第2話 ヒロインの親友枠も美少女
朝日が照らす住宅街を抜け幹線道路の高架をくぐると、道路の左右は高い木々に覆われ、先程まで均等に区画整理されていた家屋もまばらになってくる。
俺たちの通う
この辺りは戦国時代に大きな戦があったらしく、町全体がいわゆる古戦場跡となっているので首塚とか血の池だとか物騒な名前のついた場所や、幽霊目撃談なんかもよく耳にする。先輩に聞いた話だと、昔当直だった先生がひげ面の落武者の幽霊を見て腰を抜かしたそうだ。
「白鷺さん、おはよう」
「鏡花ちゃん、今日もかわいいね!」
「白鷺先輩! 付き合って下さい!」
学年を飛び越えて校内美少女ランキングの5指に入るだろう白鷺は、男子からひっきりなしに声をかけられている。隣にいる真斗は居心地が悪そうに距離を取ろうとするが、白鷺
はこっそりと袖を掴んで逃がさないようにしている。
「あ、まい。おはよう」
校門を過ぎた辺りで白鷺が前を歩いていた少女に声をかけた。
「きょうちゃん、おはよう。冴木くんもおはようございます」
振り返った少女が頭を下げながら挨拶を返す。小柄なのでその仕草にはペコリという音が似合いそうだ。
正統派美少女の白鷺とは違い、小動物系の愛らしさの広瀬。その名前の由来は小さい頃に教育番組で見たあの少女なんじゃないだろうか? きっと親御さんは我が子が周りから愛されるような存在になれるようにという思いを込めて名付けたのだろう。よかったですね、親御さん。その思い叶ってますよ。
「あ、あの。おはようございます」
主要キャストが揃い出したところで、俺はお役御免。存在感を消して空気になる。
「あの。え〜っと。お、おはようございます」
校舎に向かう生徒と、朝練に向かう生徒がごっちゃ返してきたので、白鷺の脇をすり抜けて部室に向かおうとしたところ、真斗を逃さずに周りとコミュニケーションを取っていた白鷺に『ガシッ』と二の腕を掴まれた。
例えるなら、その様子は『どこ行く気?』とでも言いたげで、真斗の袖に添えられた手は『行かないでよぉ』とでも言いたげだった。
「挨拶は?」
「は? いま?」
「私じゃないわよ」
白鷺の視線を追っていくと困ったような表情をした広瀬がこちらを見ていた。
なるほど? お前はモブなんだから自分から主要キャストにあいさつをしろと。まあ、ヒロイン様がそう言うのならば仕方がない。
「あ、あの、もときくん。おはようございます」
俺の視線に気づいたのか、広瀬が若干頬を赤らめながらあいさつをしてきた。
さすが美少女。モブに向けるあいさつすら破壊力がハンパない。
ドギマギとしながらも左手を上げて応えよう「やあ! おはよう、まいん」
……背後からの爽やかボイスに行き場を無くした左手で頭をかく。
何気ない体を装って振り返ると、ジャージ姿のイケメンが爽やかな笑顔を広瀬に向けていた。
「真斗と鏡花ちゃんもおはよう。相変わらず仲良いね」
「お、おはよう。別に特別仲良いって訳じゃ……」
「おはよう
イケメンのからかい気味のあいさつに焦る真斗と、サラリと返す白鷺。
このイケメンこそがラブコメ主人公の親友枠、
俺たちと同じ2年で、サッカー部所属。背番号10のエースさまだ。成績も優秀で、上位一桁にはいつもいた気がする。
気さくな性格で男女問わず人気のあるやつなんだが、なぜか俺には素っ気ない。と、いうかライバル視されてるみたいな?
別に俺は親友枠狙ってないぞ?
「2人とも、早く着替えてこないと朝練遅れるぞ? まいんは勉強か? 朝早くから偉いな」
こんな感じで俺のことは空気として扱ってくれる優しいやつだ。
ちなみに、広瀬とは付き合っているという噂だ。まあ、名前で呼び合ってるみたいだしな。
延平の登場で一気に注目度が増したこの場を脱出すべく、強硬手段に出た俺は、たまたま視界に入ったモブ親友枠に声をかけながら走り去ることにした。
「お〜、
「ちょっ、ノブくん? 待ってよ!」
「あっ、あぁぁ〜」
背後から美少女たちの声が聞こえたような気がしたが、振り返ることなく諭に駆け寄った。
「よう、ノブ」
俺と同じように左手を軽く上げたフツメン、
俺とは中学から同じサッカー部で、人当たりがよく面倒見がいいフツメン。
「やっぱりお前といると落ち着くぜ」
「若干、悪意を感じるのは気のせいか?」
フツメンコンビに群がる人はないだろ?
♢♢♢♢♢
朝練を終え、諭と共に教室に向かうとすでに教室には白鷺がいた。
「お疲れ様、ノブくん。水野くん」
「ん」
「よう」
一言だけ発して隣の席に着いた俺と、美少女に対しても軽く手を上げただけで自分の席に向かった諭。
「ノブくんがあいさつしないのは水野くんのせいかしら?」
不満そうにじ〜っと俺を見てくる白鷺の視線を無視してスマホをチェックする。
「ねぇ、ノブくん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどね?」
スマホにスッと手を伸ばして画面を隠してくるあたり、強引にでも話をさせようという意図が見られる。
「あん? なんだよ?」
ペイっと手を払い除けて画面を見続けながら聞き返す。
「人と話をするときは相手の目を見て話そうよ」
「相手によるんだよ」
「……そんなに邪険にするのはノブくんだけなんですけど?」
「万人に好かれる必要ないだろ?」
「ま、まあそれはね? 万人に好かれるか、好きな人だけに好かれるのかどっちがいいって聞かれたら、ね?」
真斗のことを思って話しているのだろうか。赤い頬を両手で隠しながら呟く白鷺。
お前、万人にも好きな人にも好かれてるからな?
「で、なんだよ?」
話が進まない気配がしたので自分から軌道修正すると、白鷺も本題を思い出したのかコホンと咳払いしながら姿勢を正した。
「えっとね。ノブくんって好きな子いる?」
「まさかの恋バナかよ。そういうのは女子同士でやってくれ」
モブだからといって彼女がいたらダメな訳じゃない。ラブコメ界にはイチャイチャしてるだけのモブだっていっぱいいる訳だし?
ぶっちゃけ俺だって彼女欲しいと思ったこともある。
しかしながら、そこはモブ。
主人公たちのラブコメパワーが強すぎて俺にはフラグが立つことがない。
「え〜、別にいいじゃない。それとも恥ずかしくて話せない?」
「あ〜、そうそう。恥ずかしくて話せない」
チラリと白鷺を一瞥して軽く応えると、頬を膨らませて不満顔になった。うわっ、あざとっ!
「もうっ! ちょっとくらい相手してくれてもいいじゃない。そんなんじゃ女の子にモテないぞ?」
「まあ、いいんじゃね? まだ焦る年でもないし? いまはお前らのラブコメ見てる方が楽しいしな?」
意味ありげに笑いかけると白鷺は顔を真っ赤にして頭からは湯気がでているようだった。
「ら、ラブコメって……、私とマサくんは、そ、そんなんじゃないし!」
「別に真斗と、なんて言ってないけどな?」
「も、もぉ〜〜! からかわないでよ〜」
自覚症状はあるはずなのに、指摘されるのは恥ずかしいらしい。
「きょうちゃん。もときくんと仲良くていいなぁ」
そんな俺たちの様子を教室の入り口からそっと見ていた美少女がいたとかいないとか。
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