自己紹介と魔力適性検査
「それでは、皆さんおはようございます。私がこのA組を受け持つことになりました、紫燕雷斗と申します。一年生の時にB組だった子はお久しぶりですね」
いつも笑顔の雷斗さんが挨拶をすると周りから黄色い歓声が飛び交った。
HRの時間になり雷斗さんが入ってきた時もそうだったんだが、この通り、雷斗さんの女子人気はかなり高い。
噂に聞くと雷斗ファンクラブなるものがあるとかなんとか言われており、会員数が四桁いってるのだとか、すごいな雷斗さん。
「あはは、喜んでいただき光栄ですね。皆さんとこの一年、充実した学園生活を送れるように私が出来うることは協力させていただきますのでよろしくお願いします」
また黄色い歓声が響く。
女子共よ、お前らは雷斗さんの怖さを知らないからそんな風に歓声を上げることができるんだぞ……
俺は小さい頃から雷斗さんにみっちりしごかれているのでその厳しさをよーーーく知っている。うん、雷斗さんいつでも笑顔だから尚更怖いんだよなぁ。
「それではまず、皆さんに自己紹介をしてもらいましょうか。一年生の時に同じクラスだった方もいらっしゃるでしょうが二年生になり、クラスも変わって見知らぬ人もいらっしゃるでしょうからね」
……確かに。
数名は同じクラスだった人もいるけど半数以上は別のクラスだったやつだ。
うちのクラスは20名、男子女子それぞれ10名からなっている。
ちなみに最初に教室に入った時ルーヴェの周りには6人ぐらい集まっていた。ほぼ半数だな、すげぇすげぇ。
自己紹介、自己紹介ねぇ。
実は俺はこの学校で少し有名人で、その理由は俺の苗字である『赤間(あかま』だ。元々は俺の苗字じゃなくて孤児だった俺を拾ってくれた親父の苗字なんだが、この苗字は今の日本にとってかなり意味を持つ『守護八家』と呼ばれる家系の苗字だ。
かつてこの世界を救った8人の英雄にちなんで生まれた日本で最強の魔術八家。
名前にはそれぞれ魔術の属性に伴い【赤】【水】【緑】【青】【茶】【紫】【白】【黒】の漢字がついてて、守護八家以外でこの漢字を使用することが禁じられている。
つまり、紫燕の性を持つ雷斗さんも守護八家の1人だってことだ。
俺の赤間は炎を扱う八家の一つで代々の歴史も長く、守護八家が生まれた180年よりも以前から名家として存在していたらしい。
ただ、俺にとっては全く関係ない。
さっきも言ったけど俺は元々孤児で、赤間系の親父に拾ってもらっただけだ。
炎の魔術どころか魔術の素質もないので赤間の性を持ちながら赤間にふさわしくない存在になっているわけだ。
だから親父が3年前に死んでからは赤間の家に居づらく、家から出て雷斗さんのところで一年ほどお世話になっていた。
高校生になってからは雷斗さんが用意してくれたマンションに住んでるんだけどな。
そう言うのもあって赤間の性は否が応でも目立ってしまうのだ。
だからこの学校で俺は有名人となっている。守護八家の赤間なのに魔術が使えない……と。
まぁ、有名な理由はもう一つあるんだが、それに関してはあまり話したくはない。
「それではせっかくなので席の順からいきましょうか。前の扉の方から後ろへとお願いします」
席順か、出席番号でいくと最初は俺になるだろうから雷斗さんが配慮してくれたのかもな。
今の俺の席はちょうど真ん中ら辺なので順番的には8番目だな。ちなみに俺の左手側にはルーヴェがいる。勝手に俺の名札を置いた犯人であり、そのおかげで辺な場所に座らなかった功労者でもある。
そんなこんなで次々と普通の自己紹介が行われるなか、ついに俺の出番が回ってきた。他のやつの自己紹介?興味がなかったのであまり聞いてない。
まぁ、適当にやればいいか。
自己紹介するために立ち上がると一瞬にみんなの視線がこっちに向く。当たり前だ、あまり深く考えるな。
「赤間ソウスケです。よろしく」
「もう一言ぐらい欲しいですねぇ」
そう言って座ろうと思ったんだが雷斗さんに止められてしまった。いや、まぁ確かに他のクラスメイトは何かしら一言あったけどさ。
「あー…………っすぅ。なんだ。あまり人と話すのが得意じゃないけど、そのー……出来るだけ話すのが上手くなりたいと思ってます。よろしくお願いします」
……………………
え、なにこの間?と思った瞬間にクスクスと聞こえる笑い声。
あれ?俺なんか辺なこと言った!?
「ふっはっはっは!!話すのが上手くなりたいのならば、我が助けてやるぞ。ソウスケ?なーに、元々素質はあるのだ。まずは相手に興味を持つところから始めるが良い!!」
そして隣で大笑いして話し出すルーヴェ。
声がでかいんだよお前はっ!!
「ふふふ、いい自己紹介でした。それでは次に行きましょうか」
雷斗さんも笑ってるー!?
なんだよ。良いじゃんかよ。そっけないと思われてると思って気にしてるんだぞこっちは。あまり人とは関わりたくないけど、流石にこのままじゃ将来とか不安じゃない?じゃない?
はぁ、自己紹介ってやつは本当に苦手だ。
ちなみに、その後ルーヴェの自己紹介で黄色い歓声が響いたのは言うまでもないが、ムカつくのであえてスルーさせてもらう。
「さて、自己紹介も終わりましたし。次は体操着に着替えて魔術適性検査と身体測定がございますので準備をお願いしますね。着替えが終わり次第、時間が来るまでに第一魔術研修室に来てくださいね」
そう言って教室をでていく雷斗さん。やれやれ、朝で一気に精神削られた。
「良い門出ではないか、ソウスケ?」
「顔がニヤついてんぞ、ルーヴェ」
「ああ、面白かったのでな」
こんちくしょうめ。
「ソウスケ君っていつも無表情っていうか、ムスッとしてるからあんなこと言うなんてちょっと驚きでした」
そう言って話しかけてきたのは朝にルーヴェを取り囲んでいた女子の1人、名前は確か蘭頼三栖華(ららいみすか)だったか?
メガネが似合う黒髪セミロングの女子だ。
「そーそー、なんか話しかけづらいっていうかさー?」
俺の机に勝手に頬杖ついてきたのは宝城仁阿(ほうじょうにあ)ウェーブかかった金髪のちょっと陽キャ間マシマシの女子だ。
おいおい、急に話しかけてくるじゃん。怖いんだけど。
「………まぁ、話すのが苦手なのは事実だよ」
「ふはは!!案ずるな、女子よ。こいつは超がつくほどのお人好しだ。ただ性格に難はあるがな」
上げてから下げるなって。というか俺はお人好しでもないですよって。
どこからお人好しなんて言葉が出たんだよ。
「ルーヴェ様と親しくてるけれど、どんなお話してるんですか?」
様?三栖華さん今様とおつけになりましたか?こいつに様は……意外としっくりくるな。
「ほう、我等の話が気になるか女子よ。良かろう!ならば話してやろう!」
「いいや、ちょっと待て。流石にその話は時間がかかりすぎる!」
それにルーヴェに対する意識がおかしな方向にいく!女子の夢を壊してやるな、ルーヴェ!!
「んー、私もちょい気になるんだけどー?」
「……機会がある時でいいだろ。今は次の準備もしなきゃだ」
「確かにそうだな。シエンライトは優しさと厳しさを兼ね備えたものだ。遅れてしまっては何があるかわからん」
真面目な顔をして焦ったようにバックパックから体操着を取り出すルーヴェ。
ルーヴェって雷斗さんに対してかなり敬意を払ってるんだよなぁ。
「それもそうですね。では私たちも着替えます」
「おっけー、その話。ちゃんと聞かせてよね?」
そう言って2人は教室から出て行った。女子は女子専用の更衣室があるのでそっちへ向かったのだろう。
「ソウスケよ」
「……なんだ?」
「眼鏡の女子の名前はなんだ」
着替えながら妙なことを聞いてくる。
ずっと話してただろう、お前。
「蘭頼三栖華だろ、自己紹介でそう言ってた」
「ふむ、ではもう1人は?」
「宝城仁阿だ」
「くくく、そうか」
着替え終わったルーヴェ。俺も同時に着替え終わったのだが、やけに笑顔だな。
「なんだよ」
「我はそれなりにちゃんと自己紹介を聞いていた。だが、明確に覚えるまでに至らなかった」
「記憶力がないようだな」
「人の名前が覚えにくいだけだ。何ならここで我の記憶力を試すか?」
「遠慮しとく」
「良い判断だ。……話を戻すが見るからにちゃんと聞いていなかった貴様はちゃんと覚えていた」
……む。
「そういうところだ。貴様の人のよさの一つよ」
満足そうに移動を始めるルーヴェ。
確かに、人の名前は一度聞いたらなんとなく覚えてる。それはまぁ……そう言えば何でだろうな。
自分のことは自分がよくわからないとはいうが、今回は納得せざるを得ない……か?
悩んでいてもしょうがない。モヤモヤする気持ちを胸に押さえ込んでルーヴェの後をついて行くことにした。
移動中、カイとミコトに会うかとも思っていたんだがどうやら先に移動してたらしく会うことはなかった。行く間はずっとルーヴェと三栖華と仁阿と他愛のない話をしていたのだが2人は大丈夫だろうか。
まぁ俺とは違って人付き合いはいい方。なんだかんだで今の俺がうまくいってるんだから心配する必要もないか。
「あー、魔力適性検査やだなー。私ってそんな高い方じゃないしぃ。エルフェリアのルーヴェって魔力適性やばいんじゃない?」
「ああ、我はSに達していたはずだ」
気怠そうに仁阿がいう。
おおよそだが、仁阿の魔力適性はCと言ったところかな。
それでもCあるんだから誇っていいと思う。ここに魔力適性なしの男がいるんですよ?
ちなみにエルフェリアってのはエルフのことを言う。
ルーヴェの苗字でもあるがエルフはみんな苗字をエルフェリアに統一しているのだ。
したがって本名も違う。
ルーヴェ・エルフェリアとはあくまで俺達と暮らす中での偽名であり、その本名は基本的にエルフェリア以外の人には教えてはいけない決まりとなっているらしい。
だからもちろん俺もルーヴェの本名は知らない。知るつもりもないしな。
「エルフェリアの人達は魔力適性が元々高いんですもんね」
「その通りだ、ミスカ。エルフェリアは最低でもBを下回ることはない。基本はA、高いものでSといったところか」
「うげぇ、耳が痛いわぁ」
……耳が痛いわぁ。
「生まれの差だ、ニア。気にすることもなかろう。そこに魔力適性が全くない奴もいる」
「そこで俺に振るのかよ」
「でもでもー、そーすけってなんか強いんでしょ?私も動画見たけど凄かったじゃん!」
「……あー」
「ふはは!その件に関してはこの学園内に知らぬものもあまりおらぬだろうよ。人気者だな、ソウスケ」
動画の話しちゃいます?あまりしたくないんですけど。
「あ、着きましたよ。第一魔術研修室」
「えー、着いちゃったじゃん……話してるとあっという間」
助かった。このままあの動画の話になってたら俺的には少々気まずいんだよなぁ。
俺達が到着するとA組のみんなはほぼほぼ揃って談笑していた。
既に雷斗さんも来てて女子生徒から話しかけられている。
元々同じクラスだった生徒もいるのだろう、分かりやすくグループがもう出来上がっているみたいだ。
「予定の時間まで後少しです。遅れずには来れましたね」
「私は来たくなかったー!」
諦めろ、これは絶対にやらなきゃいけないことだからな。
魔力適性検査は一ヶ月に一度する義務となっている。
目の前に置かれている水晶玉に適性者が触れるとそれぞれの属性の色に光る仕組みになっており、そこから適性者か否かと得意とする魔術の属性がわかるようになっている。
適性がない人が触るともちろん何も反応がないと言う仕組みになっているわけだ。
適性値はCからSまであり、輝きが大きければ大きいほどその数値は高くなる。
ただ、適正値が高いからと言ってすごい魔術が使えると言うわけではない。
魔術が使いこなせるかどうかは適正値とは別に魔術ランクとして分けられる。
これもCからSまであり、適正値がCでもAのランクを持つ魔術師もいれば適正値がSあるのにBしかない魔術師だっている。
俺のクラスにはざっと見たところ20人いるうちの13人は魔力適性がある生徒がいて仁阿はC、三栖華はA。ルーヴェは文句なしのSってところだろう。
「あっぶねぇあぶねぇ、魔術研修室が分からなくなって迷っちまった!」
「もー、あんたに着いて行くとろくなことないにゃ!」
最後の2人がダッシュで研修室に来たところでようやくA組は揃ったようだ。
2人とも獣人だな。見た感じ猫っぽいのと……狼かな?
「さて、皆さんようやく揃いましたね。時間もギリギリではありましたが間に合ったようですので早速始めましょうか」
さて、と言うことで始まった魔力適性検査なのだが、うちのクラスはエルフはルーヴェのみ。
それと先程の獣人が2人と小人が1人とドワーフが1人。後はみんな普通の人だ。
一般的に獣人は魔術適性があまりない、小人は適性はあるが適性値が低い。ドワーフは適正値が低いのと炎と土の魔術しか使えないと言う特徴がある。
人はと言うと多種多様、適性が高い人もいれば全くない人もいるし、得意な属性も様々だ。
ただ、強いて言うと光と闇の魔術適性者は限りなく少ないらしい。
……少ないはずなんだがな。
既に魔力適性検査は始まっている。俺も含め、魔力適性がないのは7人。その中には先程ギリギリできた獣人2人も入っていた。
ルーヴェは適性値S。緑色に光り輝いているので適性属性は風なのだろう。
仁阿は適性値C、淡く水色に輝いているので水属性。
問題は三栖華だ。
俺の予想では適正値はAだろうとは思っていた。結果は見事的中のA。ただ問題がその属性だ。
「ふむ、白く輝いていますね」
「あ、はい……そう見たいですね」
白く輝いている。つまり彼女の属性は光だ。
現在、魔術適性を持っている人間は50%と言われている。
その中でも光と闇属性は1%ほどだと言われている。それぞれ1%じゃない、合わせて1%だ。
んで、その1%が今目の前にいる。まじかよ?
「ただ、私使えないんです。光の魔術。だから今までも適正値が高くて光の魔術の適性があるけれど結果としては意味がないんです」
あー、なるほど。
先ほども言ったが適正値が高くてもそれが実際に魔術ランクに繋がるわけではないと言ったのはこれだ。
理由は様々だ。強力な力に身体がついてこないとか使い方がそもそもわからないとか。
使うのはあくまでもその人自身だからな。力の使い方が分からないのも無理はない。
「お気になさらず。確かにあなたの素質は素晴らしいものです。ですが無理をしてそれを使いこなす必要もないでしょう」
「は、はい!ありがとうございまひゅ!」
あ、噛んだ。
「三栖華って小学生の時からこうなんだよねぇ」
ん、仁阿は知っていたのか。
「私って昔から三栖華と家近かったからさー、色々と知ってんの。昔はまだ適正値Cだったけどその頃から光属性の素質はあったっぽいよ?」
「光の魔術を使える者は我らエルフェリアには存在しない力だ。その力の強大さゆえにミスカはまだ扱えぬのだろう」
へー、エルフって光魔術使えないんだ。
それも知らなかった。
「さて、それでは次は身体測定です。統合科2年合同で行いますので他のクラスの迷惑にならないように生さんはAグランドの方へと向かってくださいね」
お、次は合同でやるのか。カイとミコトに会えるな。
「なにやら嬉しそうではないか、ソウスケ」
「……そう見えるか?」
「見えるとも。カイジとミコトに会えるのが嬉しいと見える」
まぁ、間違っちゃいないけどな。
いいだろ、今までずっと一緒にいたんだから離れ離れになるのはやっぱり少し寂しいんだよ。とは口が裂けても言えない。
「どうだろうな」
「カイジとミコトってソースケがいつも一緒にいた子っしょ?結構人気だったから私も知ってるー」
「はい、ミコトさんはとても綺麗で優しいお方ですし、カイジさんはとても元気な方です」
え、人気なの?というかこの4人で動くのが当たり前になってきたな。
「本人達は知らない、って感じ?まぁそうでしょーね。正確にはソースケも合わせて3人が人気なの」
「……え、マジ?」
「マジマジ、大マジ。ミコトとカイジは普通に話盛り上がるから学園内でもよく話してる生徒多いし、ソースケはほら、苗字のこともあるし例の動画もあるから話しかけないにしても気にはなってる人多いじゃん?私も実際今回の自己紹介聞いて話しかけてみたわけだし。でも3人一緒にいると邪魔しちゃいけないって思って話しかける事ないんだよねー」
あー、それは知らなかったな。
3人一緒にいるとそれはそれで広がらない世界もあるってことか。
「我は気にしていなかったがな!」
そうね、お前はそうよね。
こうして他のクラスメイトと話す事で分かることもあるわけだ。
そう考えれば、別々のクラスになるのも全然悪くはない。
そしてより一層、2人に会うのが楽しみになってきた。カイとミコトは今の俺を見て何を言うんだろうか。Aグランドへ4人で向かいながらそんなことを思っていた。
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