第3話 広場には一本の木が侘しそうに生えていた。
広場には一本の木が侘しそうに生えていた。その木は周りをコンクリートに押し攻められ十分な恵みを受けられず、配慮もなく切断された自己の腕や足を十分に治療することができず、身体中をノリと人間に侵食され震えながら生きていた。
ノビルはベンチに座り、いくつか買ったアイスクリームを次々と空けて交互に食べた。食べ続けていると油分と糖分と香料とその他のただ食欲を喚起して依存性を作り出す為のろくでもない様々な物質がノビルの身体の閾値を超えて吐き気がしたが、その不快感を超える認識できない何かの衝動的な作用によって全て食べ終えることができた。ノビルやノビルの家族が何時間もを自己の意味を資本家に溶かして従属に費やし、ただただ大量に消費するための生産物を作り出し、寿命を溶かして稼ぎ出した金との引き換え物は、この明らかな苦痛と認識できない欲求の衝動の時間のためだけにあっという間に消費された。ノビルは自分は消費を繰り返すために苦痛を与えられ続けているのだろうな、と小さく思った。
魚は加熱用ではあったがそのまま構わず手で食べた。噛み切れない皮と骨をガムを噛むように繰り返し味わって、骨だけ吐き出して繋がったままの皮はそのまま飲み込んだ。もったいない、せめてもっと気持ち悪さがなくなってから食べればいいのにと思いながら、ノビルは次の食べ物を手にとっていった。
広場には奇妙な人間が一人いた。その人はあからさまに”ちがうひと”の一員だった。動きも表情も振る舞いも”ただしいひと”ではなかった。目は忙しなくどこかを向いていたし、身体の動きは滑らかではなく緊張していた。その人は哀れな木の枝を集めてそれに、とても器用に火を点けた。その人の顔は明るい紫色にきらきらと照らされて、その瞳も輝いているようだった。
しかしそれも長くは続かなかった。その人は点いた火を見ると本当に嬉しそうに、少し不気味に笑うのだが、暫くすると消化不良のような気持ち悪さを感じた表情をして、幼い子供が駄々をこねるように、自分の力不足や環境や、そういったもの全てに嫌になったというように声を荒げて足で木屑を蹴って火を消した。しかしその人は火が消えるとまた火を点けるのだった。そしてまた同じことを繰り返していた。
気が付くと同じ服を着た人間が5人6人とその人を取り囲んでいき、暴れるその人は取り押さえられ、どこかへ連れていかれてしまった。
ノビルはチョコレートバーを吐いた。
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