第14話 激突
「はいっ、マサくんの好きな唐揚げだよ。あ〜ん」
「ちょ、自分で食べるからっ」
昼休みの教室内は混沌としていた。
色分けするのであれば嫉妬渦まく黒色グループ。
「あの野朗! ウチのクラスじゃないくせに!」
「チッ! ウチのマドンナの白鷺さんを独り占めしやがって!」
女子を中心とした温かく見守るオレンジ色グループ。
「ブレないね、鏡花」
「ホント、なんであんな男がいいんだろうね」
一般的にモテるやつは同性に嫌われる傾向があるが、きょうは違う。
なぜって? それはまわりの女子があまりライバル視しないからである。
入学当初から注目を集めていたきょうだが、昔から真斗一筋。隠すこともしないから女子としてはさっさとくっつけや。と思っていることだろう。その反面、男子は真斗が相手ならワンチャンあるかもと思っているみたいだ。
「……うん。きょうちゃんに負けてられないもん」
隣のピンク色に侵食されてきたのだろうか、まいが卵焼きを箸で掴むと、俺の口元に運んできた。
「の、信平くん。あ、あ〜ん」
ウルウルと見つめられ思わず息をするのを忘れてしまいそうになるが、俺は知っている。長引かせる方がやばいと。
「ん」
パクっと口に入れ咀嚼すると、ほんのりと甘さが広がってきた。
「⁉︎」
あまりにも簡単に俺が食べたのが意外だったのか、まいは思わず箸を落としそうになっていた。
「うん。うまいうまい。やっぱり土曜日の弁当はまいだったんだな。改めてサンキューな」
見た目は少々不恰好だが、手間をかけて作ってくれたのはわかる。味も悪くない。
「あ、はいっ。信平くん、お昼は大体パンだって聞いてたので、よければ毎日作ってきます!」
ギュッと両手を握り締めながら身を乗り出してアピールしてくるが、さすがに毎日作ってもらう訳にはいかない。
「いや、さすがに悪いって。材料費だってかかるんだから」
「最近、アルバイト始めたので大丈夫です。それに自分の分も作ってるので全然問題ないです」
「いやいや。稼いだお金は自分のために使いなよ」
「使ってます!」
えっと、それは俺の胃袋を掴むためってことでしょうかね?
「まあ、なんにせよお礼はするよ。俺もバイトしてるからなんか奢るってカタチて———」
「デ、デート……」
「いや、え? あ〜、そう、なのか?」
両手で頬を覆いながらも、ニヤニヤとうれしそうな表情をするまい。
これは奢ってもらえるのを喜んでるわけじゃないよな?
「ふふっ、じゃあ、お弁当は私の分をお裾分けするってことにします。それなら信平くんも遠慮する必要ないですよね?」
ちなみに、今日も俺はパンを用意してきていた。それじゃあ足りないでしょ? とまいが分けてくれている訳だが、はじめからそのつもりで多めに作ってきてくれていることは明白だ。
おとなしいと思っていたが、中々攻撃的な性格らしい。
「無理はしないでくれよ? あと、隣のアレは参考にしないように」
視線で隣を見ろと誘導する。
「ちょっと鏡花、箸返せよ」
「だ〜め、マサくんには箸なんて必要ないでしょ? ほらっ、時間なくなっちゃうから早く口開けて? ノブくんなんてパパっと食べちゃってたよ?」
真斗の箸を取り上げたきょうは、半分くらいは残っている弁当を全て食べさせるつもりらしい。というか、さっきのしっかりと見てたのかよっ!
「ノブくんは平気かも知れないけど、俺は気にするの!」
いや、俺だって普通に恥ずかしいけど?
「間接キス気にしてるわけじゃねぇんだろ? 長引かせるだけ恥ずかしくなるからちゃちゃっと食べちまった方がいいぞ」
まいのうれしそうな表情を見ながら、お手本を示すように口をパクっと開く。
「ぐぬぬっ! あいつ平然と広瀬さんにあ〜んしてもらいやがって!」
「代われ! どっちでもいいから代わりやがれ!」
……結果は一緒だった、いや違うな。このうれしそうなまいの表情を見れたことを考えれば拒否はないだろう。
「ほらほら、ノブくんを見習ってみようか?」
「裏切り者〜」
ヤケクソぎみにパクパクと食べている真斗をうれしそうに見つめるきょう。
やっぱラブコメ見るならアリーナだな。
「あ、あの信平くん」
「ん、どうした?」
空になった弁当箱をトートバッグにしまったまいが、何かを期待するような目で見ている。
「土曜日は午前中アルバイトが入ってるんですけど、お昼からは空いてます。日曜日はきょうちゃんと買い物にいく約束を———」
「デート優先でいいよ」
完食させられて満足顔のきょうが、隣から声をかけてきた。
「えっ? で、でも前から約束してたし」
「サッカー部、土曜日また試合でしょ? だったら日曜日は休みのはずだから。チャンスを逃しちゃダメだよ?」
人差し指をクロスしてかわいくバッテンをしたきょう。
「あ、うん。ごめんね、きょうちゃん」
「気にしないで? ねっ、マサくん。そういうわけで日曜日はフリーになりました。私たちもデートしようね!」
こいつ、はじめからそれが目的か? と思ってしまうような切り替えようだが、まいが気にしなくてもいいように振る舞っているだけだろう。たぶん。
「ちょっとノブくん? 流れ弾が飛んできたんだけど!」
「しらねぇよ」
♢♢♢♢♢
「最後はPKの練習で締めよう」
放課後の練習の終盤、普段なら練習メニューに口を出してこない延平がそんなことを言い出した。
この前の試合ではPKまでもつれ込んだから一理あるっちゃあるんだけど、こいつの考えは別のところにありそうだ。
そう思いながらグラウンドの隅に視線を向けると、まいが制服姿でじっとこっちを見ていた。練習が始まってからずっとだ。よく飽きないな。
チラリとまいを見た延平の口角が上がったように見えた。
PKはキッカーが有利だ。俺を貶めて自分をよく見せようという魂胆だろう。浅はかなやつだ。
反対意見もなく仕上げにPKをすることになった。
うちのチームのキーパーは俺を入れて3人。1人ずつ交代でゴールマウスに入る。
まあ、あいつは俺の番に蹴ってくるんだろうなとフラグを立てていると、周りにアピールするかのように指先でボールをクルクルと回しながら延平がやってきた。
「さて、と。どっちが主役かハッキリとさせてやらないとな」
ボールをセットした延平が腰に手を当てながら自信満々の表情で呟く。あ、モブキャラだって自覚はあるがそのラブコメの主人公はお前じゃねぇぞ?
助走に入った延平を見て、頭に浮かんだイメージ通りに右に少し動くフリをした。
「はっ! 無様に倒れてろよ!」
ザッとつま先を地面に突き立てるようにした延平の右足から放たれたボールがフワリと俺の胸元に飛んできた。
自分の方が上だとまいに見せつけたかった延平。単純に蹴ってはこないだろうと思ってたが、ホントにチップキックをしてくるなんてな。わかりやすい性格で良かったぜ。
タネがバレて失敗した時のチップキックほど無様なものはないだろう。
悔しさで表情を歪める延平はクールダウンもせずにグラウンドを後にした。
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