第5話 インドでの敵

 それは全インドであるといっても過言ではないだろう。しかし、それでは身も蓋もない。

 具体的に言うならば、暑さ、蚊、食べ物、ミネラルウォーター(!?)、リクシャ(サイクルリクシャ、オートリクシャ、人力リクシャ、タクシーなど移動手段)、レストラン、雨、犬、牛、であろうか。

 暑さは昼に体力を奪い、夜には安眠を妨害し、体力の回復を妨げる。

 蚊は夜に安眠を妨害する。

 食べ物は日本人の舌には美味しくなく、食欲は暑さもあってあまりわかない。カラいので胃の弱い者にはキツイ。また、食中毒、下痢の原因になる。

 実際、私は下痢になった。ドラクエ風に記述するなら、

「旅人は食堂で食事をした。旅人は毒におかされた」

 という次第。

 ミネラルウォーターは多くのものがくさい。買ったミネラルウォーターボトルの半分以上がくさかった。日本ではありえないことだ。比較的ましだと思ったのは、ペプシィのアクアなんとかというミネラルウォーター。これはラベルも新しく、臭いもなかった。

 リクシャ系は料金交渉が面倒であり、ときにボラれることになり、デリーでは勝手に悪徳旅行代理店に連れて行かれ、高額なツアーを組まされることもある。値下げ交渉をしても、到着時に値上げ要求する者が多い。

 レストランはうまい料理をつくらなければならないとは思っておらず、また、メニューにあるのに「それは今ない」と言う。なら載せるな! 暇そうなレストランだとほとんどのメニューが不可である。客がこないから仕入れていない。

 雨は移動を妨げ、おおきな水たまり、ときに汚物の溝をつくる。私は汚物の溝に左足をつっこみ、靴下と靴を洗った。

 犬。狂犬病に注意せねばならず、インドのどこにでもいる。夜、ベナレスの宿で滞在していたとき、外で急に複数の犬が吠え始めたと思うと、女性の悲鳴が聞こえた。暗闇で犬を踏んずけ、襲われたのだろうか。

 牛。犬とけんかをして、突如として、突進する。細い路地で、私が牛の後ろを着いて歩いていると、突然、駆けた。犬が牛を追う。牛と犬はときにけんかをする。牛がこちらに歩いていたらと思うと慄然とする。また、牛は狭い路地を占領し、糞をいたるところに落とす。駅の構内、商店の中でも見た。私は停電の多いベナレスの暗闇で、このやわらかいものを踏んずけた。

 まだある。インド人だ。不要な店を紹介しようとするインド人も基本的に敵だし、道を尋ねてテキトーな場所を教える奴も敵だ。暑い中、私は2度も、インド人のテキトーな返答のために、無駄にほっつき歩くことになった。

 電車にも乗り損ねそうになった。私の車両の場所を尋ねると右を指す。右へ走るも私の車両は見つからず、最右まで到達し、そこで係員に尋ねる。逆方向だという。結局、私の車両は最左だった。おおかた乗り損ねるところだった。わからないならわからないと言ってくれ! テキトーに教えるのは親切ではないのだ。

 チップ目当てで勝手に案内をする奴もいる。いや、お前に何も頼んでないし、私に近づかないでくれ。話しかけないでくれ。

 以上、インドの敵。私は大した被害に遭わなかったが、数百ドル単位の金を取られ、それに見合わぬものをつかまされた(ツアーにしても、宿にしても、物にしても)人も多いのだ。インドは油断ならない。

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