第27話 効果音は"ズキュウウウン"一択
「いや、だから彼女になるって」
「誰が?」
「私が」
「誰の?」
「達也の」
公園を歩きながら二人で一問一答をしている不思議な男女がいる。自分達だ。
流石に絶叫した後、恥ずかしくなったのでレストランから出て近くの公園に来た。この公園はたくさんのアジサイが綺麗に咲いていて、多くの人が写真を撮ったりしているが、そんな綺麗な景色が一ミリも入ってこない。
「……冗談じゃないのか?」
念のための最終確認をしてみた。
「私は冗談でそんなことは言わない」
どうやら本当の本当らしい。確かに、桜ノ宮はそんなことは言わない。
「凛子さんに何か言われたのか?」
「凛子さんは関係ない。手伝ってもらったけど、私がそう思ったから」
「……手伝った?」
「このデートのこと」
……話の全体像が見えてきた。どうやらお茶会後のご褒美の流れは桜ノ宮の希望を茶道部でサポートしていたようだ。
「いつからそう思ってたの?」
今まで悪友感が強すぎて自分達に男女のイメージが無かった。
「お茶会当日!」
「つい最近だなっ」
歩いていた桜ノ宮が自分の前に回り込んできた。
「私も達也のこと今まで最高の悪友としか思ってなかった。むしろ体ぐらいなら許してもいいぐらいな相棒だと思ってた」
こちらの目をしっかりと見る。それは褒めらているのかどうなのかイマイチわからない例えだなーと内心思った。
「ただ、この前のお茶会で私の世界は変わってしまったんだよ。アンタのせいで」
まったく身に覚えがない。あの日、いっぱいいっぱいだったから何かあったなんて……。喉をごくりと鳴らしながら桜ノ宮の言葉を持つ。
「た、達也が言ったじゃん。……『愛してるよ、撫子』!」
……ん? そんなこと言ったっけ? ……あっ、勢いで言った記憶がある。えっ、もしかしてそれで……。恐る恐るアイコンタクトで桜ノ宮に確認を取ると、全力の頷きで肯定してきた。
桜ノ宮は意外にロマンチックなんだなーという現実逃避を一瞬でやめ、現実に向き合う。
「……っていうことは、桜ノ宮は俺の事好きなのか?」
「ああ、最高に大好きだぜ! ライク以上のラブだ!」
『達也』と呼ぶのはつっかえるのに大好きは言えるのな、桜ノ宮は。
そんな桜ノ宮になんて返事をすればいいのか迷っている。そんな時に桜ノ宮は優しい表情になった。
「と、私の願いを一方的に言っても困るだろうからさ。私も分かってるよ」
その一言で心臓をぎゅっと締め付けていたものが少し和らいだ。
「だから、さ」
健康的で元気いっぱいの笑顔で桜ノ宮は告げた。
「まずはセフレからでどうだ?」
ピコッ!
「この痴女!!!」
もはや脊髄反射のツッコミ。
「なんだよ、嫌なのかよ?」
桜ノ宮はブーブーと文句を言ってきた。
「当たり前だろ! 嫌だよ、そんな不健全な関係!」
「童貞のくせに、ちゃんとしてんのな」
「あー、だからお前は!!」
さっきまでの少し真面目な雰囲気は霧散してしまい、残ったのはいつもの自然な形だけ。
「というわけだから、まずは私も対象としてみてくれよ。そこからが私たちのスタート」
本当の桜ノ宮の心は分からないが、その言葉には素直に受け取る。
「ああ、分かったよ」
桜ノ宮は指を一本立てた。
「それと、私のことは『撫子(なでしこ)』って呼んで」
「……わかったよ、撫子」
「よしよし!」
中々見られない満面の笑みの桜ノ宮、いや、撫子を見ることができた。
二人の間にできていた空気がだいぶ緩んできた。もういつもの空気に完全に戻る前に撫子が思いついたように言った。
「あっ、念のために本気の証拠みせなきゃだな」
「え? 本気の証拠ってな……」
最後まで言い切ることができなかった。
なぜなら、撫子の唇がこっちの唇を優しくふさいでいたから。
「……私のファーストキスだから、大事にしてよ」
そう言って撫子はどこかへ全力疾走して消えてしまった。
そうして、公園には唇に自分の手を触れている男が一人残された。
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