第21話 企まれている事

 アボの悲壮感漂う心持など気が付かない真太は、美奈を連れてと言うより美奈の車で家に、たどり着いた。美奈が病院に舞羅と行った時に、警察の人が来たので、自分の車で警察署に行っていたのである。任意同行であり、捕まった訳ではなかったが。ロバートとは彼の家まで送って別れた。

 家に帰ってみると、翼は気が付いたと連絡が入っていた。ほっとする真太である。本人の話によると、おばあちゃんから逃げて階段を急いで降りようとして、自分で転げ落ちたそうだ。そういう事情もほっとする所である。そうでなければ、美奈も心苦しい事だろう。真太も魔物が階段から突き落としたと言う展開は、変だと思っていたので納得した。魔物ならもっとやりようがあるだろう。舞羅が階下に居たので、追っては行かなかったとみえる。真奈によると、舞羅と一緒に慌てて翼を病院に連れて行った後、シンが美奈に入っていた魔物を退治したと言っていたそうである。

 美奈はそれでも、意識が無かったとはいえ、自分を責めている。英輔爺さんは以前のシンの蘊蓄を、一家に度々話していたらしい。美奈は運転しながら、そう言っていた。入って来たと思ったら、強く心で弾くのだと。真太は爺さん、あんまり言わない方が良かったのになと思った。素人が魔物に勝てるわけがない。偶々、最近爺さんに入らなかっただけだろう。

 香奈ママは美奈ばあさんが来て、割と機嫌がよく、二人して晩御飯を作り出した。千佳由佳も人数が増えた事には機嫌が良い。しかし、真太はアボパパのみ、そうではないと見た。

「パパ、おばあちゃん連れて来て不味かったの」

 気になる点は聞くのが真太である。

「いや、良いんだよ。ただ、ママがおばあちゃんとお爺ちゃんは、セットだと言っていたからね」

「お爺ちゃんが帰ってきたら、きっと自分の家で暮らすと言うよ。そしたらおばあちゃんも家に帰るよ。多分。おばあちゃんが家に居るのは今だけだと思うけど」

「それもそうだね」

 パパの機嫌が直って来た。真太は、これは大人の事情って言う奴だと思った。真太が美奈を警察から連れ出すには、こうするしかなかったから仕方がない。

 夕方になると、舞羅が自分の荷物を一揃い持って、ふうふう言いながらやって来た。真奈が翼に付き添うので、一人で家に居る訳には行かないと言って泊まりに来たのだ。アボは、

「荷物が多くて大変だったね。連絡をくれれば迎えに行ったのに」

 と、機嫌よく言った。

 おばあちゃんと舞羅は、真太の勉強部屋で寝る事となった。

 そして、今日の極めつけは、そろそろ皆で寝ようかと思っていると、柳君が泊めてくれと言ってやって来た事である。柳君としては、ママは精神科に入院となり、付き添いは出来なくなったが、神社に一人で帰って来て、どうも、神社には居たくないと言う。それはそうだろうと言う事になり、泊まらせる事となった。大所帯である。

 パパは、真太にこっそり、

「良いよ、良いよ、来る者は拒まず、去る者は追わずだ。まだ誰も去らないけど」

 と言い、何だか自棄気味だ。

 柳君は、

「僕は、一階のリビングのソファで寝るよ。いつも真太が寝ているから、寝心地が良さそうだし」

 と言っている。

 真太は、どうせ悠一の寝る所はそこしかないな。と思った。だが、どうも寝場所を取られたような気がするが、仕方ない。真太の昼寝の時、悠一もそこで寝ていそうな気がする。

 翌日朝、極めつけは昨夜では無かったのが分かった。美奈のスマホに英輔から電話がかかった。

「朝っぱらから何処に行っているんだ。家の電話に誰も出て来ない。今、空港だから迎えに来てくれないか。まさか旅行とか言っていないよね」

 と言ってきた。

「あら、もう帰って来たの。あたしと舞羅は、香奈の家に泊っているのよ。翼が入院して、真奈は付き添いなの。事情は会ってから話すわ。そういう事で、真奈は行かれないからあたしが行くわ、あら、アボさんが行ってくれるって。ええ、ええ、あたしもついて行くから」

 真太は聞いていて、英輔はアボと二人っきりは、気まずいらしいのが分かった。

「パパ、昨日の台詞は今言うべきだったね。昨日は早すぎだね」

 真太が言うと、アボは、

「しっ」

 と、言うので、あの台詞について、これ以上話してはいけないらしい。聞かれたくない人が居たのだろう。

 パパ達が出発した後、学校に行く時間になったので、真太も悠一と家を出た。


 後で、真太がアボパパから聞いた話ではあるが。

 アボと美奈は英輔を空港に迎えに行った。

 帰りの、道すがら、翼君の怪我や、最近の事情などを改めて英輔に説明したアボ。川西神社の事情になると、英輔爺さん、急に口を挟んだ。

「川西神社の孫息子だと、妙だな。あそこの息子は確か小さいころ死んでいたと思うが、それで夫婦で、気持ちを変えたいと海外協力隊に入った筈だ。あそこの宮司がそう言っていたと、紅琉神社の宮司が言っていたぞ。美奈は憶えていないのか。歳も翔と同学年じゃあなかったかな。幼稚園の時に亡くなっていた筈だ。死因はええと、何かの病気だったはず」

「まあ、じゃあ悠一君は何処からか、養子に来たのかしらね」

 アボは、

「一緒に海外から帰って来たらしいから、現地で引き取っていますね。何処の国に行っていたんでしょうかね。お父さんは知りませんか」

「あの頃の海外協力隊と言えば、アマズンが一般的だったな。アマズン川下流の平野の農地開発だ。他にも行く所はあったようだが」

 アボは、『これで、辻褄が合うな。あの一家はアマズンに居た魔物を連れて来たようだ』と思っていた。

 一先ず、アボが自分の家に連れて帰ろうとすると、

「アボと香奈の家に居たのか、美奈。わしは自分の家じゃあないと、ゆっくり出来ない質なんだ。わしの家に行ってくれないか、アボ」

 アボはこれ幸いと、英輔の家に行こうとすると、美奈が、

「でも、警察の書類には、引き取り手の所はアボと香奈がサインしているのよ」

 と言い出した。内心がっくり来るアボだったが、

「それはわしが居なかったからだろう。今からでも書き直しに行こうか。しかし、ああいうのは形式だけだろうな。元、翔の真太が掛け合ったんだろう。だから帰れたんだ。元、元山さんに言ってくれたから、入院しなくて良くなったんだろう。つまり大人なら、サインは誰でも良かったはずだ」

 と英輔爺さんは常識的な結論を言ってくれて、胸をなで下ろすアボパパだった。

「舞羅は真奈たちが帰ってくるまで、預かっていてくれないかな、アボ。それに翼の事もあるから、真奈はわしらと別居するんじゃあないかな。どうもその方が良い気がするな。真奈と後で相談しよう」

 と言って英輔は自分の家に帰る事にした。

「お義父さん、お疲れさまでした。お義母さんお大事に」

 アボはそう言って、帰った。

「去る者は追わずだっ」

 と、上機嫌である。所が帰る途中で、英輔から電話があった。

「家に入ったら、美奈の様子が変わったな。道はこの家に出来ているようだ。悪いが戻って来てくれ。あ、今シンが来て払っている。だからわしらの荷物をまとめるから、今日は取あえずアボの家に泊めておくれ。がっかりさせて悪かったな」

「とんでもない。がっかりだなんて、誤解ですよ」

 英輔爺さん、お見通しである。

 失神中の美奈ばあさんを抱える英輔が車に乗ると、取あえずの二人の荷物をトランクに押し込み出発したアボ。英輔は熊蔵爺さんの所で聞いてきた話を、アボに聞かせた。

「熊蔵さんによると、あの島の予知能力者たちが、亡くなったり、翼みたいに頭を大怪我して能力が無くなっているそうだ。何か予知されたくない事を企んでいる。と言う事だな。だが、長老が亡くなる前に気がかりな事を予知していて、熊蔵さんに言っている。どこかの国の大統領と思しき人が、狂ってしまって、いわゆる核のボタンを押すらしいぞ。だが龍神様が、防いでくださると言って亡くなったそうだ。南方の真っ黒な大きな龍神だそうだ。知っているだろう」

「ええ。心当たりが有ります」

 アボは陰鬱な表情のまま、自宅に帰り慌てて機嫌良さそうな素振りをしたが、香奈は千佳由佳を幼稚園に連れて行った帰りに、車で帰って来る三人を見かけていた。アボの様子が違っているのに気付いていた。

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