第18話 ラブコメ詰め合わせ
開け放たれた窓から差し込む光が埃に反射してキラキラと輝いている。埃なのにキレイだと思うのはおかしな話だ。
ガラッ
勢いよく開けられた教室の扉からキレイな坊主頭が輝いている。
「……どういう状況だ?」
風紀委員長のひふみんが頭にハテナを浮かべながら、教室の奥に設置された畳に正座させられている俺に近づいてくるが、直前に何かを察知して後ずさった。
「ひーくん、おつ!」
ひふみんの死角から現れたのは3年生の女子3人組。人呼んで『まいまいを見守る会』の皆さんだ。ひふみんの女嫌いは学校中に知れ渡っているため、特に同学年の女子からはよくいじられている。
「お、おう。お疲れさん。で、お前なんで正座させられてるわけ?」
まいまいを見守る会のA子さん、B子さん、C子さんを避けるように俺に近づいてきたひふみんが笑いを堪えながら聞いてくる。
「ちょっとモブ男。だれがB子よ?」
「そうよ、C子ってひどくない? 自分だってせいぜい村人Aのくせに」
おかしいな? 声には出していないはずだぞ? そんな中、A子さんだけは気まずそうに視線を彷徨わせている。
「
「あ、いえ」
なんとも気まずい。
ちなみにB子さんは
「まいまいが学校の風紀を著しく乱す生徒を連行してきたから説教してる最中なの」
「そうそう。モブ男のくせにまいまいに気に入られて調子に乗って他の女にも手を出した破廉恥ヤローをとっちめてるのよ」
「痴漢野朗め」
腕組みをしながら俺を見下している見守る会のお姉さんたち。そのポーズ、ちょっと凝視できませんよ?
「はん? ノブが広瀬以外に痴漢したってことか?」
ひふみんはアゴに手を当てながら覗き込んでくる。
「いや、してないっすよ。ってまいにもしてないっすからね?」
広瀬以外にってラッキースケベすら未経験だわっ!
その渦中のまいだが、少し離れた席に突っ伏しながら悶えている。時折「あうう〜」やら「やらかしちゃた」と聞こえてくる。
「まあまあ、ノブがそんなことしないとは思っちゃいるが、で、あっちはどうした?」
親指でクイクイっとまいの方を指しているのでことの経緯を話した。
「なるほど。まわりの生徒が見守る中、バカップルのように腕を組んできてたのはいいが、着いた途端に恥ずかしくなって悶えてるわけな」
終始、胸が当たっていて柔らかかったという感想は隠しておいた。
「ちょっとひーくん。まいまいは勇気を出した結果なんだからね?」
「そうそう。この唐変木が調子乗ってるのが悪いんだから」
「そうそう。もっとまいまいを大切に扱いなさい!」
まいまいを見ていた先輩たちがクルンと俺に向き直った。遠心力で短いスカートがふわり。正座により普段より目線の下がっている俺の目の前に———、お花畑が広がる瞬間に小さな身体が視線を遮った。
「よ、邪なオーラが信平くんから漂ってきました!」
さっきまで悶えていたはずのまいがラッキースケベ回避のために瞬間移動をしたのか? 視覚は完全に塞がれ顔全体が柔らかいものに覆われており、良い匂いまでする。
「きゃっ! まいまいダイタン!」
「あちゃ〜、まいまいサービスしすぎよ?」
「……ぱふぱふ」
前に立つとか、手で押さえるとか他にも選択肢はあったはずなのに、まいが選んだのは最高難易度の技だった。
正面から覆いかぶさるように抱きつかれている。
どこに触れてもだめなような気がして固まるしかないのだが、まいから離れる気配もない。
耳に伝わる早鐘のような音。当たり前のことながらまいだって緊張してるのだろう。
「お〜、その、広瀬? 誰も獲らないからそろそろ離してやってくんない? それにほら、風紀委員が積極的に風紀乱しちゃまずいだろ?」
動けない俺たちにひふみんが緊張ぎみに話しかける。ホントにこの人、女苦手だな。
「ひゃ、ひゃい!」
しばらくして冷静さを取り戻してきたまいがパッと離れようとしたが、慌てたためにバランスを崩した。
「きゃっ!」
後ろに倒れそうになるまいの手を引くと、想像以上に軽く勢いよく抱き寄せてしまった。
「わ、悪いっ!」
外界より一足早く夕焼けを迎えたような顔色で固まるまいが、そろりと顔を上げて視線がぶつかる。
「ご、ごめんなさいっ!」
焦ってわたわたと立ちあがろうとするが、気が急いているわりに身体は動いておらず、途中でバランスを崩し倒れ込んできた。
ちゅっ
「「……」」
ラブコメ要素詰め合わせました! と言われてもおかしくない展開。
微かに触れた唇と唇。
膝立ち状態のまま人差し指で確かめるように唇をなぞっているまい。
触れた、のか? まいのように唇を確認しても確証は持てない。でも、当事者の2人が同じ仕草をしているということは———。
「ちょっとまいまい。大丈夫?」
「こらっ、モブ男! 公衆の面前で抱きしめるとはやるじゃない!」
「まいまい、白」
他の人からは死角だったらしく、抱き寄せたことだけが話題になっている。
「2人ともぶつかってないか?」
ただ一人、俺たちの真横にいたひふみんだけは意味深な聞き方をしてくる。
ぽ〜っと視点が定まらない様子のまい。
俺もどう答えていいかわからないが「大丈夫」とだけ答えておいた。
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