第20話 翔に覚醒
真太は病院に行きがてら、昨日の神社での顛末をロバートに話して聞かせた。
ロバートは、
「へえ、龍神って、いろんなところに居るんだな、日の国だけじゃあないのか」
と感心し、
「それにしても、悠一のママに取り付いていた奴は、外国生まれだったとは不思議だね。そういう幅広のカーブの剣とくれば、思い当たるのは昔のポリシャあたりの気がするけど、君のパパが、昔アマズンに子龍を襲いに来ていたっていうのが、どうも一致していないな」
真太は考えて言った。
「地獄に国境はないのかな」
「そうかもしれない。あの世の方も、そうかもしれないね。前世の事を覚えているとか言い出す人は、前世ではどこかの国の王女だったとか、外国の歴史上の人物だったとか言い出すからね」
そう言って、ロバートも同意した。
真太としては、前世で見聞きした時は、嘘っぱちだと片付けていたのを思い出した。
「そうだとしてもあのママは、何処で取り付かれたのかな。神社でか?何だか変な気がするけど」
ロバートは、
「言っておくが、最近は何もかも変だぞ」
病院に着いた二人は、すぐ、集中治療室に行ってみた。廊下には真奈伯母さんや舞羅が、元気無く椅子に座って会話も無くうな垂れていた。
足音で二人はこっちを見て、舞羅は、
「真太たちが来たよ、ママ」
「そうね、真太君達も心配で来てくれたのね。さっきまで香奈やアボがいたのよ。でも千佳ちゃんや由佳ちゃんの側に居たいって帰ったのよ」
「魔物に襲われたの?それで、階段から突き落とされるだけで済んだわけ」
真太は疑問の点を聞いた。
「それが、上には何もいないように見えたから、自分で落ちたのかと思ったのよ。そしたら翼は以前、アボや真太君に、自分が魔物にやられるって予言していたそうね。私には何も言っていなかったし、舞羅も聞いていないって。おばあちゃんには時々取り付くそうね。私はそれも知らなかった。翼は、さっきから気が付きそうになっていて、うわごとでおばあちゃん来ないでとか言っているそうなの。病院関係の方から、おばあちゃんは入院させたらどうかって言われたわ。認知症で狂暴になっていると、思われたみたい。でも入院したら、魔物に取りつかれても、取り付かれたままになってしまうわね。即答しなかったら、息子さんが大事じゃあないんですかって言われたわ」
元翔の記憶が完全に戻っていた真太は、困った事になったなと思案した。
「それが、この病院には、魔物に取り付かれて魂の抜けた柳君のお爺さんや親父さんや、今はママまで入院しているんだ。おそらく、彼らはまた取り付かれるんじゃあないかと思う。美奈婆さんもほっといたら取り付かれるだろうな。ここに居たら、人間らしい一生を終えられないかもしれない。ところで、婆さん本人は今、どうしているんだ」
翔のしゃべり方の真太をあきれて見ながら、真奈は、
「翼のうわごとから、病院の事務の人が、虐待として警察に届けたから、さっき警察に連れて行かれたの。舞羅と一緒に病院に来ていたのよ。もう、シンが魔物を払った後だったから、見ていられなかった。本人は憶えていないんだもの。ところであんた、翔そっくりね」
「そりゃそうだろ、翔の生まれ変わりと言っていただろう」
舞羅は、
「昨日まで子供っぽかったよ」
「昨日、覚醒したんだ。完全、翔の復活だ。ははは」
ロバートは、
「今、覚醒した気がするな。昨日はぼちぼちだった。前世のママのピンチを聞いたからな」
と解説した。
真太は、どうすればいいか悩むところだったが、取り合えず、美奈の所へ行く事にした。ロバートに、
「俺、婆さんの様子を見に警察に行く。悠一の事は気になるけど、今日は行ってみる余裕は無いし。お前は悠一の所に行かない方が良いぞ。昨日の朝は、悠一も取り付かれていたからな。危険だ」
「そう思うなら、俺も真太と行動を共にするよ。このまま一人でうろつく気になれない」
横で聞いていた、真奈や舞羅も、
「それが良いわ、一人の行動は止めた方が良い」
と賛成した。
昨日に引き続き、また警察署にやって来た真太と、付いて来たロバート。また入口から配置図を覗き見て、美奈が何処にいるか調べようと思ったが、実の所、何処の担当に行っているのか分からない事に気が付いた。あきれた真太である。
「仕方ない。また、元、元山さんの所で聞いてみよう」
と二階に行く事にした真太である。ロバートも同意見だった。
「元、元山さんっていい人だね。でも何ていう名に変わったか聞いていなかったな」
ロバートが言ったが、それについて真太は、
「又、来るとは思わなかったからな。聞くのも気まずかったし」
「それもそうだな」
とロバートが相槌を打ち、昨日と同じように二階のドアを開けて覗き見た。
今日も又、元、元山さんは美奈と差し向かいだった。
「あれ、今日もだ」
思わず真太が言うと、二人がドアの方を振り向いた。
元、元山さん、
「おやおや、今日もお出ましか」
「まあ真太なの、真奈が翔の生まれ変わりと言っていたけど、本当なの」
美奈は、悲痛な声で言った。
「そうだよ、ママ。心配しないで。僕んちに来なよ。香奈は皆に結界を張っているから、何かに取り付かれたって、多分大丈夫だよ。それにアボパパもいつも家に居るから。あれ。そう言えば英輔親父はどうしているんだ」
「先週から熊蔵さんの所に行っているの。この前から喧嘩みたいになっていたら、熊蔵さんが、この前の葬儀の時は失礼したから、パパに来てくれって、飲み直そうって、広永さんも一緒に誘われたのよ。何か話がありそうだったの。詩織さんの葬儀や、翔の葬儀に呼ばれなかったから、ショックだったみたいなの」
「へえ、俺ん時も呼ばなかったのか。それはショックだったろうな、熊蔵爺さんも」
蚊帳の外の元、元山さんが、
「えへん」
と咳払いをした。
「そうだった、元、元山さんを放ってしまった」
「元、元山さんは無いだろう。ちゃんと山元と名乗っているんだ」
「逆にしただけか。川元にでもすればよかったのに」
能天気な真太の言い草に、
「それは、先月まで使っていた」
としれっと言われてしまった。
「どうもすみません。でも、もうやって来ないんじゃあないかと思うんですけど。俺、御神刀を狙っていた紅軍団の亡者たちと戦って、片付けた後、毒にやられて死んだんです。だからもうご迷惑はかけないと思うけどな。俺の葬儀の後、何か来ましたか」
「そうなのか、そう言えば、近頃家探しされなくなった気がする。お前がもう片付けていたのか。なるほど」
元、元山さんこと山元さん、最近家の中がぐちゃぐちゃにならない事に、思い至ったようである。
美奈は翔が死んでしまった訳が納得できなかったのだが、真太の口から大体の訳を知り、やっと合点が行っていた。
「そうだったの。ママ、訳が分からなくて」
と言って激しく涙を流し始めたのだった。
「泣かないで、ママ。もう帰って良いですかね。山元さん、もう本名名乗って良いんじゃないかと思うけど、一応山元さん」
「そうだなあ、じゃあこの件は、下の娘さんの家に引き取られることになったって事にしておこうかな。お婿さんが在宅の仕事って事で、しっかり見てくれるんだろうね。確か投資家って言っていたね、香奈さんが前に会った時。しかし、本人達の証言が無いが」
「じゃあ、帰ってから証言するように言います」
「ああ、そうしてくれ。一筆書いてもらわないと」
「では、失礼します。どうもお世話になりました」
「ああ。じゃあ美奈さん、お大事に。この真太はしゃべり方が全く翔そっくりだね。良かったね。また一緒に暮らせて」
「本当に、ありがとうございます」
美奈は、涙ながらも、少しうれしそうに言って立ち上がった。
山元さん、ぽつねんと様子を見ていたロバートに、
「君はどうして来たんだ。真太の付き添いか」
「まあ、そんなところです」
とロバートは言って、二人に付いて帰った。
真太の様子を把握できるアボパパ。家で家族四人で過ごしながら、香奈に悲壮感あふれる顔をして見せた。
「どうかしたの」
香奈に聞かれると、
「真太が、お義母さんを連れて来る。一緒に暮らす気だ」
「そうなの、アボも何だか婿養子っぽくなりそうね。ママが来るなら、パパもセットで来るわね。パパに、熊蔵さんちでゆっくり過ごすように電話しておこうかしら」
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