第6話 主人公シュート
やばいなぁ
試合展開のみならず、応援イベントも現状ポイントが稼げていない。ともすればハーフタイム中のベンチ内、主人公真斗の表情は暗くても当然だ。
前半終わってスコアは0-1。
「真斗! なに暗い顔してるんだよ! 後半で挽回してやろう!」
親友枠のイケメンエースが真斗の肩を叩きながら鼓舞している。
この試合展開、お前のせいでもあるからな?
前半に何があったかというと、残り時間5分を切った魔の時間帯。ペナルティエリア外から苦し紛れに打った相手のミドルシュート。威力はそこそこだったがコースが甘く、俺が正面で楽々キャッチできるはずだった。
「任せろ」
コースに回り込んだ俺は周りに声をかけて構えていたが、ボランチで出場していた真斗が横から勢いよく滑り込んできた。
「あっ!」
結果、真斗の足に当たったボールはコースが変わりポストに当たりながらもネットを揺らした。
積極的なプレーだったし、公式記録でもオウンゴールにはならないだろう。まだハーフが終わったばかりだし、イケメンが言っているように十分挽回できるだけの時間は残っている。
それでも、高校に入っての初スタメン。観客席には白鷺。真斗がこの試合にかける意気込みは相当のものだろう。
……あれか? 負けて落ち込んでいるところを優しく励ましてもらうイベント。
『こんな時、優しい女の子なら黙って優しくキスするんじゃないか……』って某青春野球漫画の名言が飛び出すのか⁈
……それはそれでラブコメ的にはありよりのありだが、俺としては勝ちたい。
そもそもだ、この劣勢な状況を作っているのは無謀なドリブルを仕掛けてはカウンターをもらうキッカケを作っている延平に問題がある。
普段ならパスを出す場面でもドリブル。しかも自分からわざわざディフェンスの密集地帯に飛び込んでどうするんだよ?
蝶のように舞い、蜂のように刺して
「おい、元輝。試合に集中しろ」
スパイクのヒモを結び直しながら諭が注意した。最後尾の俺以外にも気づいてるやつがいるレベルだ。
「何? ちゃんと集中して———」
「集中しやがれ」
有無を言わさない諭の物言いに延平も黙り込む。さすが次期主将、俺とは一味違うモブだな。
「マサもさっさと切り替えてくれ。守備は任せていいから後半はそのバカのサポートをしてやれ」
顔を上げた諭がアゴで延平を指す。
「そういうこった、アンタは顔上げな。それとも、優しいおねーさんがおっぱいの間に埋もれさせながら頭をヨシヨシしてやろうか?」
真斗の背後に金髪が見えた。
「
校則無視の見た目ヤンキーなのだが、成績は優秀らしく先生たちも対応に困っているらしい。
「せっかくのスタメンなんだから縮こまってんなよ。緊張してんならアタシが解してやろうか?」
真斗の股間目掛けて手をワシワシと動かしている。下ネタ上等らしい。
「埋もれさす胸なんてねぇくせに」
Tシャツ姿なので、慎ましい膨らみが哀愁を漂わせている。
「ああん? なんだってモブ? 言いたいことがあるならハッキリ言いな」
眉間にシワを寄せ拳を握り締めながらゆっくりと俺に近づいてくるカノちゃん。
この人は俺がモブであることをよく理解している。
スパイクのヒモを結び直すフリをしながら視線を逸らすと、腰に手を当てながら覗き込むように睨みつけてきた。
「モ〜ブ〜?」
威圧感のある呼び方に、こっそりと顔を上げると、首元の緩いTシャツの奥に水色のフリルのついたブラがチラっと見えた。
「うぉおぉぉぉ〜!」
サイズは関係なかった、秘めたるものというものは男心をくすぐって止まない。
「にひひひひ。どこ見てんだよ、このムッツリスケベ」
完敗だった。どうやら俺は手の上で転がされてるだけだったようだ。
しかし、しょうがない。それが男の性ってもんだろ。
「くっ! ありがとうございました」
敗北を認め深々と頭を下げると「きめぇよ」と笑われた。
後半が始まると真斗はハーフタイムで切り替えができたのか、持ち前のプレッシングがでてきた。
延平はまだ独りよがりなプレーが見えるが、真斗が衛星のように動き回りサポートすることで、なんとか攻撃の糸口が見えてきた。
「マサくん、がんばれ〜!」
観客席から白鷺の透き通った声が聞こえる。無論真斗にも聞こえ、後半だというのに動きが良くなった気がする。
白鷺の応援が効いたのか、真斗が主人公パワーを発揮する。
後半残り10分を切ったあたりで、観客席をチラリと見ながら延平が無謀な中央突破を図る。ディエゴにでもなったつもりだろうか? 一人をスピードで躱したのだが、二人目のショルダーチャージを受けたところでボールをロストしてしまう。
「しまっ———」
「オーライ」
諭の指示通り延平のサポートに走り回っていた真斗がボールに駆け寄ると勢いそのままに力いっぱい右足を振り抜いた。
バシッ!
密集地帯だったこともあり、ボールはすぐにディフェンスの足に引っかかる。
それでも、主人公の放ったシュートは汚名返上以上の意味がある。それはメイクドラマだ。
ディフェンスの足に当たったボールは縦回転をしながらも高く舞い上がりゴールに向かっていく。
ラインを高く保つために前に出ていたキーパーは下がりながらの対応をしていたが、ゴールを越えると判断し、ボールを見送りはじめた。
「入って!」
観客席で白鷺が祈る中、縦回転がかかっていたボールはゴール手前で急降下。ライン手前でバウンドしたボールはそのままネットを揺らし同点に追いついた。
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