第2話 人々はスーパーマーケットにいた。

人々はスーパーマーケットにいた。


 人々は必要なものを買いに行くため、事務的な目的のためにそこへ足を運ぶのだと思い込んではいたがしかし、いつも不必要なものまで買ってくる。人々は明らかに生存のための餌といった事務的な目的ではなく、物を手に入れるとか買ってあげるだとか、食欲かそれに取って代わられた何かに駆り立てられて買うのだった。


 ある人は紫の煎餅が並んでいるのを目に留めそこで止まる。手に取り、また止まり、買い物かごに入れる。この無機質な繰り返しはほとんど本人も意識しえないほど微かな報酬しか与えないが、それによってその人間自身の行動はほとんど抗えない程の強さでその人生を支配していた。


 ノビルもその一人だった。ノビルは色とりどりの紫色の野菜をいくつかカゴに入れた。


 誰かが怒っている声がした。ノビルはその声に非常に不快感を感じた。


 人々は常に客であり、それを恥じないようだった。だから喚くことだけは非常に得意だった。しかし誰も何もしようとはしなかった。巣の中でいつまでも親鳥を待って鳴き喚いていた。それでいて雛は親鳥に非常に辛辣だった。巣の中にいる雛は餌にしか興味がなく、それを評価することで自分にやってくる餌を少しでもいいものにする為にありとあらゆる方法で喚きまくっていた。その一生涯について殆どそこから出ることがない雛たちは、喚く以上の何かを習得する必要はなかったからだった。自分の気に入らない餌に対し、いかに甲高く不快で汚い言葉で泣き喚くか。ほとんどそれは哀れになる位に、こちらが涙してしまう位いじらしいものだった。ある雛は顔を歪ませ糞を撒き散らしながら喚いた。そこまでしないと雛たちは生きていられないようだった。結局雛たちは飛び立つために生まれてきたのではなく、狭い巣の中で大人になって、殆ど無駄に消費される卵のために一生涯そこに閉じ込められるのだった。


 ノビルはそれから起きて来るだろう様々な対立も予感して更に嫌気が差した。自分の中に対立を探している自分に気が付いたのだった。それは悪者がどこかにいるという感覚だった。常に感じている重圧は自分が攻撃されていることを自分自身に自覚させ、攻撃者を探させた。過剰な重圧は人々の寛容さを小さくさせるものだった。


 怒りを表している人間以外は全く静かなものだったが、その背後で着実に対立は動いており、悪の発見から攻撃へのプロセスはパターン化され習慣として繰返された。黙りこくった人間達は自覚なくそのパターンをコピーし他の攻撃対象を探し、繰り返される行為は全く抵抗なく受け継がれ、伝染していくのだった。

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