第11話 ひとの数だけ

 日曜日の昼下がり、私の好きな人たちとの楽しい時間は満足の言葉で片付けられらないほど貴重な時間になった。


 隣には大好きなマサくん。

 人前だと照れて素っ気ないフリなんてしちゃうけど、ちゃんと私のこと気にかけてくれてるのは知ってるよ?


 後ろには親友のまい。

 学校だとおとなしい印象だけど、今日は積極的。ううん、今日だけじゃないか。最近のまいはびっくりするくらいに積極的だ。

 原因はまいの隣にいる私の幼馴染、ノブくん。コイスルオトメは人を積極的にするのね。まあ、それは私も分かるけどね?


 まいとの出会いは高校に入学してから。同じクラスに見つけたかわいい子。身長は低いのに、すぐに見つけられるくらいの存在感。

 仲良くなりたくって私から積極的にアプローチしたね。はじめは警戒されてたみたいだけど、徐々に心を開いてくれてGWが終わる頃には一緒に出掛けてくれるようにもなっていた。


 そんなまいが変わったのが夏休み明けの実力テストが終わったころ。


「きょうちゃんって、元木くんと仲良いの?」


 お昼休み。私もマサくんもクラスに馴染む時間が必要だと思い、しばらくはクラスメイトと一緒にお弁当を食べていた。


「もときくん? え〜っと噂の人かな?」


 隣のクラスの延平元輝くんがかっこいいとクラスの女子が騒いでたはず。

 マサくんと同じクラスで仲がよく、一緒に話す機会はあるけど、私自身が仲がいいわけではない。


 そっか〜、まいはメンクイさんなんだ。


「噂? えっと、たまに怖がられたりしてるみたいだけど———」

「オーケー、その元木くんね。元木信平くん、だよね?」


 そりゃ、マサくんの次によく知ってるわよ。胸張って仲良し……って言ってもいいよね?


「う、うん」


 ぽっと頬を赤らめた親友を見て恋愛センサーがピコンと反応した。

 

 春! あのノブくんにやっと春がきた!


 大きな身体に鋭い目つき、声も低いものだから昔から怖い人と勘違いされがちだけど、本当は優しい人。努力もできるし、思いやりもある。


 私の自慢の幼馴染だよ。


「むふふふ。幼馴染なんでよく知ってるよ? まいはノブくんの何が知りたい?」


 周りをキョロキョロと確認したまいは、そっと顔を近づけて小さな声を出した。


「えっと、好きなものとか、かな?」


 何それっ! かわいい!


「うんうん! 好きな人の好きなものは———」

「わぁぁぁあ〜、き、きょうちゃん、声大きいよ。私、好きな人なんて言ってないもん」


 小さな両手で私の口を塞ぐまいは、顔を真っ赤にして焦っている。


「へぇ〜、好きな人じゃないんだ。ふぅ〜ん」


 素直じゃないなぁと言いたいところだけど、その反応を見れば誰だってわかると思うよ?


「も、もう! からかわないでよぉ」


 ふしゅ〜と頭から湯気がでそうなまいが涙目で訴えてくる。


「あははは、ごめんごめん。ほらっ、ノブくんてあんな見た目だし、勘違いされることの方が多いから。ちゃんと見てくれる人がいるのがうれしくって。しかも、それが親友だなんて尚更ね? だから、まいも変に誤魔化したりしないで欲しいかなぁ」


「う、うん。ごめんね」


 涙目で上目遣い! 我慢できずにまいの小さな身体を抱きしめる。


「かわいい!」


「ふっ、きょふひゃん!」


 小さなまいの顔は私の胸の間にすっぽりと収まってしまった。


「なにやってんだ、お前」


 じたばたするまいに構うことなく頬擦りしていると、頭の上から呆れた声が聞こえた。


「はれっ? ノブくんだ」


 一瞬、びくりと胸元が震えたが、まいはじっと身を固めて固唾を飲んでいるようだ。


「ん」


「珍しいね。教科書でも忘れたの?」


 ウチのクラスにノブくんと仲良い子いたかな? と思いながら教室内を見渡す。

 なぜか、男子のノブくんを見る目が鋭い。


「それだったら真斗にでも借りるわ。そうじゃなくて広瀬ってこのクラスだろ? いるか?」


ノブくんがきょろきょろするが、灯台下暗しだよ。


「ふ、ふぁい!」


 自分を探してるなんて夢にも思わなかったんだろう。焦ったまいが私の胸元で慌てて顔を上げたので、その拍子にボタンが一つぷちっと外れた。


「ちょ、ちょっとまい!」


 キャミを着ているのでブラが見えちゃうようなことはないんだけど、乙女の身だしなみというか、とっさのことに慌てて胸元を押さえた。


「「「お〜!」」」


 めざとく見ていた男子から上がる歓声。騒がれるのはさすがに恥ずかしい。


 目の前の出来事に気づいたまいが、慌てて隠そうとしてくれたが、その前にすっとノブくんが回り込んでくれた。


「「「ちっ!」」」


 ギロリ


「「「……」」」


 不満そうに舌打ちをした男子にノブくんがひと睨み。睨まれた男子たちは顔を背けて俯いた。


「あ、ありがとう」


「いいからはよボタン留めろよ」


 そっけなく答えるノブくんのことを、まいがぽ〜っとした顔で見つめている。


 あ〜、これは完全にオチてるね。


 fall in loveね、fall in love


「ノブくん留めたよ。こっち向いても大丈夫」


 クルリと振り向いたノブくんの視界にぽ〜っとした顔で見つめるまいが入る。


「ん? 広瀬、顔赤いけど体調悪いのか? 仕方ねぇな、今日の当番誰かに頼んでおいてやるから、早く帰れよ」


 ノブくんは右手に持っていた風紀委員と書かれた腕章をクルクルと指先で回しながら教室を出て行った。


「お〜い、まい? 大丈夫? もうノブくん行っちゃったよ?」


 固まったままのまいの顔を覗き込みと、さっきまで赤かった顔が、サーっと線を引いたかのような表情になっている。


「……な、なんで〜!」


 思えばこの時からまいの受難が始まったのかも知れない。


 


 

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