第2話 マゴ娘 プリティーダーゼー
『優しい人になりなさい』
小さい頃から父や母によくそう言われて育てられてきた。一番大事なことは勉強ができたり、かけっこが速いことではなくて、人に優しくできることだと言われ続けてきた。
だからだろうか。すべてはできないが、出来る範囲で困っている人を助けるようにしてきた。
ただ、そこに必要なはずの自身の信念や熱い情熱などは一切持ち合わせていなかったが。
その"人助け"は周りの人から始まったが成長と共に段々と範囲が広まっていった。養護老人ホームのボランティアだったり、街の清掃活動だったり、小さい子供に本の読み聞かせをしたり。この世の中は困っている人を探すには困らないようだ。
そうして、大学生になった今も時間があればそういう活動に参加してきた。これはすでに習慣になっていた。
この歳になると中高生だった頃には気がつけなかった人との触れ合いの良さが分かるようになった気がする。まぁ、それを大学の悪友に言うと、『ジジくさっ』と鼻で笑われてしまったが。
そうは言われても、こういう活動を辞めることは無かった。その理由は分からない。
『優しさ』とは結局何なんだろう。
「タッ君は彼女とかいないんか?」
老人ホームで催し物を一緒にやって仲良くなった銀次郎さんに聞かれた。銀次郎さんは奥さんに先立たれて息子夫婦に迷惑かけたくないと自分から老人ホームにきた元気なおじいちゃん。孫のような感じで接してくれて話しかけてくれる。
その銀次郎さんは年齢を感じさせないぐらいアグレッシブだ。スマホもPCも使いこなし、若者に人気な自撮り向けアプリをインストールして、一緒に写真も撮ったこともある。本当にエネルギッシュだ。
周りからも『銀さんはいつもギンギンだねっ』と言われて、それを喜ぶ銀次郎さん。……まぁ、本人が嬉しいならいいか。
さっきの質問に軽くため息をつくように返した。
「いないですよ。俺はどうやらそういうものとは縁遠いようなんで」
それを聞いた銀次郎さんは悔しそうな顔をした。
「かーっ、世の中の女どもは見る目がないな! タッ君みてぇなしっかりとした若者は最近そうそういねぇし! 面構えだって悪くねえ!」
すごく自分をかってくれる銀次郎さんの言葉はありがたいが、自分がそんなしっかりしていないことは良く分かっている。容姿もずば抜けてはいない、平凡なものだと思う。
すると銀次郎さんは腕を組み一瞬思案したような表情を作ったかと思うと、自身の膝を叩き豪快に言った。
「……よしっ! うちの孫はどうだ! 丁度タッ君と同じ大学に入学したばかりだしよ! 持ってけ泥棒!」
ピコッ!
隠し持っていた叩くとピコピコと鳴るハンマーで銀次郎さんの頭にクリティカルヒットを決める。
「誰が泥棒だっ。それに猫の子どもをあげるみたいに、自分の孫娘を配るな」
こんな感じの銀次郎さんだからいつも敬語抜きのツッコミをいれてしまう。柔らかくて一切痛くないこのハンマーなら気持ち良くツッコめる。
「へへっ、まー、俺はいつもふざけてるけどよ、今回はマジだぜタッ君。うちの孫は器用良し、優しくて、頭も良いし、べっぴんで、おじいちゃん大好きなんだよ! 俺の言うことは何でも信じちゃって可愛いんだぜ! ほら、最高だろう!」
「はいはい、最高ですね」
本当に嬉しそうに語る銀次郎さん。流すように答えてしまったが、きっと銀次郎さんの孫なら本当にいい子なんだと思った。
「でもそんな良い人ならもう素敵な人ができているんじゃないですか?」
「いや、あの子は奥手でそんなヤツはできてねぇ」
「……だとしても、そんな奥手な子にいきなり知らない男連れてきたらビックリして嫌われちゃいますよ」
「誰でも最初は知らないもんだ! それにタッ君なら大丈夫だ。俺を信じろ」
なぜこの人はここまで自分を推してくれるのだろうか。この老人ホームで知り合ってから半年、毎日会うわけではないからそこまでお互いを知っているわけではない。
それでもこうして何の疑いもなく自分以上に自分のことを信じてくれる言葉に心が温かくなった。
「分かりました、分かりましたよ。では、お孫さんに俺の事をオススメしておいてください」
ここまで言ってくれるのだから、形だけでも好意を受け取っておくことにしといた。
『優しさ』というものは今でも良く分からないところがあるけれど、人の好意を素直に受けとることも優しさにつながる気がする。
……自分に都合良すぎか。
残りの時間も他の入居者含めて楽しい時間を過ごした。
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