新しいクラス、仲のいい?あいつ
「それでは皆さん、行きましょうか」
すっかりリフレッシュして時間はちょうど8時。
学校の登校時間は15分までなのでここから歩いて行っては間に合わない!!って事で雷斗さんの道場にあるワープゾーンを使用させてもらうことになった。
統合第一学園内には数カ所、ワープゾーンが存在している。
ちゃんと政府から許可を得て定められた場所なので使用すればちゃんと記録が残るようになっているので犯罪性も薄いとのことだ。
「忘れ物はございませんか?教師としては忘れ物は許せませんが」
こ、怖い。
雷斗さん笑顔だからさらに怖い!
「ダイジョーブです!」
「こっちも大丈夫だぜ!」
「……大丈夫かな」
一応バックパックを確認するが、そもそも今日持っていくものなんてほとんどない。
動くための運動着ぐらいか?
ちなみにだが、今の時代は魔術とかつてのゲームだったと言うシステムの応用によってカバンと言うものが基本的にいらない。
バックパックと呼ばれる携帯端末さえあれば限りはあれど持ち運ぶことができる。
まぁ、だからと言ってカバンがなくなったと言うこともないが。ファッションとしてか、それともちゃんと目に映る形で保持していたいか、他にも理由があるかもしれないが……。そういった人達はカバンを持ち歩いている。
「よろしい、では行きましょうか」
そう言ってワープゾーンの中に入る雷斗さんに俺達も続く。
「場所指定、統合第一学園。使用者、紫燕雷斗。同行者、赤間ソウスケ。長谷川ミコト。神崎カイジ」
『……使用者、紫燕雷斗ノライセンス確認。同行者、赤間ソウスケ。長谷川ミコト。神崎カイジ、確認……』
緑色の光の輪が俺達を確認しているのだろう、下から上へと何度も繰り返し移動している。
まぁ、入念にチェックしないと犯罪に使われたら大変だし仕方ないか。
『確認完了、転移を実行します』
やがて、緑色の光の輪がちょうどワープゾーンの真ん中に止まってそのまま俺達を絞め殺すかのように一瞬で閉じたかと思えば目の前が道場のワープゾーンから学校であろうワープゾーンへと変わっていた。
『転移完了イタシマシタ』
「ふー、このワープってのはいつ体験しても慣れねぇわ……」
「そう?私は楽しいけど!」
「いや、これで全く知らない場所に飛ばされたりしたら怖くね?」
「そんなことあるわけないじゃーん?」
「私が座標を全く違うところに設定してればあり得ますけれどねぇ」
「「え?」」
悪戯な笑みを見せる雷斗さんとその言葉に固まるミコトとカイ。
ここでゆっくり話しててもいいんだがそろそろ時間がまずい。
「今の時間は8時2分、15分まであと13分だぞ」
「おっ、そういやそうだったった!」
「ししょ……じゃなくて雷斗先生ありがとうございました!」
「いえいえ、呼び出したのは私ですからね。そうそう、今年からはソウ君はA組。ミコトさんはB組。そしてカイ君はC組となりますのでお間違えないように」
「え、俺達別々なの!?」
それは、初めてだな。
今までずっと同じクラスだったんだけど……
「いつまでもずっと同じでは面白くないかと思いましてね?ご安心ください。それぞれにあなた達の仲がいいクラスメイトを1人ほど配置しておきましたので」
仲のいいクラスメイト……だと!?
陰キャの俺にそんな奴いたか?あ、あいつか?いや、あいつは仲がいいわけじゃないし……
「雷斗先生の担任は?」
「ソウ君がいるA組です」
「えー、私のところじゃないのー!?まぁ、仕方ないか。それじゃ先生、2人とも先行くねー!」
切り替えはやっ!?
言うやいなや走っていくミコト。廊下を走るんじゃありません!
「ミコト、先生に……って」
先生ももういないし!
「行こうぜ、ソウ。遅刻するわけにはいかねぇ!」
「……だな」
残された俺達も新しい教室へと向かうことにした。流石にこんなことで遅刻もしたくないしな。それにしても俺の仲のいいやつって誰なんだろうか……
カイと別れて自分の教室の前で少し立ち止まる。
今まで、ずっと一緒だった2人はいない。
少し、不安だな。
でも、これも始まりだ。
それに今の俺にはゼロもいるし。
よし、深呼吸して教室に入ろう!
教室に入るなり、目に映ったもの。それは女子生徒の塊だった。
…………………
あー、なるほど。
俺と仲がいい奴はお前だったか。
その光景を目にして誰が選ばれたのかはすぐにわかった。
わかったが、それは無視しておこう。どうせすぐ絡まれるから。
えーっと、俺の席は……
『教壇の上に皆さんの名札があります♪それを取ったら好きなところに座ってください。早い者勝ちですよ!雷斗』
………黒板に目を移すとそんなことが書いてあった。
ははは、俺アウトじゃねーですか?こりゃ一番前か……いや、前の方は雷斗先生のことを考えて女子が選挙してる可能性も、ってか、あれ。俺の名札がないんですけど?
「ああ、ようやく来たか。遅かったな、ソースケ」
女子の中心から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
ああ、このかっこいい声はやはりあいつだ。
「安心するがいい。貴様の席は我の隣だ。ふっ、ありがたく思え?」
スッと立ち上がる声の主。
女子達の頭一個以上は高い身長、すらっとしたスタイル。銀色の長い髪と尖った 耳。整った顔。まるでモデルのようなその出立ちは男の俺ですら見惚れるほどだ。
「……やれやれ、進級早々いじめにあったのかと思ったぞ」
「はっはっは!貴様をいじめる度胸がある奴がいるのならば見てみたいものよ……すまないな、女子等よ。今は我の宿敵(とも)と話がしたい。少し離れてもらえるだろうか?」
「「「は、はい!!」」」
優しく囁くように言うと蜘蛛の子を散らすように女子生徒達が散らばっていった。
流石だな。
ルーヴェ・エルフェリア。それがこいつの名前だ。
しかも人ではない、エルフだ。エルフってのは美男美女が多く、皆モデル体型な為人気が高い。
実際、ルーヴェも女子生徒に大人気な生徒だ。
……まぁ、エルフにはそれ以上に驚きな事実もあるのだが。
ため息をわざとらしくついてこいつが勝手に決めた俺の席に座るが、気づいているのかいないのか関係なしに話を進めてくる。
こいつ、残り時間が5分前後だと理解してんのだろうか。
「久しいな、宿敵よ。数週間ぶりか?」
「エルフのお前にとっては数週間なんてあっという間なんじゃないか?」
「たわけ。例えエルフが長命であろうと時の流れの速さは貴様等と変わらん。まぁ、成人すればそうなるやもしれんが、今の我は別だ」
エルフの特徴として挙げるとする大きなものに長命と言うのがある。
噂によると500年は生きるのだとか?子供から成人するまでの成長は一般の人と変わらず、成人してからはその姿を保ち続け、老いていくのはかなり後になってからなのだとルーヴェから教えてもらった。
「そう言えばそうだったな。んで、お前はこの春休み何してたんだ?流石に故郷に帰るとかいう時間もなかったろ?」
「我か?そんなの、決まっているだろう」
ああ、分かってる。
こいつが休みの日にすることなんて一つしかない。そして、これがエルフの驚くべき事実なんだよなぁ。
「積みゲーだ」
真面目な顔をしてこれである。
さて、ルーヴェのことを擁護するわけではないが説明しておこう。
そもそもエルフという種族は閉鎖的だった。
世界が融合した後、彼等は独自の国家を作り完全に政府から独立していたのだが融合後の20年後辺りで事件が発生し、事態は一気に急変する事になる。
エルフとは自然を愛する種族であり、人の森林伐採や有害物質、いわゆる自然破壊に異議を唱え始めたのだ。
そこからまぁ、なんやかんやあって問題は激化。
最終的には人とエルフとで争いにまで発展する事になった。
さて、ここでさらなる問題が発生する。
争いをするあたってエルフ達は魔術などの幻想的戦闘スタイル、人は魔術に加えて近代兵器も持っている。
そう、彼等が問題視する自然破壊も争いによって更に増えてしまうのである。
そんな問題に対して動いたのは他でもない、人だった。
人の全てが自然破壊に疑問を抱いていなかったわけではない、そういう人達とエルフ達が結託し連合軍を作ったことによって争いも鎮静化。
そこに至るまでにおおよそ10年かかったというのだから当時は気が休まることはなかっただろう。
そこからは人とエルフとで協力し合い、クリーンなエネルギーや資源確保などの研究が進んでいき閉鎖的だったエルフ達と人との共存は融合してから100年の年月がかかった。
んで。
そんな共存しているエルフの人達なのだが元々閉鎖的だった彼等には娯楽というものがあまりなかったらしい。
釣りをしたり狩りをしたり本を読んだり……そういった昔ながらの娯楽はあったようなのだが、人の世界にはそれ以上の娯楽と言える娯楽があるわけで。
元々信仰心があるエルフ達はアイドルにハマり、娯楽を知らなかったエルフ達はゲームにハマり、本が好きだったエルフ達は漫画やアニメにハマり……とまるで今までの鬱憤を晴らすかのように娯楽の道へと転がり込んでいってしまったのである。
アイドルにライブとかで容姿端麗なエルフ達がハチマキやらハッピを着てサイリウムを振るう姿はそれはそれは絵になってますよ、本当に。
ちなみに、ルーヴェはゲームと漫画アニメにどハマりしている。
今の喋り方も元々は違ったのだが、とあるアニメの影響らしい。
俺とこいつが仲良くなった経緯はそれだ。俺も良くゲームをするもんで話が合う。
「予想通りの返答ありがとう」
「ふっ、どういたしまして。さて、ホームルームまで時間はあまりない。故に詳しい話は後にするとして……だ。今我が貴様に聞きたいことはただ一つ」
厳しい表情を向けるルーヴェ。
俺に聞きたいこと、こいつがこの前までやっていたゲームは知っている。
そこから繋がるもの。それは……
「俺はメリルちゃんエンドだったぜ?」
その言葉を聞いた瞬間、笑みを見せるルーヴェ。
こいつがやっていた積みゲーとはオトメクエスト2、主人公の男と乙女達が一緒に世界を平和にするゲームだ。
物語終盤に仲間やNPCの選べる乙女とデートをして最終的にはそれぞれのエンディングが存在する。
「ふっ、やはりな。我と被っていたら大問題だった。トリアちゃんは我の嫁だからな」
満足そうに頷くルーヴェ。
いやぁ、周りから見れば何言ってんだこの美形な状態なんだが本人は至って真面目なのでつっこまないでおこう。
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