プテラリオス pe2

 ──『東海道ペガサスセンター』は、東京地区から名古屋中央地区までの元東海道新幹線線路周辺および富士周辺の広大な土地にて、一定の間隔で設立された八十八の分校が存在する、日本政府が完全管理するペガサス学校である。


 この学校に在籍する『東海道ペガサス』は各々の分校にて生活し、東京地区と旧名古屋中央地区の元東海道新幹線線路の守護、その周辺の非侵略地域の防衛。山岳や森林地帯の『プレデター』を含めた生物の動向調査と多岐にわたる役割を持つ自然にて生活する天馬たちである。


「──すぅ──……んぅん?」


 数多くある分校の中で下から二番目に小さな分校。はっきり言って2階建てのログハウスであるコウマ分校に在籍する『嫌干きらぼしキルコ』は眠りから目覚めて、起き上がった。


 時間を確認すれば夜空が色づいてきた深夜4時強、本日はこの時間帯に行なう業務の予定はないため、まだ眠っていてもいい時間であるが、キルコは『ペガサス』と成る前に受けさせられた半年の訓練の影響によって二度寝ができない体質となっていた。


「んー」


 渋々と起きて、洗面台で顔を洗い、あまり必要は無いが習慣化している歯磨きをさっさと終わらせる。『色素狂い』によって金色で、毛先が紫にグラデーション掛かっている髪をハーフツインに結ぶ。日々のやる事を考えればもう少し切ったほうが良いのはわかっているが、自分に許された数少ないオシャレできる部分だからと、キルコにとって外せない拘りであった。


『ペガサス』の視界は猫目並みに夜目が効く、窓から差し込む曙の光でもハッキリと見える室内を静かに移動して、寝巻きから制服へと着替え始める。


 東海道ペガサスセンターの制服は、自然の中で活動しやすく、また『プレデター』の視覚による索敵に対しての迷彩を意識した作りとなっており、吸汗速乾能力が高い肌に密着するスポーツタイプの長袖のシャツとパンツを履き、そして腰下まで裾がある深緑色を主体としたカモフラ柄のフード付きジャケットを羽織る。


 ──メカメカしい腕輪の表示された数値を酷く嫌そうに確認し、活性化率に変化が無い事に安堵する。


「ううっ……」


 憂鬱な唸り声を上げるキルコ。ここ最近、見たことのない国家公務員センター講師がやってきて、コウマ分校周辺を調べている。キルコは“秘密の友達”について何かバレやしないかと冷や冷やしていた。


 小さな分校、人手不足ながらのお役所仕事なためか、コウマ分校は『ペガサス』を扱うにしては危険なほど緩い。分校とその周辺には監視機器は確かにあるものの、日課業務である森林地帯の巡回は、終了後のGPSログ送信ぐらいで、そのためキルコの浅知恵でも“誤魔化し”が利くほどであった。


 概念が凝り固まった大人たちも、まさか『ペガサス』に“秘密の友達”が居るとは思わなかったのか、同じ場所に留まり業務をサボり気味な事にお叱りこそ受けたが、それ以外はなにも無く、“秘密の友達”の事を気にしながらも、しばらくは真面目に業務に徹していた。


 ──そう、なにも無かったはずだ。


「……ムツミ?」


 ──支度が終わり、ふと違和感に気付く、二段ベッドの上のほうでまだ寝ているであろう、自分を除けばコウマ分校、唯一の在校ペガサスである『ムツミ』の気配が無いのだ。いびきを掻くような子ではないとしても、寝息のひとつも聞こえやしない。


「あれ? いない……」


 梯子を登って確認すればムツミは居なかった。そもそもベッドで寝た形跡すらない。


「あうぅ……ムツミぃ、どこぉ?」


 不安になったキルコは、まずは玄関を見に行って靴が無いのを確認する。外に出たんだ、早く起きちゃったから散歩でもしているのかな? と思って見るが懸念が消えてくれず。そしてキルコは思い至り、連絡用のホワイトボードを見て、1枚の紙が貼られている事に気付く。


「──あ」


 ──それがなんであるか、キルコは知っていた。そんなまだ早いと否定すると同時に、この日が、ついにやってきてしまったのだと絶望する。


「……う、ううぅ……!」


 辛くて、苦しくて涙が出る、こうなってしまったら諦めるしかない。


「────っ!」


 でも、でもと、キルコは何もできることは無い筈なのに、悩んで悩んで、どうしようと考えてホワイトボードに貼られている紙をもって、外へと駆け出していった。


――――――――――


21757:識別番号02

叱咤→だからその短期的な行動を慎めプテラリオス!! 

理由→学園内での無断離陸によってアルテミス女学園高等部ペガサスたちに対してどれだけの迷惑と労力を与えたと思っている! 


21758:アスクヒドラ

こっちはいいから、ムツミちゃんの方へいって!


21759:識別番号02

抗議→甘やかすな! 


21760:アスクヒドラ

俺が一番迷惑かけているから何も言えないんだよ!! 

こういうのは持ちつ持たれつ反省するのは後! 


21761:識別番号04

アスクヒドラの意見に賛同する。

プテラリオスを叱咤するのはムツミたちの異常を解決してからにするべきだ。


21762:識別番号02

沈静→少し待て──。

了承→せめて『ペガサス』のヨキが定めた飛行制限を守れ。

要求→せめて返事をしろプテラリオス。


21763:プテラリオス

ごめんなさい。分かりました。キーちゃんと合流できましたか? 無事ですか? 応答してください。


21764:識別番号04

冷静になれ。汝の機能で把握できるはずだ。

もう少しで合流する。


21765:アスクヒドラ

もうぜんぶ杞憂でしたってならいいけど……。


21766:識別番号04

合流した。キーの様子からして何かしらの問題が発生したのは確定なようだ。


21767:アスクヒドラ

ああもう、フラグ回収が早い! 


21768:識別番号04

プテラリオス。どれほどで合流できる? 


21769:プテラリオス

あと2分です。いえ1分です。30秒もあれば。


21770:識別番号02

注意→きっちり速度制限と高低制限を守れ。


21771:プテラリオス

ごめんなさい。残り1分43秒です。


21772:アスクヒドラ

ゼロヨン、キーちゃんから話は聞けた?


21773:識別番号04

努力はしているが、先ほどからプテラリオスの事を質問されるばかりで会話が進行しない。


21774:識別番号02

馬鹿→プテラリオスが暴走するような発言は控えろ! 


21775:識別番号04

すまん。


21776:アスクヒドラ

プテラ、凄く気持ちは分かるし、理解できるし、なんなら同じ状況なら人のことならぬ、プレデターのこと言えないのは百も承知だけど、ごめん。身をもって知っているからこそ言うけど、本当に落ち着いて動いたほうがいいよ。


21777:プテラリオス

分かりました。到着します。


21778:アスクヒドラ

……はやない? 


21779:識別番号04

プテラリオス。汝と思われる騒音にキーが脅えている。歩行での合流が可能地域まで来たら着陸しろ。


21780:プテラリオス

わかりました。着陸します。キーちゃん! 


21781:識別番号04

プテラリオスを視認した。これが人型形態となった姿か、あ。


21782:アスクヒドラ

あ? 


21783:識別番号02

質問→何かしらの問題が生じたか。 


21784:プテラリオス

キーちゃんに悲鳴を上げられて隠れられました。


21785:アスクヒドラ

ああ……まあ、見た目が全然違うし人型になったから仕方ないよ。


21786:識別番号04

丁度よかったかもしれないがな。冷静になったかプテラリオス。


21787:プテラリオス

はい。ごめんなさい。迷惑を掛けてしまいました。


21788:アスクヒドラ

いいよ。とりあえずはキーちゃんたちの方を優先してあげて、しかしどうプテラだって分かってもらうか……。


21789:識別番号04

プテラリオス、キーは汝の背丈の高さに脅えていると思われる。対策として同じ目線になるように体勢を変更することを推奨する。


21790:プテラリオス

分かりました。


21791:識別番号04

──確かに同じ目線ではあるが、脚以外を戦闘機形態にしろと発言していない。


21792:識別番号02

質問→プテラはいまどういう状況になっている。


21793:識別番号04

上半身だけを戦闘機へと変形させて中間な恰好となっている。


21794:プテラリオス

キーちゃん、自身だと分かってくれました。


21795:アスクヒドラ

お、マジか、良かった。


21796:識別番号04

プテラリオスの天然挙動と、自身の対応によって同一存在であると判断した。

しかし、キーは伝えたい内容を整理できないのか、ムツミの名前を連呼するだけで話が進行しない。


21797:アスクヒドラ

ムツミちゃんが結構やばい理由で移動しているのは確かっぽいね。


21798:識別番号02

質問→周辺および『ペガサス』のキーから何かしら事情を把握できるものは無いか。


21799:識別番号04

待て、キーが書類らしき紙を所持している。プテラリオス、それを見せてもらえるように誘導しろ。


21800:プテラリオス

分かりました。

貰いました。


21801:アスクヒドラ

なんて書いてあったの?


21802:プテラリオス

転校のお知らせ。

対象生徒。東海道ペガサスセンター、コウマ分校在籍 中等部二年 ムツミ。

本生徒は北陸聖女学園第四分校への転校を行なう事とする。

途中入学のお知らせ。

同時期に中央ペガサス予備校から3名の『ペガサス』をコウマ分校へと途中入学させる予定である。

詳細は後日センター講師から直接報告を行なう。

以上です


21803:アスクヒドラ

……この書類が本当なら、ムツミちゃんは今、転校先の学校に移動してるって事か。

プテラ、ムツミちゃんってまだ移動中? 


21804:プテラリオス

いいえ、旧日本地図上では静岡県内富士山北北西の地点にて停止中です、再度動き出す気配はありません。


21805:アスクヒドラ

え、北陸じゃないの? 分校だからかな? 


21806:識別番号02

問題→この転校が『ペガサス』のムツミにとって良きものであるか。

問題→自身たちにとって肯定しうるものであるか。


21807:アスクヒドラ

マジで介入していいか難しいぞ。なんか強い『プレデター』と戦うためってなら、こっそり助力すればいいとは思うけど、活性化率関係とかなら、悠長に見守ってはいられないと思うし……。


21808:識別番号04

キルコが落ち着きだして、会話を始めた。


21809:識別番号02

要望→内容を書き込んでくれ。


――――――――――――


 キーこと『嫌干キルコ』は、食い気味のこちらへと近づくウィングを持つ人型ロボットを恐れて、素早い身のこなしで木々の後ろへと逃げた。


 そして、人型ロボット──プテラリオスを観察して直ぐに、自分たちの“秘密の友達”である恐竜さんであることに気づいた。首をくりくりするところとか、頭の下ろし方とか全く一緒だったからだ。


 ──“秘密の友達”。小さな恐竜のような姿をして、『ペガサス自分とムツミ』を前にしても襲い掛かろうとしない不思議な『プレデター』。ある日、巡回業務から戻ってこないムツミを探しに行った時、楽しそうに話しているのを見て目ん玉飛び出るぐらい驚いて、ともかく助けなきゃという気持ちで飛び出して行ったのが最初の出会いだった。


 そのあとムツミから事情を聞いて新しい友達と言って曲げない彼女に不安しかなかったものの、確かに逃げるだけで襲いかかって来なかったし、もし本当に危険な存在なら『東海道ペガサス』として放置するわけにも行かないしと、いったん報告するのは保留にして遠くで身を隠して様子を見守ることにした。


 バレバレの監視の中で、他の分校に所属する『ペガサス』の救援要請に駆けつけたさいにプテラリオスと似てるが、大きさも姿も異なる恐竜に似た『プレデター』と戦う事で警戒度を上げたりもしたが、そんなキルコの心情に反するように、ムツミを襲うどころか、むしろ逆と言えるぐらいに献身的に接するのを見て、徐々に受け入れるようになった。


 まさか本当に食べさせるとは思わずに放任した、乾かした土手作りクッキーを食べた時には本当に申し訳なく、しかし止められなかった事で出るタイミングを見失った結果、ムツミが帰宅した後に、ちょっとだけ話すという立場に落ち着いた。


 ──そんな“秘密の友達”は卵となって孵化したかと思えばどこか飛んでいってしまって、姿が変わって帰ってきてくれた。識別番号04ウーちゃんが頼んでくれたのか分からないけど、なにも解決していないけど、キルコはほっとした、とても嬉しかった。


 そして現在、書面を見て動かなくなった二体の人外。プテラリオスの“Ⅲ”を象る顔面がずっと点滅をしており、時々識別番号04が吠えている光景が、キルコには何かしら話し合っているように見えた。


 ──分かっている。恐竜さんやウーちゃんに話した所で何も変えられないのは。


「……あぅ……う、ウチも噂ぐらいしか聞いたことないんだけど、北陸聖女学園に転校した『ペガサス』は、実験に使われるって……うっ!?」


 それでもと、キルコは意を決して自分の思うところを口にする。すると、二つの人外の顔が向けられて、その圧によって白目を剥きそうになるが、なんとか我慢する。


 キルコ本人が噂と言うように、ただ、センター講師の断片的な会話や、他分校の『ペガサス』たちとの会話で出来た真実に至れない話だ。しかし同時に状況証拠から一概に勝手なイメージとも判断できない話でもあった。なにせこんな風に突然転校して居なくなるのはムツミが初めてではないのだから。


「……元々ムツミって去年『中央ペガサス予備校』から、9才で“飛び級”して『ペガサス』になった子なの、だから活性化率がウチに比べて上がりやすくて、三日前に測った時には【67%】ってウチのを超えてた」


 少女の体内に『P細胞』を注入するさいには11才から12才が望ましいとされている。それ以上でもそれ以下の年齢でも離れれば離れるほど活性化率の上昇数値が目に見えて上がりやすくなり、直ぐに抑制限界値を超えるからだ。そのため9才で『東海道ペガサス』となったムツミは、そこまで戦闘や〈魔眼〉を使っていないのにも関わらず、たった1年ちょっとで活性化率がキルコを追い上げてしまった。


「ムツミだけじゃないの、『富士の大災害』の穴埋めのために何人もムツミみたいな子が来ては、すぐに転校していって……先生に聞いても知らない、知ることじゃないって言われて終わって……」


 東海道ペガサスセンターが、基準の年齢に達していない子を『ペガサス』にするのは、『富士の大災害』によって多くの在校ペガサスが“卒業”してしまい、その穴埋めをするためであった。よってムツミたち“飛び級”の子の役割は、正規の『ペガサス』たちが育ちきるための場繋ぎでしかない。


 そんな短期間の場繋ぎだけが求められている『東海道ペガサス』たちの転校させる価値は、推して知るべきものだと判断できるものである。とはいえキルコに、そこまでの考えには及んでおらず。彼女の行動原理は、友達との今生の別れが嫌という至極当然な拒絶心である。


「し、仕方のないことかもしれないけど……」


 ──『ペガサス』である以上、いずれ来るべき時が来ただけ、そう何度も諦めてきた。でもムツミは今までと違っていた。どこかぼんやりとしているけど、年相応に無邪気で、何事にも動じなくて、『プレデター』の友達も作って、だから、どこかでムツミだけは居なくならないって信じてしまった。


「……嫌だよ。ムツミに会いたい──」


 我慢してきた感情が“秘密の友達”の前で溢れ出る。それを静かに見守っていたプテラリオスがゆっくりと立ち上がると、キルコに背を向けた。


「え? え? ──うわっ!?」


 ゼロヨンがプテラリオスに向かって何度も吠える。キルコは戸惑うことしかできず見守っていると、プテラは地面が弾け飛ぶほど強く走り出し、一定距離まで離れると跳躍、戦闘機形態へと変形して、フルスロットルで飛んでいった。


「ぶえっ!?」


 強烈な風圧によって体が転がりそうになるのをゼロヨンに支えてもらう。


「わ、わぁ……」


 落ち着いた後、友達が飛んでいった方向を見るが、姿形は無く急な事態にキルコは呆然とするしかなかった。そんなキルコに、識別番号04は腕にあるGPS付きブレスレットへと噛みついた。


「え、え? ……えぇ?」


 次から次へと起こる事態にキルコはついて行けず体が硬直する。それが識別番号04にとって有り難く、絶妙なさじ加減でGPS付き腕輪を噛み壊すと、キルコの股を潜り、背中に乗せて持ち上げた。


「……な、なにをするつもミアアアアアアアアア!!?」


 走り出す識別番号04。尋常でない速度で足場の悪い森林地帯を駆ける。絶叫を上げるキルコであったが『東海道ペガサス』ゆえの能力か、反射的に落とされないようにと識別番号04に強くしがみ付いた。


――――――――――


21853:アスクヒドラ

だからいいって!! 

逆に俺の立場だったら、止められても行っちゃうもん!


21854:識別番号02

軽率→アスクが考えるべきはアルテミス女学園ペガサスたちの損益であるはずだ。

主張→『ペガサス』のムツミの状況は不安なものであると理解しているが軽はずみな行動をするべきではない。


21855:アスクヒドラ

じゃあ、ムツミちゃんとキーちゃんがアルテミス女学園に来てくれたらすごく助かる!! もう最高、万年人手不足がちょっとでも解決するなら仕方ない! これでどうよ!! 


21856:識別番号02

応答→どうよではない。

質問→もしも自身たちが想定した最悪であった場合プテラリオスが行なわなければならない行為がなんであるのか分かっているはずだ。


21857:アスクヒドラ

それは……。


21858:識別番号02

追記→アルテミス女学園にだって最悪が訪れる可能性がある。


21859:アスクヒドラ

……だからって見捨てるのは無しだぜ! 


21860:識別番号02

否定→なにも見捨てるとは言っていない。

懇願→もう少し慎重な行動をしてくれ。

推測→でなければ全員が巻き込まれて最悪な未来が訪れるのかもしれないのだ。 


21861:識別番号04

既に事態は動き出した。思考の場所が違う筈だ識別番号02。

現在、キーと共にムツミが居るポイントへと移動中。


心情を発露しろプテラリオス、何も言わずにアスクヒドラに甘えるな。


21862:プテラリオス

──自身はムツミちゃんと会えなくなるのは嫌です。だから行きます。


21863:アスクヒドラ

……ゼロツー。正しいのはそっちだって分かってる。本当は俺が止めないと行けない立場だってのも、でも、この世界は『ペガサス』に思った以上に優しくないって知ってるんだ。

だから、いまはゼロスリー……プテラの事を助けてやってくれ。


21864:識別番号02

────提案→プテラリオスが目標へと到着した場合確定的に騒動になるためその前に識別番号04が周辺を偵察して情報を集めるべきだ。


21865:識別番号04

了解した。キーはどうする? 


21866:識別番号02

応答→ムツミあるいは『ペガサス』と出会った場合の説明役が必要となる可能性が高いためそのまま同行してもらうべきである。


21867:識別番号04

プテラリオスもそれでいいな? 


21868:プテラリオス

現在地点にて待機します。


21869:アスクヒドラ


……北陸聖女学園か、全部単なる噂で、『ペガサス』に優しい学校……だったらいいのにな。でもって言ったらあれだけど、まだ活性化率に余裕があるのに、どうして転校なんか? 


21870:識別番号02

推察→書面には大多数の『ペガサス』が途中入学を行なうと記載されていた事から『ペガサス』のムツミが“飛び級”した理由である間を保つ必要性が無くなった可能性がある。


21871:アスクヒドラ

それがマジなら干渉しないで見守るだけってのは無理そうだね。


21872:識別番号02

肯定→だが転校した理由が明らかにならない以上どう対応するべきなのか考えられない。

結論→だからまずは識別番号04による偵察を行なうべきであると判断した。


21873:アスクヒドラ

うん、それが良いと思う。

プテラ、識別番号04が調べるまでほんのちょっとだけ待って。ムツミちゃんのためにも。


21874:プテラリオス

分かりました。よろしくお願いします。


――――――――――――


 識別番号04に訳も分からず背中に乗せられたキルコは、『ペガサス』でもビビルほどの速度で駆ける。その道中飛んだり落下したり、ジグザグで動くなどアクロバットを決める場面が多くあったが、それほどまでに急いでくれていると理解したキルコは、とにかく邪魔にならず落ちないようにと必死に叫ぶのを我慢して振り落とされないように力一杯しがみ付いた。


「──よ、ようやく止まったぁ……」


 数十分ほどだろうか、ノンストップだった識別番号04が停止したことで、キルコは初めて顔を上げて周囲を見渡す。どこまで移動したのか自然風景から一転、そこは明らかに人間がいる土地である事が分かる。文明的な街中であった。


「え? え? ここって人の街!? ……み!?」


 無許可で人の街に入ってしまった、もしかして死刑になるのかと慌てふためくキルコを、識別番号04が小突く、なんとなくであるが大人しくしろと言いたいのだと理解したキルコは、両手で口を覆って何度も首を縦に振った。


 それから静かにする事を意識して、ここがどこか──というか数十メートル先にある明らかに異質な“壁”について考える。


「……あ、こ、ここってもしかして『北陸聖女学園?』」


 どうして、この場所に連れてこられたのか? ここは何なのか、この壁の先は何があるのかキルコは色々な疑問を総合して、自然に答えへと辿り着いた。


――――――――――


21916:識別番号04

ムツミが存在すると思われる『北陸聖女学園』らしき場所へと到着した。

現在、防壁と思われる巨大な建造物の40メートル手前にて待機している。発見された様子は無い。


21917:アスクヒドラ

当然だけど警備ガチガチみたいだね。どこか潜入できる場所もない感じか? 

俺が初めてアルテミス女学園の時に来たみたいに壁の上とかはどう 


21918:識別番号04

防壁は自身の能力では登れないほどに高い。そもそも壁の形状から天井が開いているのかも疑わしい。

どうする? 所感であるが学園内に入った時点で発見される恐れがあるぞ。


21919:アスクヒドラ

無難で終われない……よね。

最悪『ペガサス』と戦う事になるのも考えないと、か……。


21920:識別番号04

──謝罪する。

どうやら既に探知されていたようだ。『ペガサス』らしき反応が急速に接近してきている。


21921:アスクヒドラ

マジか!?


21922:識別番号02

質問→やりすごせるか? 


21923:識別番号04

すでに対峙している──なんだこれは? 

──これは、『ペガサス』なのか? 


――――――――――


「……な、なにか来る……!?」


 聞き覚えのない機械の駆動音が徐々に近づいてくる。キルコは車か何かを連想して、もしかしてココに居るのがバレたのか、なら隠れないとと思ったが、周辺は綺麗に舗装されていて、どこにも隠れる場所がないことに気付いて絶望する。


「え、わっ……え?」


 もう無理と諦めの境地に達しかけたキルコの正気を取り戻したのは、こちらに近づいてきた駆動音の正体である。


 ──それは二足で立ってはいるが、自動車と同じくタイヤ走行によって迫ってきた。


 全長5メートルほどか、明らかに人の手によって作られたであろう人型の金属兵器。キルコは『ペガサス』になる前に見たアニメを思い出して、思わず呟いた。


「──ろ、ロボット? ……ど、どうしてぇ?」

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