第22話 変事の気配
真太と悠一が学校に着くとロバートは先に来ており、三人で最近の出来事で、お互いがいない時の状況を話し合った。そして、悠一が彼の身の上で、言っていなかった事を話し出した。しかし、何だか昨日真太とロバートで話していたことが悠一に知れているような気がして、不思議だった。
「俺、実の所養子なんだ。婆さんだけでなく、パパもママも親類であって、本当の親じゃあない。海外協力隊で、アマズンの、俺の実の親が行っている所に、今の親が来たんだ。実のパパと今のママが兄妹だった。現地で俺の実の両親が死んだので、妹だったママが俺を引き取る事にした。パパも引き取る事には賛成だった。それで問題なく養子になった筈なんだけど。しばらくして、今のパパが、俺やママと話をしなくなったな。夫婦仲が悪くなったけど、俺の所為じゃあ無いだろねって、ママに確かめたら、違うと言っていたな。俺も家に居ても面白くないから、現地の友達の家に泊ったりしていて、家ではご飯を食べに帰るだけだった。そういう感じで一年以上過ごしていたら、日の国の爺さん婆さんが俺らに戻って来いと言い出して、次の協力隊の船で戻って来たんだ。戻って来ながらパパの様子を見たら、ずっと現地の言葉をしゃべっていで、変な感じだったな。俺が分かるように現地語でしゃべっているんだと、言っていたけど、実のパパやママとは日の国の言葉をしゃべっていたので、変だなあと思った。その内帰りながら、俺は、日の国の言葉を段々忘れてしまった。自分で、忘れっぽいのに呆れたな」
真太は、悠一の身の上話で、昨日のロバートとの話しと合わせて、納得の行きそうな感じになったが、昨日の二人の話し合いの後の、今日だからそこのところがどうも、気がかりで腑に落ちないのである。
真太は、
「お前、陰陽師の生まれ変わりと言っていたけど、アマズン育ちの、陰陽師生まれ変わりって事かな」
「うん、実のママの家系は先祖が陰陽師だったそうだ。子孫の中には時々、才能の有る奴が生まれてくることが有るらしい。俺も2、3歳のころに、そこいらに転がっている石や、紙を動かして遊んでいたから、生まれ変わりだろうと言われていたそうだ。その頃の事は俺は憶えていなかったけれど、でも最近色んなものを動かせる事が分かって来た」
真太は、前世の記憶からしても、そういう事は修行か何かが必要ではないかと思い、変な気がしたが、黙っておいた。以前はつい、疑問があるとしゃべって追及してしまっていたが、今日は黙っていられるので、俺も成長したなと、つくづく思った。
放課後、真太は悠一やロバートとつるむのは止め、急いで家に帰った。今日は明日からテストの日なので午後は授業が無い。そこで翼の見舞いに一家揃って行く事になっていたのだ。テストの勉強などは始めから諦めていて、やる気はない。
家に帰ってみると、丁度昼飯が終わった所で、パパに、
「早かったな」
と言われた。真太は何だかパパの様子が違っている様で、どうしたのかなと思った。だが、久しぶりに英輔に会い、そっちの相手をしてしまった。
「英輔爺さんじゃあないか。何だ、うちに泊まる事にしたの」
「おお、真太か。元翔なんだってなあ。しゃべり方が同じだな。不思議な現象だな。アボや香奈も、これじゃあ育てにくいだろうな。あはは」
「それほど気にはなりませんよ。そっくりのしゃべり方になったのは、一昨日ぐらいからなんですよ」
アボパパはそう言って、
「じゃあそろそろお見舞いに行こうかな。お義父さんやお義母さんは、ほんとに留守番で良いですか」
美奈は、
「ええ、何だか私は翼に合わせる顔が無いし、お爺ちゃんは旅の疲れがあるから、次に行く時でで良いのよね」
「うん、そうするよ。それにしても真太はデカいなあ」
アボパパは、
「おかげさまで、安心ですよ」
そう言って、静かに立ち上がったアボ。
真太は何か違和感があるが、理由は分からない。どうしようもないので、車で病院へ行く途中、悠一が言った事を、アボに言って、見解を聞くことにした。話してみると、アボは、
「おそらく、悠一君のパパは現地で魔物に取りつかれていたようだな。神社に戻ったら、神主の父親が居るから、見破られないように一旦外れて、様子を見ていただろうな。悠一君にも取りつかれていたようだが、日の国の言葉を思い出したときぐらいに、一旦外れている様だ。そう言えば真太は、悠一君と一緒に帰って居ないようだが、悠一君はどうしているのかな」
「ロバートと一緒に遊んでいるよ。俺はお見舞いに行くから帰って来た」
「そうか、舞羅は一緒じゃあないのか」
「俺らは従兄妹と言え、行動は別にしないと、噂になりそうだな。舞羅はクラスの友達の家に居るはずだよ。最近、グループ作って、踊るか歌うかしているらしいよ」
香奈も、
「じゃあ、芸能界入りは諦めていないのね」
「諦めると言う事は無いな。周りに持ち上げられている。舞羅の取り巻き集団のランク決めが、毎月あるんだゾ。それも選考委員に担任の先生が居るんだ。担任は音楽の先生だから、本格的だな」
「へえ、すごいなあ」
アボパパも感心している様だが、何処か上の空に思える真太である。千佳由佳は今日はやけに大人しいようで、どうしたのかなと思って観察すると、真太を見上げた千佳が、口パクで、
『パパは、どこかに行っちゃう気よ。ママは知らないけど。千佳と由佳には分かるの。真太も変だと思っているね』
と言った。
どこかに行くって、いったいどこに行く用事が在るのだろう。真太は何だか不安になったが、千佳由佳が黙って大人しくしているので、少し様子を見る事にした。なんせ、姉ですから。
皆で翼の病室に行ってみると、翼は集中治療室に昨日まで居たとは信じられない位、元気になっていた。真奈も嬉しそうだ。
舞羅がさっき来て、翼の様子を見た後、また出かけたそうだ。今日はバンドを作るので、選考会だそうである。バック音楽、コーラス担当を決めて、またオーデションを受けるそうだけど、真奈としては、
「まだ中学生なのに」
と、ぶつぶつ文句を言っているが、真太の見た所、周囲に持ち上げられて、突っ走っている。このままでは、何かにぶち当たる迄は、走って行きそうである。
真太は翼に、
「足にずっと添え木とかしていたから、動きが悪くなったんじゃあないかな。もう止めて良いよ。刀を戻すところまで考えて、使うから。ゴメンね」
と言っておいた。原因は、育ち盛りなのに、変な細工をしていた所為の様な気がしていたからだ。
「いいよ、僕が自分でした事だし。でも、何だか真太はますます翔っぽくなったね」
と感想を言った。誰でもそう思うらしい。
元気そうな翼を見て一安心の一家は、家に帰ってみると、英輔と美奈は荷物をまとめている。真太は、
「あれ、泊まるんじゃあないの」
と聞くと、シンがひょろりと現れ。
「此処は大丈夫だな。香奈殿の本拠地とはいえ、一応調べてみたぞ。アボ。真奈殿達の家の道は塞いでおいた故、御両親は家に戻るそうじゃ。安心するが良いぞ」
「お前は思ったより多弁だな」
むっつりとアボに言われても、気にする素振りのないシンは、
「それじゃあ、我が連れてゆく故、少しの間目を瞑っておくが良いであろうのう」
と、英輔と美奈に注意してさっさと連れて行った。真太は、
「最近シンは、元俺んちの家族にやけに親しくしているね。魔物関連の事と言えばそうだけれど、良く度々降りて来る事が出来るよね。これじゃあ、身内の世話だね」
と思った事を言った。アボパパは、
「一度、怨霊龍になれば、出来るのかもしれないな。それに、大層な事をやり遂げたと、大神様が目をかけてくれているのかな」
と呟いている。このアボパパの言う事にも、何か引っかかるものを感じる真太だった、
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