2.5章
プテラリオス pe1
──とある日の中で、その子だけが頭上の光に反応して空を見上げた。
後に03と識別番号が付けられた『ギアルス・ラプトル』は、数万と量産される中で発生した単なるバグだったのかもしれない。
逆に言えば、感情が発芽した事に、きちんとした理由らしいものは無かった。
彼にとって変化とは、警戒や確認をするものではなく興味を惹かれるものであった。
何よりも強く惹かれたのは光で。太陽光、月光、星の光に蛍の光。時と場合によって変化して消えたり現われたりするものは、彼の思考を刺激し波打たせ、まるで赤子の世話をする母親のように常に傍にあり続け、自我を成長させていった。
そうして出会った感情を持つ同じ存在の仲間たち。本来は敵同士である友達。それらとの交流を経て、知識を蓄えて、感情と一緒に育っていき、目標であった人型になってと、着実な成長を遂げていく。
──しかし、元来量産子機であったためか、その心は未だに創造性が欠け、経験が足りない子供であった。
+++
──貴方の個性は音速飛行能力、そして尾の無い翼竜に見える戦闘機のような姿、物体を発熱させる効果を付与する粒子の生成能力。これらに基づいて貴方の名前を考えた。
──また始まった。
──遙か太古に存在した翼竜“プテラノドン”。そして世界を天翔る太陽神“ヘリオス”。人型にして『ギアルス』である貴方には、この翼竜と神の名を二つを合わせたものが相応しい。
──そういえば、アスクヒドラも神と怪物の名前を足して割ったやつでしたね。
──違うから、答えは一緒でも式が違うやつだから……ごほん、というわけで今日から君の名は…………──。
──溜めるの長くないですか?
──太陽の力を持つ翼竜──『プテラリオス』。
──では、プテラって呼んでもよろしいでしょうか? ……ありがとうございます!
──野花、もうちょっと余韻というものをくれたってね?
+++
――――――――――
21641:識別番号03
ヨキちゃんから名前を頂きました。識別番号03改め、これからはプテラリオスです。
21642:アスクヒドラ
おう、これからよろしくなぜろさ……プテラ!
じゃあ、いま名前を変えるからなー。
21643:識別番号03
はい、お願いします。
21644:識別番号04
了解した。プテラリオス
21645:識別番号02
了解→呼び名をプテラリオスに変更。
略名→プテラと呼ぶ。
21646:プテラリオス
変わりましたか?
21647:アスクヒドラ
うし、ぜろさん……じゃなくてプテラに変わったよ
うーん、よくみんな俺がアスクヒドラになった時、すぐに呼び方変えられたよね?
21648:識別番号02
当然→『プレデター』として名称変更の対応など朝飯前である。
21649:アスクヒドラ
俺も『プレデター』なんだが?
21650:識別番号02
応答→アスクヒドラはアレであるのは初めの時から変わらぬ仕様である。
21651:アスクヒドラ
おう、アレって部分を何時ものようにハッキリと語ってもらおうじゃないの!?
21652:識別番号04
馬鹿と阿呆、どちらが好みだ?
21653:アスクヒドラ
天才と紙一重のほうで!
21654:識別番号02
馬鹿→やーいやーい。
21655:アスクヒドラ
これからはきちんと、プテラリオスの事をプテラと呼ぶ事を誓います。
21656:プテラリオス
大変でしたら、今までどおりゼロサンと呼んでも構いません。
21657:アスクヒドラ
ごめんごめん。冗談だよ。
本音を言えば、ちょっと寂しいかなと思うけど、せっかくヨキちゃんが付けてくれた名前なんだ。きちんとプテラって呼びたい。
プテラリオス、めっちゃ格好良い名前だと思うしね。
21658:プテラリオス
この名前が格好良いものかは、よくわかりませんが、アスクと同じヨキちゃんから頂いたので嬉しいです。
21659:識別番号02
願望→折角ならば自身も『ペガサス』のヨキに名付けてもらいたい。
理由→同一の『ペガサス』による特徴ある名付けを行なう事で自身たちが同一の仲間である事を強調できるようにするため。
21660:識別番号04
理由はなんであれ反対するつもりはない。
21661:識別番号02
疑問→識別番号04はどうして特定の話題に関して素直になれず素っ気のない対応をする。
21662:識別番号04
その質問に回答する気もなければ同意するつもりもない。
21663:アスクヒドラ
ゼロツー揶揄うのは止めなって、こういうのはね、そっと静かに見守るものだよ。
21664:識別番号04
謎の理解を示すなアスクヒドラ。
21665:識別番号02
抗議→半分は純粋な好奇心である。
21666:識別番号04
残り半分がなんで有るか提示しろ識別番号02。
21667:識別番号02
理由→識別番号04の思考や感性は自身らの中で最も人間に近しいと考えている。
参考→人型へと至りアルテミス女学園に合流した場合その識別番号04の持ち得るものが最も必要となる可能性が高いから知り得たい。
21668:識別番号04
自身にそのような自覚は無く、識別番号02の要望に見合う発言はできない。
それに、何故か伏せている残り半分の理由が不純な動機であると判断して回答を控える。
21669:識別番号02
舌打→アスクのようにはいかないか。
21670:識別番号04
アスクヒドラと同列に扱うな。
21671:アスクヒドラ
君ら喧嘩に見せかけて俺で遊んでいるよね?
あと、俺からしたら個性の違いってだけで、みんなそんなに違わないよ。ゼロツーだって、名前をぜろにたんとかに変えられたら嫌だって思うじゃん。ゼロヨンとは好き嫌いが違うだけでジャンル的には同じ気持ちからだよ。
21672:識別番号02
謝罪→本気ですまんかった。
21673:識別番号04
アスクヒドラ、確かに識別番号02の発言には目に余るものがあったが、それはあまりにも過剰だ。
21674:アスクヒドラ
あれぇ? おかしいなぁ、なんでか俺が悪者に……。
21675:識別番号02
冗談→ただその名前に変えるのは本当に勘弁してくれ
21676:アスクヒドラ
なら折角のネームデーなのに、おふざけが長すぎたってプテラリオスに謝りなさい。
プテラ、ごめんねー。
21677:識別番号02
謝罪→すまないプテラ。
21678:識別番号04
プテラリオスに謝罪する。
21679:プテラリオス
構いません。みんなの話を聞くのは楽しいです。
ですが質問があります。識別番号02はどうして名前をぜろにたんにするのが嫌なのでしょうか? とてもいい名前だと思います。
21680:識別番号02
冗長→そろそろ終いにしよう。
意見→『ペガサス』のヨキによるプテラに関してどれほど伝えられたのか聞きたい。
21681:アスクヒドラ
はいはい。俺の時と同じくヨキちゃんの質問に「はい」か「いいえ」で答えながら出来る限り伝えたよ。
それで、全部は伝わらなかったんだけど、流石はヨキちゃん。プテラリオスの粒子を発生する力に関して殆ど正解を導き出してた。
21682:プテラリオス
はい、アスクの言う通りです。ヨキちゃん本当に凄いです。
21683:アスクヒドラ
でしょ〜。まあそんでプテラの飛行能力とか武器とかは、全部、その粒子に通ずるらしくて、ヨキちゃんは粒子生成する機能を〈固有性質スペシャル〉として認定、わかりやすく〈発熱粒子〉って呼んでたよ。
21684:識別番号02
把握→限りある条件下の中で限りなく正解を導き出した『ペガサス』のヨキに賞賛を。
21685:アスクヒドラ
でもほんと、俺の毒生成も大概だと思ったけど、プテラの〈発熱粒子〉とか、『ギアルス』の粒子光線とか、一億八千万年前って、どんだけやばかったんだよ……。
21686:識別番号02
応答→自身が保有する知識の中で言えば本当にやばかったようだ。
余談→なにせプテラが進化によって得たその〈発熱粒子〉は情報から察するに『ギアルス』たちが使用する触れた物質をなんでも消滅させる粒子兵器の型落ち武器である。
21687:アスクヒドラ
確かになんでも消滅させられる兵器のほうが強いよね。地獄かー?
21688:プテラリオス
当たらなければ意味はありません。
21689:アスクヒドラ
当たったら死ぬので結果的に回避するしかないんだよな。まあ俺だったら、プテラの〈発熱粒子〉のほうが羨ましいけどね。これがあると空も飛べるし、野菜とかも良い感じに焼けるしで超便利。
21690:識別番号02
関心→人の応用性はやはり学ぶものが多い。
21691:識別番号04
無粋は承知で再度尋ねるが、何故に野菜を焼くことになった?
21692:アスクヒドラ
収穫と被ってナスパーティになったからですね。今の農業技術って凄いよね。全自動もそうだけど2週間で食べ頃まで育つんだもん。
21693:プテラリオス
自身も頂きました。味はわかりませんが、みんなと同じものを食べられて嬉しいです。
21694:アスクヒドラ
ビニールハウス建てるの手伝ったりしたから、みんなが美味しいって食べてくれるのは素直に嬉しかったよ。
今度の収穫祭の時は、みんな集まれたらいいね。
21695:識別番号02
肯定→しかしながら人型への進化をしてからの合流を強く推奨する。
理由→プテラが合流したアスクヒドラの仲間は人型であるとアルテミス女学園ペガサスたちが強く認識した。
21696:アスクヒドラ
すまん。下手に否定するのも危ないかなって思って、どうにも止められなかった。
21697:識別番号04
仮に人型以外の仲間が居ると肯定した場合。『ペガサス』たちの『プレデター』への対応に何かしらの不安が発生していた事を考えれば、アスクの判断は適切である。
21698:識別番号02
肯定→ともあれプテラリオスの位置共有機能によって全員の居場所が知れたため集中して進化活動を行なえる。
感謝→プテラリオス様々である。
21699:プテラリオス
みんなの役に立てて嬉しいです。
21700:アスクヒドラ
ほんと便利、ゼロヨンは富士山にいるって分かるし、ゼロツーは太平洋のど真ん中に居るって分かったしね……日本というか陸地が見えないわけだよ。
21701:識別番号02
溜息→自分の場所を知った時はもうトラウマ。
21702:プテラリオス
アスク、質問ですが中等部ペガサスたちの位置情報を登録しますか?
21703:アスクヒドラ
あー、できればトカちゃんたち『勉強会』の子はしておきたいけど、今プテラに会うってなるのは中々難しいかも。
もしも、会うってなったら事後報告でいいから登録しておいて。
21704:プテラリオス
分かりました。
21705:アスクヒドラ
……完全にプライバシーの侵害で申し訳ないけど、なにかあった時にどこに居るか分からないじゃ困るからね。
なんだか変態度が上がっちまった気がするなぁ!
21706:識別番号02
指摘→その発言はプテラリオスの評価も巻き込んでいる。
21707:アスクヒドラ
わー! プテラごめーん!
21708:プテラリオス
変態というものが、どういったものか未だによく分かりませんが、アスクと一緒であるなら変態でいいです。
21709:アスクヒドラ
おーけー。1度しっかり話し合おう。先ずは土下座するわ。
21710:識別番号04
アスクヒドラ、プテラリオスに対する態度によって不要な勘違いが発生しかけたことを忘れたか?
21711:アスクヒドラ
はい、自重します。エナちゃん居なければヤバかったの思い出しました。
21712:識別番号02
建前→しかし深い親交を見せる事で味方である事を強調する事は大事な行為であるから積極的にするべきである。
21713:アスクヒドラ
確かにー。本音はー?
21714:識別番号02
本音→面白かったので定期的に見たい。
21715:アスクヒドラ
お茶目クラゲめ……。
意思疎通に制限がないのも考え物ですね。もしかして俺が普通に体とか動かせていたら皆から引かれてた?
21716:識別番号04
──プテラリオスの帰還は予定通り、翌日の夜に変更はないか?
21717:アスクヒドラ
無視されたでござる。
21718:プテラリオス
はい、ムツミちゃんとキーちゃんに会いに帰ります。
21719:識別番号02
注意→分かっているとは思うが飛行するさいには『ペガサス』のヨキが定めた速度制限および高度制限を必ず守るように。
追記→また離陸するさいには必ず定められた指定の位置で行なうことだ。
21720:プテラリオス
はい。分かっています。
21721:アスクヒドラ
空飛べるのはいいけど、めっちゃ目立つのは今後の課題よね。
まあ、それを利用するって話になったんだけども……とりあえず今は気兼ねなくムツミちゃんたちに顔を見せてあげてね。
21722:プテラリオス
はい、はやく会いたいです。
識別番号04、キーちゃんがそちらに向かっています。
21723:識別番号04
来てしまったか。
21724:アスクヒドラ
……待って明るいとはいえまだ4時だよ? それにキーちゃんだけ? ムツミちゃんは?
21725:プテラリオス
生活拠点と思われる地点から離れて、現在は移動速度から列車と思われる乗り物で北上しています。
21726:識別番号02
質問→いつから移動していた。
21727:プテラリオス
2時間前には既に移動を開始していました。
21728:識別番号04
──何故それを言わなかった。
21729:プテラリオス
移動していただけなので──どうかしましたか?
21730:アスクヒドラ
さすがにおかしいよね? キーちゃんがゼロヨンのところに向かってるのも思えば何か変だし。
21731:識別番号02
意見→『ペガサス』のキーのみがプテラリオスや識別番号04に会いに来たことはなく何かしらの異常事態が彼女たちに降りかかった可能性は有る。
要請→識別番号04、そちらから移動して少しでも早く『ペガサス』のキーと合流
21732:プテラリオス
なにが起きているのですか?
21733:識別番号04
了解。
21734:識別番号02
要請→念のためにプテラは指定された『街林』へと赴き何時でも離陸可能状態となって待機するべきである。
要請→アスクヒドラはプテラが飛び立つ可能性があることをアルテミス女学園ペガサスに気付いて貰うように努めるべきである。
21735:プテラリオス
今すぐ戻ります。
21736:アスクヒドラ
わかった! みんなを起こしてくる!
……プテラ今なんて?
――――――――――
「──おはようございます夜稀──おはようで合ってる?」
「朝の挨拶としては合ってるよ」
「──また夜更かししたんですか?」
本日の予定的に早寝早起きをした『
そしたら案の定、夜稀は徹夜しており寝ていないという。『ペガサス』と言えど脳は人間の時と何も変わっていないため睡眠は大事と言っている本人が、最近多く夜更かしをしている事に、野花は呆れた溜息を吐いた。
「三回ぐらい寝ようとしたんだ。でも気になりすぎてね。業務に支障が出たら流石に落ち着くとは思うけど……」
「──その前に健康に支障がでそうなので、早めの改善を求めます!」
夜稀が、ここ最近夜更かしする理由は業務の後に行なっている自主研究によるものだった。
自作の耐熱性能に富んだセーフティーキャビネットの中に入っているのは、プテラリオスの〈
恐らく世界中探しても自分だけが得ている一億八千万年前の技術の塊に、夜稀は好奇心を抑え付けられず休もうと思っても頭から離れずに、こうやって気が済むまで探求していた。
「ううむ。これ以上はココでやるのは危険かな。やっぱり専用の試験室を作りたい」
「高等部の空き教室を改装しきってしまうのも、そう遠くは無さそうですね──本当に気を付けてくださいよ」
「……うん、なるべく努力する」
夜稀は自身の好奇心を我慢できない。しかしそれで起こしてしまった問題に対して開き直ることもできない。アスクの時も、『ギアルスパーツ』の時も、こんな感じに夢中になって問題を起こしてしまって後悔していた友達を、野花はまたやってしまわないかと心配する。
「──それで? なにか新しい事は分かったんですか?」
「そうだね。まだ確定ではないけど、この結晶体は〈発熱粒子〉だけで構成されている訳じゃ無くて、現代でも発見されている原子も幾つか結合している、これから考えるに〈発熱粒子〉は他の原子との結合パターンや数によって反応を操作できる可能性が──」
「──分かりました! 詳細な事はまた後日、報告書を上げてください!」
「もうちょっと話聞いてくれてもいいんじゃない?」
聞いたのは野花のほうじゃんと半目で見る夜稀に、すいませんと野花は適当に謝る。
「……ともあれプテラリオスの飛行能力や兵器は、全部この〈発熱粒子〉が元になっているのは間違いないみたい。これを技術転用すれば、あたしたちが空を飛べる日も来るかもね」
「つくづく彼がアスクの仲間で良かったと思います」
プテラリオス。人型プレデターにして、分類上は『ギアルス』であるらしいアスクヒドラと同じ存在であり、彼の仲間。アスクと同じく何かしらの制限が掛かっており、意思疎通は難しいため正体は謎のままである。
ただアスクとプテラの間に意思疎通制限はないらしく、人型同士でのやり取りでは、人間らしい挙動を『ペガサス』たちにいくつか見せており、ふたりのやり取りから親しい者同士であるのは誰の目で見ても明らかであった。
──なお、アスクに至ってはオーバーリアクションが多く、かなり気さくな感じのリアクションが多くて、自分たちが思う以上にフランクな性格だったと、高等部三年の先輩を除いて、アルテミスの『ペガサス』たちは驚きに包まれた。
「──アスクが人型プレデターで、プテラが人型ギアルス──ややこしいですし纏めた名称を考えた方が良さそうですね!」
「プテラリオスも人型プレデターで間違いはないよ。でも念の為を考えるなら“血清”みたいに自分たちにだけわかって、他者が分かりづらいようにするための属名を考える必要はあるかも」
「本日の議題項目に追加しておきます────本当にプテラを学園の外へと出してしまって大丈夫?」
今日話し合う内容を思い出した野花は、ここ最近抱き続けている不安をぽろっと口に出してしまう。
プテラリオスは本人の意向によって、明日アルテミス女学園を飛び立ってどこかへと行ってしまう。音速の飛行能力を持つ彼が空を飛ぶとなれば、日本中に張り巡らされているフライトレーダーによって感知されるのは、ほぼ確定的であると夜稀は言う。
であるならば、どんな事情があるにしろ何が何でも頼み込んで、学園に留まってくれたほうが良い、なんならよほどの緊急事態以外では空を飛んで欲しくないというのが野花の考えであった。
「ミリタリー、政治、航空関係は正直専門外だからなんとも言えないけど、ハジメや月世先輩の意向を聞いて決めたんだから、今更だよ」
「それはそうですけど――」
『アイアンホース』の『
なにせ、『ギアルス・ダルウィノ』によって日本上空を守護する航空自衛隊戦闘機は貴重な4機を撃墜されており、下手に戦える状況ではないという。よって余程の脅威となり得る飛び方をせずに“正体不明ではあるが危険性は無い飛行物体”だと認識されれば放置されるかもしれない。
なるべく、そう見せるためにも、夜稀からプテラに色々と飛行制限を頼み込んだりもした。とはいえ飛行制限を設けた所で大人たちの判断次第であり、どちらかと言えばもしもの時を考えて、大人たちに本気を見せないようにするという意味合いのほうが強い。
「もう許可しちゃった以上はもう仕方がない。そう思おう」
「――そうですね。また三日以上話し合ったとしても、この結論を覆す理由もないですし――でもやっぱり不安です!」
アスクとは違い、まだ明確な理由が分からないプテラリオスを縛る行為はなるべく避けたい。むしろ航空自衛隊を煽る事で相手の体力を削れるかもしれない。アルテミス女学園に留まらず、自由に移動してくれたほうが関係性を隠蔽できるかもしれない、なんだか外に大切なものが有るみたい等々。
不安はあれど理由は多岐にわたり最終的に高等部全員が認可する形で、プテラリオスは翌日の夜に学園を離れる事となった。
「もしもの時の備えは、今日一日掛けて話し合うんでしょ?」
「──そうですね。プテラの事だけではなく大規模侵攻が終わった以上、明確に大人たちに対するマニュアル作りを――」
────キイイイイイイィィィィィィィイイイイイイ!!!
突如として外から聞こえてきた学園全体を劈く爆音に野花は驚きのあまり尻餅を搗き、夜稀も休憩がてら飲んでいたお茶を吹き出した。
「──な、何事ですかぁ!?」
「ゴホゴホゲオ!!? こ、これってプテラのジェット音じゃあ……」
音は瞬間的に遠くへと去っていき聞こえなくなる。もしかして帰ったのか? 明日じゃなかったのか? と状況を把握しようとするが何も分からず。野花と夜稀は慌てふためく。
――ジリリリリリリリリリリリリリリリリ。
混乱の渦に飲まれる『硯開発室』に電話が鳴り響いた。
この電話は野花のために用意したもので、生徒会室にある電話と同期させているもので、つまりは学園長からの連絡であった。野花と夜稀はなんとも言えぬ顔でお互いを見つめ合う。
「……あたしのやらかしで」
「それしかないですね──はい! こちら生徒会室、生徒会長の野花です! ──はい、はい、えっとまだちゃんと分かっていませんが、そーいえば同学年の硯夜稀がなんか空を飛びたいだとか月へ行くんだとか言い出して何か作っていたような──はい、すいません! はい、はいそうですね──はい、とりあえず状況を確認して──はい──」
野花たちが事態確認のために動けたのは、それから5分後であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます