第6話 ボケとオチ、そしてクリティカルヒット

「ぶわっはっはっは」


 腹を抱えて笑う桜ノ宮。目には薄っすら涙を浮かべるほどである。


「いやー、いきなり真面目な顔をして、『相談したいことがある』って言うからどんな話かと思えば。アンタもそんなジョークが言えたんだな」


 ……こいつに相談したことを早くも激しく後悔した。少なくとも友達の話は真面目に聞いてくれる奴だと思っていたが、完全に冗談だと思われた。


 軽くため息をついた。


 まぁ、でも確かに、普通そんな話をしてもちょっとした笑い話ぐらいにしかならないし、本気で心配する奴もいないか。


 そう思っていると、桜ノ宮はトドメを刺しにきた。


「で、オチは?」


「は? オチ?」


「そう、オチ」


「そんなんないよ」


 えー、と逆に不満そうな顔をした桜ノ宮。


 帰り道怪く見えそうな人に出会った。怖くて走って家に帰ったら何事もなく、今日も大学に無事来れました。以上。


 それは確かに面白くないし、オチもない。いや、オチがある話をしたかったわけではないのだけれども、自分で聞いていてもチープな話だと思ってしまった。


 ……これ以上は話してもしょうがない。それに話せたこと自体で少しは気晴らしになったことだし、さっさと忘れよう。次の話題に移ろうと決めた直後だった。




「ま、良く分からないけど、何かあったら連絡しな。飛んでいくから」




 いつもよく聞く桜ノ宮撫子のトレードマークのような口癖。


 それが自分の心に突き刺さる。


 普段なら流すそれも、今日はなんだか心に残り、わずかに残っていた小さな不安を吹き飛ばしてくれた。どんな時だろうと変わらない彼女の優しさに心が温まる。やっぱり彼女は自分にとってかけがえのない人だと感じた。


 嬉しさで少し胸が詰まる。大切な友に今回ばかりは珍しく素直に感謝を述べようとした時、さらに彼女は言葉を足した。




「でもよ、そんな恰好悪い言い方じゃなくてもっとストレートに誘ってくれよ」




 桜ノ宮が何のことを言っているか分からない。婉曲に何かを訴えてきているのは分かったが、それが何を指しているか分からない。首をかしげ、思案顔になっていると彼女はニヤニヤしながら説明を始めた。





「いや、私を部屋に呼びたくてそんな話をしたんだろ。アンタになら誘われんの嫌じゃないけど、もっと男らしく誘って欲しかったよ」





 ピコッ!


 自分の中の何とも言えない感情を乗せたハンマーをしっかり桜ノ宮の頭頂部にクリーンヒットさせた。できればこの一撃でこのドラマチックハイセンス痴女の脳内回路が多少は正常になることを願って。


 ここからお互いに稚拙な文句の言い合いという不毛なやり取りをすることになってしまった。しかし、それが終わる頃には不安と恐怖という感情は綺麗さっぱりどこかへ飛んで行ってしまった。




 悔しいけど、今日ばかりはこの悪友に素直に感謝した。

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