第7話 怖いときの独り言はガチ

 そのまま本日の大学の講義をつつがなく受けて、バイト先に向かった。


 バイト先は今日も多くのお客さんが来ており、事務仕事を片付けた後に手が回っていない皿洗いの方のヘルプに入った。役割には入っていないけど、お世話になっている夏彦さんや小春さん、それにバイトメンバーのためにも手伝える時は率先して行う事にしている。


 するとあっという間に閉店時間が来て、店じまいもレジ計算も終わった。


 と思ったら、急に店長の夏彦さんが忘れていた急ぎのがあったと、仕事を依頼された。今までこんなことは無く珍しい。別に予定もないので引き受けた。


 思っていたよりも大変な仕事で、もうすぐ日を跨ぎそうな時間までかかってしまった。今日のまかないである焼き鮭弁当と日持ちしそうなおかずをタッパーで4つももらい、店を出た。




 一人でいつもの帰り道を歩く。桜ノ宮の言葉やバイトの忙しさで忘れていたが、一歩家に向かって歩くたびに忘れていた嫌な感じがじわじわと湧き上がってくる。


 いや、大丈夫だと自分に言い聞かせた。その嫌な感覚を振り払うかのように少し早足で歩いているといつの間にか、昨日の人物と出会った場所まで来ていた。


 少し前から分かっていたが、今日はそんな人物はどこにもいない。あるのはいつものアパートへつながる道と肌を伝わるまだ少し冷たい風だけであった。


「……何もないじゃん」


 誰に向けた言葉でもなく、ただ安堵と文句を込めたような気持ちがつい口から出た。


 足取り軽くアパートへさっさと帰り、ずっと空腹を訴え続けているお腹にまかないを与えなければいけない。歩みを進める。


 そこからさらに数分歩きアパートの入り口が見えるところまできた。


 その瞬間、自分の安堵や空腹は一瞬にしてどこかへ行ってしまった。






 例の人物がアパートの前でたたずんでいる。



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