幼馴染のラブコメのモブキャラだと思っていた俺が、自分もラブコメの主人公だということにまだ気づいてない

yuzuhiro

第1話 ラブコメのモブキャラ

 自分の人生における物語の主人公は自分自身である。

 もし、17歳の今の俺が生涯を通しての物語を書いているのなら、大人になった俺はどんな思いで読み返しているのだろうか?


 さて、人生を語る上で欠かせない要素ってなんだ? と聞かれたら君は何と答える? 


 家族? 友人? 仕事? 学校?


 ここで俺は恋愛、いやラブコメを挙げたいと思う。


 物語を書くならラブコメが一番だろ? まあ、これはあくまで主観だけど。


 じゃあ、お前はラブコメ主人公なのか? 


 残念ながら答えはNOだ。


 プロゲーマーを目指しているわけじゃないし、美少女にアピールしまくられるようなイケメンでもない。誰もが羨むようなメインヒロインがでてくるようなゲームも作ってはいない。


 だって、俺の中のラブコメの俺の立ち位置はあくまでだから。


 おかしな話だろ? それでも俺が物心がついた時から、俺の周りにはラブコメが存在しているんだ。そして、その主人公は俺じゃない。もちろんヒロインでもない。


 ラブコメの一日は朝から始まる。


 ピピッ ピピッ


 AM6:00


 スマホのアラームで目覚めた俺は、部屋のカーテンを開けて全身に朝日を浴びる。


「あ〜、いい天気だ。今日もラブコメ日和だなぁ」


 窓から外を見ていると、バタンという音とともに隣家から制服姿の女子高生が出てきた。


 栗毛のショートボブと豊かな胸を揺らしながら歩く彼女は、すれ違うサラリーマンが振り返るくらいの美少女だ。


 彼女の名前は白鷺鏡花しらさぎきょうか。俺と同じ高校に通う16歳の現役女子高生。

 頬杖をつきながら白鷺を見ていると、俺の邪な視線にでも気づいたのか、バチっと目が合った。


「ノブくん、おはよう。頭すごいことになってるよ」


 ニヤニヤとした俺の表情に若干ヒキながらも、自分の頭をトントンと叩いて寝癖を指摘してきた。


「ん」


「もうっ、挨拶は?」


 右手を上げただけじゃ気に入らなかったらしく、かわいらしく頬を膨らませながら、制服のスカートのポッケから合鍵を出して玄関の中へと入って行った。


「さて、と。朝飯でも食うかね」


 パジャマのままキッチンまでいき、電気ケトルのスイッチを入れてからトースターに食パンを放り込んだ。


 ああ、自分で朝飯の準備をしてるからって俺は一人暮らしをしている訳ではない。

 父は単身赴任、母は喫茶店でパートをしているため俺が起きるよりも早くに家を出ている。

 ラブコメに出てきそうな美人の姉や、かわいい妹はおらず、年の離れた兄貴はすでに結婚して家を出ている。


 じゃあ、さっきの美少女は合鍵を使ってどこの家に入って行ったのかって?


 待てど暮らせど我が家にくることがないのは確かだ。


 白鷺が入って行ったのはラブコメ主人公、冴木真斗さえきまさとの住む隣の家だ。


 20年近く前に名古屋のベッドタウンとして宅地造成された我が街は、駅まで徒歩10分圏で大型ショッピングモールも建築予定だったため応募者多数で抽選販売となった結果、幸運にも当たりを引いた白鷺家、元木もとき家(俺ん家)、冴木家が並ぶこととなった。


 ラブコメは我が家という障害を乗り越えながら繰り広げられているという訳だ。

 

 真斗は冴木家の一人息子で、現在両親は海外赴任中で一人暮らし状態。家事などできない息子を心配したおばさんが幼馴染の白鷺にお世話をお願いしたところ、快諾したらしい。ベタなラブコメ設定だよな。


 コーヒーとトースト一枚という、およそ食べ盛りの男子高校生のには似つかわしい朝食を摂り終えた俺は、身支度を済ませて朝練に向かうべく玄関を出た。


「おはようノブくん」


 門扉を開けると、爽やかな笑顔で白鷺が挨拶をしてきた。


「よう」


 先程同様に右手を上げて応えると「だから、あ・い・さ・つ!」とおはようを強要された。


「ボディーランゲージでしてるだろ」


「そ・れ・で・も! 挨拶は最小にして最大のコミュニケーションなんだからね? 誰しもがノブくんを理解してくれる訳じゃないんだよ? おはようと言われたおはようございますって返すくらいしなきゃ。ただでさえノブくんは身体が大きいし、強面なんだから」


 165センチの白鷺が183センチの俺をジトっと下から見上げてくる。


「別に、誰もそんなこと気にしないって。じゃあな」


 挨拶を終えた俺が、白鷺を置いて歩き出しと隣家から真斗が慌てて出てきた。


「お、おはようノブくん。いい天気だね」


「よう」


 背後からまたしても「あいさつ!」と白鷺の声が聞こえてきたような気がしたが、俺は気づかないフリをして歩き続けた。


「今週はいよいよインハイ予選だね。2人とも出れそう?」


 いつの間にか俺の隣に並んだ白鷺がかわいらしい仕草で話しかけてきた。


「ノブくんは、ね。俺はベンチに入れるか微妙かな」


 それに真斗が照れ臭そうに頭をかきながら応えた。


 俺と真斗はサッカー部。白鷺はバスケ部に所属している。

 真斗はガタイのいい俺とは違い、身長は白鷺とほぼ同じ、運動神経もあまりいい方ではない。顔もまあ、普通?


「でも、マサくんが頑張ってる姿、体育館からよく見てるよ?」


「よ、よく? は、恥ずかしいからあまり見ないでくれる?」


「ふふっ。ちゃんとマサくんのことは見てますからね〜」


 俺を挟んで会話をする2人。いっそのこと2人っきりで行ってくんない? 俺、一緒に行く必要ないよね? 

 真斗曰わく、「鏡花はモテるから2人で登校なんてすると俺の命が危ない」

 白鷺曰わく、「マサくんと2人っきりで登校なんてうれしくて舞い上がっちゃいそうだから」


 俺は緩衝材らしい。

 ちなみに、登校中に俺が一声も発しないことは珍しくない。

 まあ、モブだし?


 主人公とヒロインの2人の幼馴染である俺がモブっておかしくない? 普通なら御意見番かはたまたライバルでも良さそうだよな?

 残念ってことは全くないが、真斗にも白鷺にも他に『親友枠』のやつらが存在している。


 高校まで徒歩20分。

 到着するまで一声も発しない俺に気をかけることない2人の会話は途切れることはなかった。


 

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