第20話 それはそれ、これはこれ
5月、長期休みであるGWが終わり久しぶりの講義が再開した。
多くの学生はせっかくの休みが終わり、また講義漬けの日々を送ることにある程度の憂鬱を感じてしまうだろう。残念ながら次の長期休み(という名のぐうたら期間)は夏休みまでお預けだ。
しかし、そんな一般的な大学生とは違い、GWが終わり講義が始まることを心待ちにしていた稀有な学生もいる。
それは自分、水ノ宮 達也だ。
先に言っておくが別に休みを削ってまで勉学に励みたいという高い志は持っていない。もちろん学費分以上は元を取るつもりではいるが、休みは休みできちんと取りたい。それに休みはやっぱり長い方が良い。
そんな自分がなぜ講義を待ち望んでいたかというと。
『達也さん、お昼一緒に食べましょ!』
メッセージアプリにランチのお誘い。
銀ノ宮が家に引っ越してから、時間があればご飯やお出かけの誘いがくるようになってしまった。……正直、最初の頃はこんな可愛い子からのお誘いはないので悪い気はしていなかった。
しかし、こう何日も連絡がくると一人の時間が欲しくなる。
しかもしれだけではない。
『たつたつ、お昼食べた? 一緒にどう?』
なぜか夏ノ宮からもGWになって引っ越してから、急にお誘いが増えた。前まではたまに焼肉に行くぐらいだったのに、同じ家になったらどこかへ行こうとよくせがまれるようになった。
こちらも嬉しく思いながらも、自分の時間が欲しいとつい、贅沢な悩みを言ってしまった。
桜ノ宮に相談すると、『モテ期じゃん、良かったな』と背中をバシバシ叩いてきた。ただ、笑顔だったものの、その目は笑っていなく背中には紅葉型の跡ができていた。
そんな状況もあり、大学が始まってしまえば学年や学部が違う銀ノ宮と夏ノ宮とは会う時間とお誘いはだいぶ減ってランチを誘われるくらいだ。
そうして勉強に励み、本日の講義がたった今すべて終わった。
今日はバイトもないので、どうしようかと講義室で考えていると、後ろから声をかけられた。
「よっ、モテ期ボーイ!」
桜ノ宮だった。前に相談してからたまにその呼び方でからかってくるようになった。めんどくさいから流して、返事する。
「んー、何?」
「GW明けなのにやる気満々だな」
桜ノ宮はそう返事をして、ニシシッと音が出そうな笑顔を浮かべていた。なんだかとても嬉しそうだ。
「なんかいい事でもあったのか?」
「ん? ああ、今日は久しぶりの部活だから楽しみなんだよね」
桜ノ宮は茶道部に所属していて、GW中は部活が無かったのだろう。こう見えても桜ノ宮の部活に対する熱意は高いし、色々な事を両立させながら部活をしているのはすごい。
そんな話をしていると久しぶりにお茶が飲みたくなった。だから、ついポロっと言ってしまった。
「久しぶりに見学に行っていい? お茶とお菓子を食べたい気分だし」
「おっ、珍しいな! もちろんさ、相棒! じゃ、一緒に和室に行くか」
桜ノ宮は二つ返事で許可してくれた。前にも何回か見学させてもらっていたので、ある程度行きやすいし茶道部の人はみんな優しい。
これが、あんな事につながるなんてこの時は知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます