ルビー ce2
『アイアンホース』は時として、他の教室列車と合同で作戦を行なうことがある。特にルビーが乗る【
「──あのさぁ、いい加減に言っていい?」
「前置きするとはらしくないですね……どうぞ」
「あんたと一緒になると、ルビー毎回毎回とんでもない目に遭ってるのは気のせいかしら?」
ルビーが皮肉交じりに文句を垂れると、癖が目立つ短めに揃えられた茶髪の『アイアンホース』、【303号教室列車】所属の
「分かってるのよ? そのおかげで“卒業”せずに済んだって、でも多いのよ、百パーなのよ。流石に邪推したって仕方なくない?」
「すまない、もう少し冷静な判断ができていれば……」
「……冗談よ。悪かったわね」
いつもの
「『プレデター』の巣に誘導されたってのに、まだ誰も“卒業”しなかったのは本当に
「ですが、作戦範囲の緊急延長が寸前で通って居なかったら、全員が毒針で“卒業”していました……」
「馬鹿ね、ああでもしなかったら、それこそ全滅だったじゃない」
「賭けに勝ったんなら胸を張りなさいよ。じゃないとルビーが喜んでいいか分からないじゃないの」
「ルビー……」
確かに
しかし、現時点で自分たちが誰も“卒業”せずに済んだのは、そんな
「──まぁ、おかげさまで功績が増えそうなんだ、ルビー様的には嬉しいわな。良かったなぁ? 帰ったら大好きな先生にたーくさん褒めてもらえるぜぇ?」
──『プレデター』が、どこに潜んでいてもおかしくない場所で、己の相棒であるマシンガン型ALISとライオットシールドと共に地面に寝転んでいる『アイアンホース』が嘲笑混じりの言葉でルビーに話しかける。
「あら? その言い方だとまるでルビーが全て仕組んだみたいじゃないの?」
「だったら、ジブンたちは可哀想にも自分勝手我が儘
「そう思うんだったら、ルビーの盾として役に立ってよね、
ブラック&ホワイトを雑に括ったアンダーテイルヘアー、誰からもデカいと言われる肉体的特徴を持つ、長身の『アイアンホース』、
「それは難しい要望だなぁ。なにせ体が重いもんでぇ、盾になりたくてもお前の速さに追いつけねぇんだよ。そこで提案だ。ジブンの
「あら、いいじゃない。活性化率も節約できそうだし、本当にお願いしようかしら?」
「ギャハ!
性格的に自分だけが隠れてやり過ごせるやつじゃないだろと汚い言葉で、図星を突かれたルビーは肩をすくめる。
「……
「ああ? ──ぐぼ!?」
「──でかい
低く重々しくも、ハッキリと耳に届く尖りきった言葉と共に、
「ぐおぉぉぉ……!」
「ひとが
痛そうに悶える
「お疲れ様です、
「今はどこも待機中、非戦闘状態だ」
ブルーグレーの髪を持ち、声に似合わぬほどのやや小柄な体型で童顔、しかし気怠そうな半目から除き込む瞳孔はとても鋭い。フード付きのジャケットを着用し、リュックを背負っている、また全体的に細々としたものを全身に取り付けており、ルビーたちと比べて遙かに装着している装備が多い。
「……ナー、やっとマシな顔になったな」
その装備の豊富さゆえに多様な
「いけるな?」
「はい、ブリーフィングを始めよう」
「これなら、この距離でも【303号教室列車】と連絡できる。こっちを使え」
「分かりました。
「それも纏めて話す……。
「わっふぅー。ったく、相変わらず酷い扱いで泣いちまうぜ、ギャハ!」
「むしろ笑ってるわね、楽しそうでなによりよ」
「それで、先生たちはなんて?」
「ナー、このまま作戦は続行、【
呆れながらも安堵を見せる
そして、今回集まった車掌教師の中で総指揮を担う事になった
「やっぱり
説明途中に野次を入れた
ちなみにルビーの担任であるタクヤ先生は良いところを先に挙げれば、とても優秀であり、アドリブ能力が高く判断が早い。一方で通常の車掌教師らしく、現場が判断して動くのに否定的であり、ときおり甘い言葉を発するのが、ウザくて嫌いと思う『アイアンホース』が割と居る。
「自分たち4名は、これから目標であるゴリラ型独立種が居ると思われるE7地点へと迂回する形で移動する。既に
「〈
「ナー、自分たちが近ければ攻撃を開始、逆に遠ければ狙撃を先にして、外れれば、こちら側に誘導、罠を警戒しつつ戦闘に入る。とりあえずはこれでいいだろう」
ルビーは話を耳に入れながら、ただじっと地図を見ていた。彼女は自我が芽生えた頃から受けていた訓練の中で、極力装備を減らすために作戦内容や地図を覚え続ける記憶術を叩き込まれているため、道具を必要とせず覚えられる技能を持っていた。ただ間違いがあってはいけないと、見逃しがないように注視する。
「〈
「ナー、正確には不明だが、他の『プレデター』に干渉操作できる能力と考えるのが妥当だろう、でなければ、あんな風に一定エリアに固まっていたのは流石に不自然が過ぎる」
「逆に言えば、直接差し向けられるわけではないみたいですね。自分の下へと呼び出すわけではなく、自分たちを巣へと誘い出した所を見るに、他の『プレデター』を集められるだけかもしれない」
「弱い奴だったら手っ取り早く太い腕で殺す、強い奴だったら安全に罠に嵌めて殺す、随分と賢い奴だなぁ」
『アイアンホース』たちの中でも、特に秀でたものたちが集まったチームでの意見交換は効率よく行なわれていく、作戦を成功させるためにも、生きて帰るためにも、全員が前を向いていた。
「ゴリラ型だ。直接戦闘となれば間違い無く機動戦になる。
「そうね、
独立種としての〈
そんな相手に単独で戦えるかと問われたルビーは、最もフットワークが軽い自分がゴリラ型プレデターの注意を惹き付けて、動きを妨害できるかが勝負になると迷わず了承した……のだが、その言い回しに
「ナー、どうしたルビー? 随分と
「……あ、やだ! 最悪!!」
恋する乙女としてあるまじき発言をしてしまったと、ルビーは羞恥から自慢の紅玉色の髪にも負けないほど、真っ赤に染まった顔を両手で隠す。タクヤ先生が聞いていたとしても、気にしないと言ってくれるのは分かっているが、それでも汚い自分を見せたくないと思うのが恋する乙女というものだ。
「いまの言葉、先生ぇに聞かれてないわよね!?」
「……現在、【504号教室列車】との通信は開かれていません」
良かったと安堵するルビー。確かにタクヤ先生には通信は繋がっていないが、【303号教室列車】の車掌教師、つまりゼロ先生にはしっかり届いている事を、
「良かったルビー。あーでもなぁ、作戦が終わったら会話ログを聞き返すよなぁ、その時に聞かれちまうかもなぁ、ギャハハ──バハァ!?」
「作戦開始まで、もう時間が無いんだよ、邪魔をするな
「いや、そもそも
「……ニャー」
「ああもう、いいいわよ、ふふっ!、ルビーに恥を掻かせたこと絶対に後悔させてやるんだから!」
「わっふぅー、単にお前が自爆しただけなのに、八つ当たりなんて嫌な『アイアンホース』だぜ」
「うるっさいわねっ!? 蒸し返さないでくれる!? 蹴って黙らないなら蜂の巣にするわよ!?」
「ギャハハハ! やっぱり暴れん坊姫だよお前は!」
ルビーが、ついにキレて怒声を上げると、欠片も反省しない
「……自分からは以上だ」
「分かりました──ルビー、
今にも殴り合いをしそうに2名の『アイアンホース』であったが、
「
面白みのない発言に3名の『アイアンホース』は返事こそしなかったが空気を研ぎ澄ませる。そんな彼女たちの反応は、
──作戦を共にするのは、これで三度目である。最初こそ生き残るために仕方なく組んだチームであったが、今ではルビーにとって【504号教室列車】の『アイアンホース』たちよりも信頼できる戦友たちであった。
そんな未だに名も無き共同チームを束ねる
──ルビーは自身の担任が好きなのか?
──そうよ、文句ある?
──いや……その想い、叶うと良いですね。
頼りないなと思う所も少なくない。『アイアンホース』として酷く真面目かと思えば森の中の木の実をつまみ食いするなど悪い遊びを覚えている。無駄に誇り高い所がちょっと面倒に感じることもある。能力的に言えば多分、自分たちの中で誰よりも劣るし、大事な場面でしか活躍できないなんて
それでも
「──ちょっと
「……そういえば
「ギャハハ! なに固まってるかと思えば
「勝手にしろ」
「では、改めて────蹄鉄を鳴らせ」
全員が同時に一歩大地を踏みしめて
ルビーは不意に、自分抜きにやったのを知ったら
「
──それから、予期せぬ事態、見誤った独立種の強さ、〈魔眼〉の使用による活性化率の上昇、それらトラブルを経験してもなお、この戦場においてルビーたち全員は生き残り、泥だらけの姿でありながらも笑って、各々の教室列車へと帰っていた。
『アイアンホース』として仲間達と共に戦場を駆けたことに、確かな充実感を胸に宿して。
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