第19話 謎

 悠一の後に続き、アボパパと真太は、そろっと中に入った。

「ママ、帰ったよ」

 悠一はママを探すが、居なくなっている。察して逃げようとしたみたいだが、外にはアバがいる。この事からも、アバが来てくれて助かったと言える。外が騒がしい。

 女性の悲鳴から、直ぐに魔物の図太い声に変わった。

「おのれ、こいつがどうなっても良いのか」

「ママっ」

 悠一は、ママのピンチと分かり、裏口から急いで皆で出てみた。

 出てみると、アバと悠一君のママが対峙していたが、彼女の様子は変貌している。真太は今までこういうのは見たことが無かった。これはもう同化してしまっているのではないだろうか。

 髪はぼうぼうで、上に突っ立ち、顔も以前会った時とは形相が違っている。悠一にも分かった様で、あきらめの様な表情をしている。悲劇的な結末が待っていそうだ。それでもアボが御神刀で急所を素早く差すと、中から魔物が間一髪と言う所で、逃げ出した。やはり中に居たのは小物ではないようだ。アバが龍神に変化し青い炎で焼くが、魔物は外国風の大振りな剣を振りかざし、龍神を切ろうとしている、炎が当たっても燃えはしない。火傷位のダメージのようだ。アボも御神刀で、切りかかるが、何だか刀の強さが太さに比例している感じで、ガチッと刃が合うと、細い刃の御神刀が心もとない気がする。真太は気が付くと手に真太用の御神刀を持っている。思わず刀を呼んだらしい。大事な本物の御神刀が折れないうちにこいつで戦うべきだろう。

 真太は、パパに、

「僕がこいつで相手をして、疲労させるよ」

 と言い、あのかっとなる感覚がおき、物凄い速さになり魔物に切りつけるが、相手も応戦して、物凄い速さで戦い、アバは青い火で絶えず魔物を火傷させた。

 段々魔物は弱って来ている。真太は確信した。ついに魔物の動きが鈍くなり、真太はいつの間にか魔物を、切って、切って切り刻んでいた。一応傷は再生して治って居るのだが、段々直りが悪くなっている様である。パパが、

「真太、そろそろパパと交代しようか」

 と言うので、気が付いて切るのは止めた。

 交代すると、パパが止めを刺し、魔物は死んで溶けて行った。一度に消えないのは前世の記憶で覚えがある。そうだった、極み爺を食った奴が、切られたところが溶けていたっけ。止めを刺してもじわじわ溶けて行くとは、魔力が強いのだろう。

 アバが、

「こいつは龍神を食った事があるな。誰を食ったのだろう」

 と考えている。

 アボも、

「俺らが小さいころ、よく子龍が襲われていたじゃあないか。あの頃の奴じゃあないかな」

 と思い出して言った。

「ああ、そうだったな」

 アバは納得した。

 真太はあくびが出てきたが、パパは、

「真太まだ終わっていないぞ。アバが石を蹴り出したから、あそこから又出て来る」

「ふぁー、この次には出来ないかな」

 アバが石を蹴りながら、

「ちびが、もうお眠か。十分ぐらいなら寝ていろ、そのうち寝ても居られなくなるさ」

 と言っている。

 うとうとしていると、殺気を感じて、寝ても居られなくなった。しゃきっとすると、こっちに来る奴を、倒すことにした。それでも三龍がかりでさえ結構忙しい。こっちの石をはじめに開けられていたら一龍では無理だったはず。親がかり、アバ頼りになっていただろう。

 終いには、真太も龍に変わって、火を噴くことにした。気を付けて神社を背にして噴いていたが、今度は木が燃えだした。その頃は片が付いていたので、アバとアボとで慌てて消している。

 何とか不始末をもみ消すと、アバは、

「お前はホントに火事を起こす奴だな。普通、龍神は木は燃やさないぞ。まだ良く出来ないのだから、火を噴くのはしばらくやめておけ。でないと、放火犯で自首しなければならなくなる。香奈ママが泣くぞ」

 はっとした真太は、

「神社燃やした件は、自首しなくて良いの」

 と聞くと、アボが、

「放って置け、ここは仇の建てた神社だったろう。大神様も許してくれるさ」

「そう言えは龍神の行く黄泉には、大神様がいるって言う事だったね。僕も死んだらそっちに行くの」

 アバが、

「その様じゃあないか。龍が本性のようだからな。せいぜい生き様には気を付けた方が良いぞ。人の家を燃やしたら、自首した方が良いな。生きている間にケジメを付けておけ。死んでから大神様に叱られるより、ましじゃあないかな。それを考えたら、森林火災も気を付けろよ。だから当分火噴きは封印しておけ」

 そう、アバは説教して立ち去った。

 悠一とそのママはどうなったかと思い、真太が見回すと悠一は片隅に引き寄せたママに付き添っていたが、ママは気を失ったままだ。

「救急車呼ぼうか」

 真太が聞いてみると、

「うん」

 と言うので、呼ぼうとすると、パパが呼んでくれている。パパが、

「ついて行こうか」

 と言ったけれど、悠一は、

「自分だけで、大丈夫です」

 と断った。

 真太は付いて行っても、自分は役には立たないだろうと思い、黙っていた。

 救急車を見送った後、パパと帰った。

 帰りの車に乗ってから眠ってしまい、気が付くと夜中である。皆で眠っていて寝静まっていた。

 空き腹に気付き、キッチンに行き残り物を探して食べる事にした。真太は食べながら、悠一の事を考えた。悠一は今頃、どうしているだろうか。ママが良くなっていなければ、一人ぼっちでは無いだろうか。

 真太はふと思った。県庁の学校は帰国した後の、日の国の言葉を習得するための学校ではなかったろうか。悠一は何故あそこに通っていたのだろう。外国に行っていたにしても、両親は日の国生まれで、言葉は不自由していなかったようだが。

 真太は気分が悪くなって来た。


 翌日、真太は学校に行ってみると、悠一は来ていなかったが、ロバートは来ていた。昨日とは逆である。

 さっそくロバートに疑問の点を、聞いてみる事にした。

「悠一の事だけど、日の国の言葉は結構分かっているけど、どうしてあの学校に来ていたんだろうね、知ってる」

「来て早々、言う事はそれか」

 ロバートは、呆れたように言ったが、それはそんな振りをしていただけで、急に真面目な顔をして、

「それがな、俺も不思議だった事がある。あの学校では三人の内、俺が一番古株だったんだが、柳一家は外国の何処だったかな、兎に角あまり開けていない所に海外協力隊とか言う団体に入っていて、農業の開発かなんかの仕事をしていたそうだ。学校は、そこの現地の人と仲良くするべきって事で、そこの学校に通っていて、現地の言葉は堪能だけれど、日の国の言葉は来た時はあまり話せなかったんだぞ。親は両方とも日の国の人なのに。俺はその時それが不思議だった。普通、家の中では日の国の言葉位しゃべるだろう」

「そうだったのか、信じられない。今はペラペラじゃあないか。何時の話だ。来たのは」

「お前が入って来るより、半年ぐらい前かな。それが、ひと月もしないうちに、ペラペラ日の国の言葉を話し出すし、読み書きも一通りできるようになったんだ。俺が不思議がると、爺さん婆さんと、特訓したって言うんだ。親じゃあなくてな。だから俺、親とはあまりそりが合わないかなんかで、家族で話とかあまりしなかったのかなって、解釈したんだ。解釈しすぎたかな。実際変だとは思ったけど」

「急にか」

「急にだ。土日を挟んで急に」

「どういう事かな」

 真太はロバートに聞いた所で、なおさら訳が分からなくなった。

「それで昨日の話はしないのか。それに、どうしてそれを今日聞くんだ」

「昨日の夜中に不思議になったんだ。そうだな、昨日の話は言っておこうか。あ、始業だから後でな。今日は翼が来ないなあ。どうしたのかな」

 担任の先生は、出欠を取りながら、

「柳は、ママの具合が悪いそうだ。翼君は昨晩、階段から落ちて頭の打ちどころが悪くて、現在集中治療室に入っているそうだ。利口なのに、ちゃんと治ればいいがな」

 と言った。

 真太は衝撃を受けた。原因と結果は知れている。それにこの辺りで、救急病院と言えば紅琉救急病院しかない。悠一のママと同じ所だ。真太は嫌な感じがした。

 一時間目が終わり、今日もずらかる事にしようと決心した。ふと考えて、担任の先生に言っておこうと思った。察したロバートが、付いて行くと言う。二人して先生に早引きすると届けると、

「お前らが行ったところでどうしようもないだろうが、学校に居ても授業をまともに聞く気分じゃあないだろうな。帰りたければ帰りなさい。今日は届ける気になったようだね。少しは進歩したか」

 と言われてしまった。

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