叙事詩 1

 バルツベルング史において、王妃マリーの記述は賛否の分かれるものとなっている。

 

 建国王アインス、文明の開祖リヒトと並び三大英雄に数えられながら、何故否定的な記述があるのか?それは彼女の人種的要因が大きいのではないのだろうか。

 彼女はバルツベルング第二十七代国王の王妃であるが、バルツベルング人ではなかったとされている。近親婚が盛んであった王家においてそれは異例とされ、周囲の反対を押し切っての婚姻だったとされる。血統を重んじる王家の中には不服を露わにする者もいたのだろう。マリーの存在は誰にでも受け入れられるものではなかったということだ。

 

 もう一つ、かなり少数派にはなるが、専門家によってはマリーを悪女として捉える者もいる。

 彼女はバルツベルングに史上最大の繁栄を築いたが、それは結果論であり、そもそも国王に取り入り地位と名誉を手に入れようとした異国民であったという説だ。勿論どちらの説もあくまで推測であり、確証を得られるものは何も無い。

 

 三大英雄の中でも一際異色であり、しかし唯一バルツベルングのみならず、世界中に名を轟かせる世界平定の英雄。彼女の名が一番最初に登場するのは歴1202年、所謂トトルト王朝時代最後の年である。

 しかし、彼女の名はバルツベルングではなく、大陸を隔てた先にあるデール(現在のパリスト)の歴史書に最初に登場した。

 歴史書の真偽はさておき、その歴史書はパリスト最大のカンティス歴史博物館で一般公開されている。

 ここで注目していきたいのは、彼女の名前である。マリエ・ナカムラと表記されるそれは王妃マリーの本名であるとされていたが、近年になりこれはデール人がマリーという名前に馴染みがなく、マリエと聞き間違えたものだとする説が発表された。

 彼女はデール人ではない。これは名前からしてみても明らかであり、王家に所蔵される彼女の直筆の日記に使われている文字から、彼女は東方のアシハラ近辺の出身であるとされている。

 何故マリーは遠いデールの地へ渡ったのか、それは今も謎のままである。

 

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バルツベルング叙事詩【王妃マリー】 ギガンティック夢子 @giga-yumeko

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