待し待ち焦がれる。全くどれも演技的で、茶番に満ちていた。誰もが紫を転がすばかりでそれ以外のことはしなかった。なぜこんなみにくい色だけが多くの人々に共有されて続けているのだろうかとノビルはぼんやり思った。


 人々は救世主ではなく自分の代弁者を求めているのだろうかとノビルは思った。自己の世界をただ繰り返す人間が欲しいのだと思った。画面にかじりついては、今までの何度も見てきたものと同じ全く不愉快な紫の繰り返しを求める。何故だろうか?


 画面の中では肩書がなければ喋れないようだった。しかし人々から気に入られた特別の者達は、それこそ異常なまでに肩書も根拠もなくともその言葉は受け入れられた。その言葉はまるで紫色であり、本当に息苦しいまでの紫であり、弱罰的で、この紫の世界で受け入れられる紫でなければという焦りを内側に生み、だからこそほとんどの人が安心できる、そういった言葉だった。


 違うことを、特別なことを言っているようで、その実は何も変わらなかった。すべての基礎は紫だった。そこから物事を考え、それから逸脱したものの考えはまるでできなかった。紫以外への逸脱は、人を罰するに値する行為だと、その人が持つの紫以外の何もかもを壊しても構わないものだと、信じて疑わなかった。それ以外の色で数限りない色でまわっている世界など、その仮定ですら人々の頭にはないようだった。


 また一方で画面に映るのは、本当に他愛ないものだった。街の少し変わった普通の人々にマイクを向け、画面の中で喋らせ面白おかしく笑っている。それを見てノビルは、家族達は本当は色々な人と話したくて仕方がないのではないだろうかと思った。


 それなら今すぐ家を出て、話せばいいことだった。しかしその恐れはノビルにも分かった。隣人に話しかけることができないのだ。これは紫の街の人間としては全く自然なこととして顧みれないが、人間のあり方としてかなり奇妙なものだった。しかしこの街では人に話しかける、人に頼ることは大きなリスクがあるものだった。

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