第13話 訓練開始

 月曜日、ママは中学転入の手続きから戻ると、中学に入るには転入試験と言うのがあると聞いたと言う。

「俺、多分出来ない。前世で中学に通っている時、授業中ほとんど寝ていたからな。」

 真太は予想した。お先真っ暗になった。しょげていると、アボが、

「俺がテレパシーで教えるしかないかな」

 と言ってくれたが、ママは、

「その後、授業について行けないと、どうなると思う。中学は義務教育だから、できなくても入れてくれるよ。今回は、ちゃんと勉強して欲しいな。実力通りのカリキュラムを考えてくれるんじゃあないかしら」

 前世の翔を知っている香奈は、真太の教育にはとうとう本気を出した様である。

 人間より龍神の方に限りなく近いと言うのに、勉強してどこかの会社にでも就職させる気なのだろうか。アボパパはその辺の所、香奈ママにちゃんと話していたのだろうか。真太は疑問だったが、話し合った所で、パパはママの言う事を聞くのかもしれない。そう考え、先行きの厳しさを予感した真太である。


 次の日、真太はママと紅琉中学に行き、転入試験を受けた。今回は前と違い、打ち合わせに時間を割いた。出来の悪さは、頭を打って記憶喪失と言う事にした。一応外国育ちは変更していないが、今までの事を聞かれないのでほっとする真太だ。頭を打ったのは、日の国に戻る前と言う事にして、診断書の提出を要求されないようにした。香奈の知恵を絞った設定である。

 紅琉中学校は前世でも通った所だ。校舎は古くなっているが変わらず、真太は懐かしく感じた。先生たちの顔触れは、ほとんど変わっている様だが、校長先生は、前世で習った事のある数学の川北先生だった。出来が悪くて叱られてばかりだったが、顔を見ると懐かしい。

 川北校長には挨拶だけして、この時間に授業の無い、美術の水野先生が相手をしてくれた。

 問題用紙をくれて、

「出来る所だけ書けばいいからね。時間は40分だから、終わったら時間前でもやめて良いからね」

 と言ってくれた。

 試験は真太も本気を出して取り組んだ。生まれて来て、前回よりは日にちが過ぎていたので、集中力が付いて来ていた。真太は自分で言うのもなんだが、試験の出来は、字が読めるために良く書けたと思っている。おまけに〇、×で回答する質問が多くて良かった。正解かどうかは別にしても。問題は多かったので、40分間かけて書いて提出しておいた。後は来月から通う事になる。帰りには制服を買いに行き、通学バックも指定の物を使うので、買いに行って見ると、御神刀は入りそうも無かった。しかしこれは使えないとかも言えず、買い揃えた。制服は背が高すぎて、特注である。出来上がりは月末で、ぎりぎりだ。靴は自由だったのでほっとした。靴の特注では、時間がかかっていた筈である。中学生で29cmはデカすぎである。

 香奈ママは、

「今更縮む訳にはいかないけど、デカすぎたわね。目立ちすぎるのはどうかと思うけど、パパは満足そうよね。パパが安心できるなら、良いようなものだけどね」

 等と言って、お店を後にした。

 車で帰りながら、

「それにしても、指定のバックじゃあ御神刀は入らないけど、どうしようかしら」

「パパには、皆から御神刀が見えないようには出来ないのかな」

 真太が言うと、

「どうかしら。前に、そんなことしたことあったわね。何の時だったかしら」

「詩織さんの葬儀の時だろ。皆にあんたは誰だと問い詰められたく無くて、気が付かれないようにしていただろう。そこに居るのに」

「そうだった。あんた、よく覚えているわねえ」

「うん、だけどあれはアボの自分の事だったからね。ものが見えないようにとかは出来るかなあ。それも自分のいない所でだろう。あ、そうだ。それが出来るのなら、前の学校の時でもそうしていただろうな。だから、多分出来ないよね」

 家に帰って、パパに御神刀が入らないバックを見せた。教科書入れも、体操服入れも、指定バックは小さかった。

 パパはバックを見て舌打ちし、

「こうなったら、お前はパパの『必要な物を手に入れる』と言う技を習得するしかない」

「え?」

「必要な物を引き寄せる。パパの得意技だ。前世でお前も知っているはずだ」

「えっと、御神刀をぶんどった事?俺らを地面の中まで引きずり込んだこともあったし、そうだ、逆バージョンもあったな。俺を木のてっぺん迄飛ばしたりもしたよね。そしてー、究極逆バージョンが・・・」

「もう良い。よく覚えているのは分かった」

 その話を遮ったアボ。香奈ママは、

「あんた達って、色々あったみたいね。仲が良いんだとばかり思っていたけど」

「仲は良いよう。凄く。仲が良いからこその話だ。な、真太」

「う、うん。そう言えばその技、少し前に、俺も自然にやった事あったな」

「本当か、何時やった事がある」

「学校に魔物が来た時さ。御神刀の事考えただけで、もう手に持っていたんだ。あっという間の事だよ。そうでないと魔物にやられるところだった」

「ほう、教える手間も無く出来ていたのか。さすがは俺の息子だなあ」

 アボは真太を誉めたが、まあ、褒められることではある。しかし、以前の喧嘩の話は蒸し返して欲しくないらしく、アボがお世辞を言っている気がする真太である。

 アボは、

「よし、技自体は出来る様だから、そのパワーを強めればいいんだ。パワーを強めるのは簡単そうで、そのコントロールに力量と言う、生まれ持った能力が加わってこそだな。そこで龍神のレベルが決まる。今から訓練だ。一応二階でしようかな」

 と言う事になり、二階に行って訓練を始めることにした。

「時間が無いから、お前のこの御神刀で訓練しよう。そうしないと、パパが持っている御神刀を間違えて引き寄せて、手でも切ったら大変だ。チクリとしたでは済まされないからな。下手をすると死んでしまう」

「分かっているさ。そのチクリで強が死んだんだから」

「ほう、強の死因はチクリだったのか。哀れだな。あの人は知っているのか」

「真奈の事?俺は言っていない。俺がヘタレだったから、強が御神刀を持っていた気がするし、言いたくなかった」

「そうか、仕方なかったな。さて、訓練だ。段々遠くに置いていくぞ」

 この訓練は比較的容易かった。最初の頃は。夕飯迄には、階下から、二階に置いてある御神刀を引き寄せられるまでになっていた。

 次の日は、家の外から中にある御神刀を引き寄せる事にした。アボは、

「刀を近所の人が見たら、驚くかもしれないな。近所の人には見えないようにしよう」

 と言い出した。真太は、出来るんだと思い、

「パパ、人に見えないようにできるんだったら、御神刀を見えないようにして、実際は持って学校に行くようにはできないの」

 と言ってみた。

「そういう催眠術的な事は、大人にならないと無理だぞ。今は、お前の能力では引き寄せて手に入れる技の訓練だ」

「パパが消したのを、持って行くことは出来ないの」

「自分の事は自分でしないとね。最初から親がかりでは先は無い。龍神としてはレベルが下の下だ。」

「なるほど」

 言われて見れば、その理屈は分かる。真太は反省した。

 外から御神刀を引き寄せると、障害物があるせいか、一瞬では出来なかった。パパは、

「段々難しくなるからね。一瞬で引き寄せないと、魔物に横取りされる可能性が出て来るな。本物程には魔物は欲しがりはしないが、お前の邪魔をするつもりで奪おうとするかもしれない。ここから訓練は難しくなるね」

 そう言われたはずで、真太が数回試して、鼻血が出た所で、今日の所は終わりにしようと言う事になった。

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