第12話
病室へと戻ってくると、正座をしていた
咲也が話してくれたのだが、私から真嘉への心証をできるだけ悪くしないようにか、いつもは強い言葉を使うイメージがある彼女が、辿々しくなりながらも言葉を慎重に丁寧に選んで話したのがとても印象的だった。
「……えっと、二年生たちでの話し合いだけだと、ちゃんと決められなかったから、真嘉はひとりで彼に会いに行った?」
「……はい」
「それで病室に戻ると、彼が壊した壁の瓦礫を積み上げていて、それを見たら我を忘れるほどカッとなった?」
「……はい」
「なので、つい彼を素手で殴った?」
「……はい」
──えぇ……。
情報整理も兼ねて、真嘉に事実確認を行なう。“はい”と言い訳もなく全てを受け入れるように肯定する真嘉。いつも堂々としていて、二年生を主導している印象を持つ後輩が、悪さをしたことで叱られる子供のように正座をして萎縮している。口調もとても弱々しいものとなっている。
「……月世、咲也。それと
「……っ!? 喜渡先輩、真嘉はっ!」
「いい……行ってくれ咲也」
「でもっ!」
「咲也……」
「……わかった」
フォローをしようとしたのか、咲也が声を荒らげて何か言おうとしたのを真嘉本人が止めてくれた。咲也はとても心配そうにしながらも真嘉の言葉に従い、二年生と兎歌が固まっている場所に移動してくれる。
「……月世」
「分かっていますよ。いまは愛奈にお任せします。生徒会長、硯さん。こちらへ来てください」
念のために月世に声を掛けると、彼女は一年生を連れて、二年生たちが集合している場所とは離れた場所まで移動してくれる……ありがとうと内心で感謝を言いながら、真嘉へと向け直す。
「……えっと……椅子に座る?」
「……このままでお願いします」
「そ、そう……」
並んで正座をし続ける後輩と、何故か彼を前にして私だけ椅子に座る気持ちにはなれないので、立ったまま話を進めることにする。
「それでその……彼を殴ったっていうのは、そのままの意味で、『ALIS』を使わずに素手で殴ったってことだよね?」
「はい……」
「本当に?」
「はい、顔を殴りました……これが……その証拠です」
そういって握った手を見せてくれた。手の甲には殴ったさいに皮膚が剥けて出たであろう、渇いた血がこびり付いており、その出血量からかなりの力だったことが分かる。しかしながら、殴られたほうの彼の顔には怪我は見当たらない。
「そう……そっかぁ……」
──信じられなかったけど、彼に素手で殴ったことは本当だった……どうしよう。
――――――――――
8410:識別番号04
事情を知ったエナの様子はどうだ?
8411:識別番号01
めちゃくちゃ戸惑ってますね……。さっきから顔が引きつりっぱなし。
なんかマジで申し訳ない。
オレからしたら可愛い女の子に殴られたってだけで、別に難しく考えなくてええんやで。
だからマカちゃんを怒るぐらいなら、俺を殴ってくれエナちゃん!
8412:識別番号02
確定⇒識別番号01はマゾヒスティック性を持っている。
8413:識別番号01
誤解です。冗談です。確定しないでください。
――――――――――
──感情的に他者を殴った。それは例え彼が『プレデター』ではなく人間だったとしても絶対にやってはいけないことだとは思う……。でも彼が『プレデター』だからこそ、どう対応していいのか悩む、それが私の正直な感想だった。
数年間『ペガサス』として『プレデター』と戦ってきた経験がある身として、真嘉の素手で殴ったという行動はとても信じられないものだった。
『プレデター』の外殻は種族によって異なるところはあるが、基本的に『ペガサス』の力とは言え、生身ではどう足掻いても傷を付けられないほどに頑強だ。なので真嘉のしでかした事は、私からすれば危害を加えたというよりも、手の込んだ自殺にしかどうしても思えなかった。
これが『ALIS』を手に取って攻撃を仕掛けたのならば、また話は変わってきただろうけど、もはや奇行と呼べてしまうものだからこそ、その時の真嘉の気持ちも察してしまうところがあって、一層判断を付けられないでいる。
──本当に我を忘れて殴ってしまったんだ。殴ってしまうほど追い詰めてしまったんだ。その拳には殺意はなくて、どうしていいか分からなくなって涙を流す代わりに、拳がでてしまっただけなんだ。
あくまで身勝手な妄想の域から出ていない考えではあるけども、真嘉のしおれた態度からしてもそう間違ってはいないと思う。
──だから悩む。無意識に頬に手を当てると顔が引きつっていることに気がつき、なんとか
――――――――――
8424:識別番号01
顔が引きつっているのに気付いて自分のほっぺを揉み揉みするエナちゃん可愛い……でもエナちゃん。お願いだからマカちゃんの顔を見て。青通り越して白くなっているから、ヤバイぐらい震え始めてるから。
8425:識別番号04
マカがそうなっているのは何故だ?
8426:識別番号01
多分だけどマカちゃん、エナちゃんの顔を見て激怒しているように見えたんじゃないかな?
あ、こっち見た……なんか……すごく……困っていますね……。
エナちゃんの顔に、なんでマカちゃんの隣で正座しているのって書いてある。
……ごめん、マカちゃん怒られるなら、俺も怒られたほうがいいよねぐらいの気持ちだったんです……。
8427:識別番号03
エナちゃんは顔に文字を書いているのですか?
8428:識別番号04
実際に顔に何かしらの文字が記入されているのではなく表現の一種だろう。
8429:識別番号02
指摘⇒慣用句に部類される言い回しと思われる。
内容⇒その人物の表情から考えていることが読み取れる意味である可能性が高い。
8430:識別番号01
説明しようと思ったら、もう俺いらなかった件について。
みんな賢くなったなぁ……。
――――――――――
そもそも、前提として被害者である彼が全く気にしていない。むしろ自分も非があると言わんばかりに真嘉の隣で触手を床に寝かせて正座をしているぐらいだ。こればかりは考えすぎというのは無いと思う。じゃないと真嘉の隣で正座して咲也のお説教を大人しく聞いていた意味が分からない。
──それに彼は最初から反撃もしなければ逃げるそぶりを見せなかったという。私のお願いを聞いてくれたからかは分からないけど、真嘉たちの話からは、彼は殴られたことについて最初から気にしていなかったことが窺える。
ともあれ、彼が気にしていないというのならば、泣いている咲也にこってり絞られたあとということもあって、私が真嘉に怒ったり罰を与えたりしても蛇足にしかならない気がする。
真嘉本人だってもう見るからに死ぬほど後悔している。これ以上なにをどうすればいいんだろうか……。
──確かに彼に危害を加えたと考えると、ちょっと思うところはあるけど、それでも結果論として彼が私たちの傍に居てくれる事実確認ができたこともあり、おかげで彼が勝手にどこか居なくなってしまうという不安感が薄らいだ。そんなことを考えてしまう私が真嘉に何かするなんて烏滸がましいにもほどがある気がする。
それに真嘉をこんな風に追い詰めたのはひとえに私の選択によるものだ。彼を学園に連れてきたのは私だし、彼についてどう対応するのかを自分で考えさせた。それによって真嘉は追い詰められてしまって、今回のような行動に出てしまったというのならば、その罪は私にある。
なので、そもそもな話、罰を受けるとしたら私であるべきで、だから真嘉に対して私が許すとか判決を下すとか絶対に間違っている。
もしも真嘉が殴ったことで、彼が学園から去ったというのなら私は足が磨り減りきってでも追いかけて許して貰うまで謝り続ける。敵対するならば命を懸けてでも説得する。それでも駄目なら学園を出て私はどこかへ行ってしまった彼を探す旅に出る、いつかまたみんなと会えるのを信じて……でもそうはならなかった。
──ならなかったから終わり……では駄目なんだろうか?
真嘉が彼を殴ったことを、私はどう処理をすればいいのだろうか? すでに終わっていたものに対して第三者として私はどういう判断を求められているのだろうか?
真嘉に罰を与える審判者として? それとも彼を連れてきた責任者として? それとも先輩として……? この何れかを選ぶとしても、なにを言っていいのか分からない……。
──真嘉は、どうなりたいんだろう? もう聞いちゃだめかな? ……いや、さすがに駄目なのだけは分かる。常識的にも聞くものではないし、それを踏まえて聞いたところで今の彼女のことだ。なんだか自分から重い罰を受けようとするのはなんとなく分かった。
それなら私が真嘉に対してなにかをしたほうがいい……いいのは分かっている……けども……。
「──愛奈、誰も笑わないにらめっこはそろそろ止めてはどうですか?」
声を掛けられて、思考の渦からようやく現実へと戻ってくる。顔を上げれば呆れた様子の月世が、いつのまにか隣に居た。
「月世?」
「優しさは時として悪意よりも残酷だと、愛奈を見ていると時々そう思います」
「えっと……」
「語るわけでもなく、顔を歪めて立っているのは中々に恐ろしいですよ。優しすぎる愛奈」
「え……あっ!?」
月世に指摘されてようやく、真嘉が顔を青白くして、もの凄く震え上がっていたことに気付く。
「ご、ごめんなさい! 怖がらせるつもりはなかったの!」
「い、いえ……その……ごめんなさい……」
体と同じく震えた声で、そう言ってくる真嘉に、私はあまりの申し訳なさから顔半分を片手で覆った。隣から割と深いため息が聞こえてくる。
──なにやっているんだろう。これじゃ無駄に真嘉を怖がらせただけだ。こんなはずじゃなかったのに。
「厳しいことが言えないのなら、土峰だけではなくて生徒会長やわたくしを気にするぐらいなら、何時ものように素直に自分の意見を言えばよかったんです」
「……ごめん、そうだよね」
自分のしでかしてしまった事にはっきりと気づき後悔する。こういったことに向いていないのは百も承知だったのに、彼や後輩のためにどうにかしなければならないという気持ちが暴走してしまった。
「真嘉も、本当にごめんね」
「い、いえ……」
──彼とみんなで生きていけるように、しっかりしようと慣れないことをして後輩に迷惑をかけた、本当に駄目な先輩だ。
「……真嘉、よく聞いて。彼を殴ったことについて、私から真嘉になにかするつもりは無いよ」
同じ目線になるように身を屈めて、真嘉の手を握った。あれだけ悩んでいたのが嘘のように自分の考えを伝える。
「で、でもっ! ……オレはアイツを殴ってしまって……」
「確かに殴ったのは良くなかったけど、彼はもう真嘉の事を許しているよ……だよね?」
私が問い掛けると、彼は首を縦に振った。思えばこうやって彼に聞けば良かったのにそれすらも考えつかなかった。
「ほらね。殴られてしまった張本人が許してるって、だからこの話はもうお終いにするべきなんだ」
「でも……」
「真嘉はどう思っているの? 聞かせて?」
真嘉は口をもごもごして中々答えないが、彼女が話してくれるのを静かに待つ。
「……オレたちはアイツに助けられていいんですか? ……オレは……ともかく……あいつらにもなにか影響があるなら、オレは……罰を受けたい」
──真嘉は自分のしでかした事で、彼が活性化率を下げてくれなくなったらどうしようと恐怖していたらしい。それも自分ではなく他の二年生たちのことでだ。
「先輩は……怒って……ないんですか?」
それに、どうやら機嫌を損ねた私が真嘉たち二年生の活性化率を下げないように彼に頼み込むんじゃないかと考えていたのが、酷く私に脅えていた原因だったようだ。
確かに、『ペガサス』の学園であるここに来てくれるようにお願いしたのは私だ。それを考えれば、私のお願いなら彼は何でも叶えてくれると真嘉が考えてもおかしくない。そうなった未来を私自身、ボタンの欠け間違いひとつで起こっていそうだったと否定できないのだから。
──自分の仕出かしたことで、大切な
「……真嘉、私のお願いを彼が聞いてくれただけで、私に彼を強制する力は無いの。だから私だって間違いひとつで彼に見捨てられるかもしれない。立場で言えば真嘉と変わらないよ」
「……そう、なのか……?」
「うん、そうだよ。それにね真嘉、私は彼と高等部のみんなで生きたいの」
「愛奈、先輩……」
「これから色々と大変だと思う。私は駄目な先輩だから今みたいにたくさん迷惑をかけると思う。だから真嘉……一緒に生きて力を貸して」
「……いいん……ですか?」
「もちろんだよ」
即答すると真嘉の目には涙が浮かんできた。
「不安にさせて、ほんとうにごめんね」
「違うんだ……違うんだ……ごめん……ごめん……先輩、オレ……」
──真嘉から零れる謝罪の言葉には、なにか別の意味……例えばの話、あの時、どうして兎歌と一緒に病室に居たのか、その理由も込められている気がした。真嘉を抱きしめる。野花に比べたら体の大きい彼女であるが、年下の後輩なんだと改めて実感した。
――――――――――
8460:識別番号01
ああ~。完全に蚊帳の外~、でもそれがいい。
……本当によかった。俺を殴ったからってマカちゃんがハブられるようなことにならなくて。そうなったらマジでどうしていいか分からなかったかもしれない。
……蛇なだけにね!
8461:識別番号03
意味が分かりません。説明してください。
8462:識別番号01
えっと、俺って蛇要素あるじゃん? それでハブっていう蛇がいるから、ハブられてるっていうのに俺が蛇という要素を掛けましてー。
はっはっは、さては地獄だなこれ。
8463:識別番号02
質問⇒全体の様子。
8464:識別番号01
泣いているマカちゃんをエナちゃんが慰めている、ツクヨさんはそれを見てニコニコしている。
トカちゃんは何事もなく終わったようだと安堵している感じ? 二年生の子はどうなんだろう……それぞれが違う反応しているからなんとも言えない。エナちゃんたちと一緒に来た二人は、俺のことガン見しながらすごい口動かしているー、怖い。
8465:識別番号04
事態は収束したのか?
8466:識別番号01
んー、やっと一歩前進?
エナちゃんと一緒に来た『ペガサス』の子たちとはこれからだし、みんなの活性化率をちゃんと下げられるか分からないし、そもそも学園について色々と凄い気になることたくさんあるし……やること沢山だなぁ!
……でもやるよ、エナちゃんたちのために、俺に出来ることをしっかりとね。
――――――――――――
「でも良かったです──」
啜り泣く真嘉を抱きしめて背中を撫でている中で、月世の呟き声が聞こえてきた。多分、平和的に終わりそうだと、無意識に口に出してしまったんだと思う危険な本心。
「──誰も死ななくて」
何事もなく終わってよかったという冗談交じりの言葉にも聞こえるが、私は含まれた真の意味を知っている。
──病室に帰ってきてからの月世が、後輩たちにどんな目を向けていたのか、きっと私だけが分かっていた。もしもの時、月世は後輩たち全員を“卒業”させるつもりで居た。
何かしらの要因で敵と認識した瞬間、病室に置いてある後輩の『ALIS』を奪い。反撃をさせる暇も与えず、二年生、一年生、兎歌例外なく病室に居る後輩たちの命を全て刈り取っていた。私と彼の安全のために……。
とはいえ、私の願いを尊重して、よほどの事が無いかぎり動くつもりはなかったので、そこまで心配はしてなかった。悩む私に声を掛けたのもする必要がないと分かったからだろう。
──もし、そんな未来が訪れていたら。私は心が枯れるまで泣いていたと思う、でも月世がしたことなんだと受け入れる。親友だからというのもあるけど、最悪の場合は学園を逃げればいい“ぐらいしか”考えられない私をいつも救ってきてくれたのが月世なんだ。
──私は『ゴルゴン』と戦うのが苦手だ。友達と呼んでいた子が『ゴルゴン』になった時、殺せないと甘い事を言って死にかけたことがある。そんな私を助けてくれて、戦ってくれたのが月世だ。いつだってそうだった。
だから、私は月世のすることを自分がしたことのように受け入れる。月世が私にそうしてくれているように。だから月世のひと言を否定せず、本当そのとおりだねと苦笑した。
「──っ!?」
──ずっと真嘉の隣で正座していた彼が、私たちに背を向けるように月世の前に立っていることに気付いたのは、少し遅れてからだった。
素早いのは元々知っているから、いつのまにか移動していたことについてはあまり驚かなかった。しかし目を見開いて驚く月世を、見下ろす彼はさっきまでとはまるっきり雰囲気が違う。
「……え? ……あ、ちがうの!? 月世はっ!」
──彼の行動の意味に気づき咄嗟に声を荒らげる。そんな私の声に泣いていた真嘉も状況を理解したのか、どうしてという呟きが聞こえた。
彼は月世の無意識の発言に含まれた本当の意味、もしくはそれに近しい意味に気付いたんだ。だから私たちを守るように背中を向けて、月世の前に立ちはだかった。誤解を解かないとっ!
「……愛奈」
じっと見られている月世に止められる。どうしてと視線で訴えるがこちらを見る様子はなく、彼の単眼を見つめ返していた。
――――――――――
8483:識別番号01
……やべぇ。ツクヨさんの呟きが怖すぎて思わず立ち上がっちゃったし、ツクヨさんの前に立っちゃった。
エナちゃんめっちゃ焦ってる……どないしよう。
8484:識別番号04
何故そうなる?
8485:識別番号01
これも全て反射ってやつの仕業なんだぁ……。
自分の意志を伝えることができないからといって、ミスひとつがここまで響くとは……うごごごごご!
怒ってないよー! むしろ怖がらせてごめんねー! 伝われこの気持ち!
――――――――――
「……やっぱりあなたは……ふふっ」
月世が笑った。けど、いつもはなんとなく分かるはずの笑みに込められた意味が、この時ばかりは読み取れなかった。
月世は、ゆっくりとした動作で彼を抱きしめた……ちょっ!?
「不快にさせたようでごめんなさい。もしもあなたが望むのならば──腹を切って詫びましょう」
──月世は本気だ。彼が許してくれそうにないのならば本当にお腹を切るつもりでいる。私の約束があるから死にはしないと思うけど、『ペガサス』の体だからと斬ったお腹に手を入れて大腸を外にだすぐらいはするだろう。だって月世だから。
そんな私の心配を余所に、彼は小さく首を横に振ってくれた。初めて見る動作だが月世の提案を断わったということで間違っていないだろう……よかった。
――――――――――
8489:識別番号01
抱きついてきたと思ったら、いきなり切腹して詫びるとか言ってきたツクヨさん控えめにいってもヤバイ子なのでは???
8490:識別番号03
ツクヨさんはサイコパスですか?
8491:識別番号01
控えめに言った意味ぃ……。
うーん。まだちゃんと話したことないし分からない……単なる性格ならいいんだけどね。
8492:識別番号04
なにか気になることがあれば遠慮無く発言しろ識別番号01。
8493:識別番号01
……ごめん、話すとしたら長くなりそうだし別の機会にする。
彼女以外も確認しないといけないしね。
――――――――――
「──ほんとうに優しい御方ですね。……ねぇ貴方様、もしもわたくしを許してくれるというのなら頭に手を置いてください」
彼はモノアイを左右に揺らしたあと、言われた通りに月世の頭に手を置いた。その様子にほっとしながらも、彼のことを理解しているような月世。そして月世に甘えられる彼に……私はどちらにも羨ましさと寂しさを感じてしまった。
……あとで、私も二人にハグしよう。うん、そうしよう。
「……なあ、愛奈先輩」
「ん? どうしたの?」
「改めてっていうのもおかしいと……思いますけど」
「いつものように話してくれていいよ」
「……俺たち二年生は、愛奈先輩の言うようにアイツを受け入れる。オレは愛奈先輩の力になる……だから、あいつらを助けてくれ」
「うん……。ありがとう。私からも彼に頼むよ……だから心配しないで」
「……ああ」
真嘉が彼を受け入れることをはっきりと断言してくれた。リーダーである彼女がそう言ってくれた以上、とりあえず他の二年生たちも彼を受け入れてくれるだろう。
──そして、残ったのは
「──お待たせ、野花、夜稀」
緊張感を強めながら二人に声を掛けた。今日が終わるのも、きっとあとちょっとだ。
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