第13.5話 焼肉好きの、焼肉好きによる、焼肉好きのための
こちらは小話になります。
本編には関係ありませんので、次の話へ飛んでも大丈夫です。
実は焼肉に興味が……という方はぜひ。
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『この肉』ではガスロースターではなく炭火網焼きで肉を焼く。
個人的にはそれぞれの良さがあるので、どちらが良いかは決めづらい。例えば煙や匂いが出にくくしてあるロースターの機能性や焼いている感を味わえる炭火の情緒。ただそれだけではなく、熱の管理等もあり、話は尽きることはなく肉は黒焦げになってしまうだろう。
そんな非常に大事な事を考えながら、炭火によって段々と温まりつつある網を見ていた。
なぜだろう火を見ているとなぜか心が落ち着いてくる。
ふと、せっかくの機会なので、この焼肉というものについてちゃんと考えてみようと思った。……これは決して嫌なことから現実逃避するために行っている訳ではない、断じて。
さて、普段特に何も考えずに行う焼肉。では肉を"焼く"とはどういうことなのか。"焼く"つまり『熱を与える』ことについて考えてみることにした。
お肉大好きなみんななら当然ご存じの通り、物に熱を伝える方法は基本的に3つある。
それは、『熱伝導』、『対流』、『輻射熱(ふくしゃねつ)』である。
それぞれ簡単に説明しよう。
『熱伝導』は、熱い物と冷たい物を直接くっつけた時に、熱い物から冷たい物に熱が移ること。
例えば、すごく寒い日に手が冷たくて、自販機であたたかい飲み物を買って手に持つとする。そうすると、手はじんわり温かくなるけど、飲み物が段々とぬるくなってしまうこと。これが熱が移動して、熱い物がぬるく、冷たい物が温かくなるということ。
『対流』は気体や液体が場所によって温度が違う時に、温かいものが上に行って、冷たい物が下に行くこと。
例えば、少し冷めかけたお風呂に入る時に、浴槽の上は温かいけど、下の方が冷たくなっていること。熱が対流して、場所によって温かさが違うこと。
『輻射熱』は、物体が発する熱が目に見えない"電磁波"となって伝わること。つまりは直接触れていないけれども、電磁波となって相手を温めること。
例えば、太陽の光を浴びているとポカポカと暖かくなることも輻射によるものになる。直接触れていなくても、"電磁波"によって熱くなる。
では炭火網焼きはどうやって肉に熱を与えているのか。それはメインとしては輻射熱によって与えられている。目には見えないが炭から発せられている電磁波によってお肉に火が通ることは感覚的にわかるだろう。
しかし、この電磁波によって伝わる熱、つまり温度は、残念ながら網の位置によって差が出てしまう。
炭を網の中心の下に置いたとしよう。基本的に中央が一番高く約400℃前後で、その周囲が200から300℃前後、一番外側が100から200℃ぐらいとなり場所によってかなり差ができてしまうという記事を見たことがある。もちろん空調や網の形状に依存するので一概には言えないが、基本的には中心が熱くそこから同心円状に温度が下がるように広がっていくようだ。
つまり何が言いたいかと言うと、その温度の違いもあり、どんな特性のあるお肉をどの温度で焼きたいかを常に理解しながら手際よく焼かないといけない。焼肉とは非常に頭を使う食事だということだ。
ちなみに、よく焼肉をすると服が臭くなる問題があり、これもガスロースターか炭火網焼きでも影響してくることがある。
そもそもの服が臭くなる原因は、肉から出てくる油やたれなどが炭や火に触れて燃えることによって出てくる"油煙(ゆえん)"が服や髪に付着するからだ。
このように原因が分かっていることには対処できる。今は語らないがこの臭いについても語る時がくるだろう。そこはより楽しい科学の世界だ。
これはほんの一部でしかないが、食べること以外にも焼肉の世界は非常に深く広い。ああ、焼肉は素晴らしい。
では、実際にお肉をどのように焼いていくか考えていこう。
そう思った矢先、向かいのノー・ルールラピッドガールが言った。
「たつたつ、ボケっとしてるとお肉無くなるよ?」
綺麗に管理されていたお肉たちは最高の状態になってこの右手の箸で摘み取られる直前で夏ノ宮に全て刈り取られていた。
……忘れていた、ここは戦場ということを。
仕方ない、肉の焼き方は別の時に考えるとしよう。
戦場に舞い戻ることにした。
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