第11話 真太のやる気

 真太とアボパパは外に出た。新しい運動靴を履く機会が訪れたと言える。

「さて、公園へ行ってジョギングでもしようかな」

「アボパパ、何だかよそ行き風の言い方だね」

 アボが真太に目で後ろを見る様に促した。振り返ると、丁度近所のおしゃべりおばさんがこっちにやって来ている。

「こんにちは」

 真太はアボパパに合わせて挨拶した。

「あら、こんにちは。お揃いで、ジョギングですか。親類の方ですってねえ。随分紅琉さんに似ていらっしゃること。それにまあ、体格が立派ですねえ。でもまだお若いんでしょう。お幾つでいらっしゃるの」

 アボに、チラッと見られたので、真太が答えるべきらしい。丁度新しい靴の事ばかり考えていた所だったので、

「29センチになりました。直ぐ30センチになりそうです」

 と言ったが、靴のサイズの話ではない事は、直ぐ分かったが、後の祭りだ。出来れば何歳かと言って欲しかった。それも口に出してしまっていたようで、

「あらごめんなさいね。いくつかじゃあ、何の事だか分からないわね。今何歳ですか。真太君の歳は。こう言わないと誰の歳を聞いているかも、はっきりしないわよねえ。おほほ」

 だんだん、からまれているような気がしてくる。だが、気を引き締めて、

「えっと」

 思わず口ごもると、頭の中に、アボパパから、『15歳』と知らせて来た。

「えっと、15歳です」

 おばさんは愛想笑いを浮かべながら、

「まあ、まだそんなにお若いの。そう言われたら、そんな感じに見えるわね。さっき並んでいるとこを見たら。御兄弟かと思ったけど、それじゃあ年が離れすぎていますよねえ。じゃあ、ちょっとあちらのお宅に行くところですので。今日は、お天気が良くてジョギング日和ですねえ。ほほほ、では」

 隣に入って行った所で、

「あのおばさん、隣できっと兄弟じゃあ無かった、親子だって言っているな」

 真太はつぶやいた。

「ああ、聞こえている。お前は聞こえて言っているのか」

「いいや、今のは予想。パパは耳も良く聞こえるんだね」

「ああ、やはり俺は二度目だと思われているな。初婚なのに」

「パパはどうして、回数にこだわるの」

「アマズンでは結婚相手は1人と決まって居る。何度も結婚する奴は、信用が無い。人間界ではそうでも無いようだがな」

「浮ついた奴って事」

「もう少し、厳格な評価だな」

「へえ」

「まあ良い。アマズンの仲間は分かっておるから」


 久しぶりに運動した真太は、帰って来てからは、お昼寝である。夕方まで眠っていた。

 目が覚めると、千佳が、

「爆睡していたね。学校のお友達が来ていたけど、目を覚まさないから、呆れて帰っちゃった。学校でも授業中良く寝るって言っていたね」

「なんだよう、帰っちまったのか。どんな奴だったの」

「えーと、ひょろっと背の高いのと、茶髪の」

「へえ、そういうのが来たか。わかった」

 千佳ちゃんは大きなお兄ちゃんたちが来ても、態度はデカいんだろうなと思うと真太は可笑しかった。彼らが来た時の顛末は、聞きもしないのに千佳がしゃべり続けた。

「千佳と由佳とで、お庭でおままごとしていたら、ひょろりとしたのと、茶髪が来てねえ、真太君いるって聞くから、居るけど寝てるって言ったの。パパはって聞くから、パパもお昼寝って言ったの。真太何処にいるって言うから、そこのソファで寝てるって言って、どうせパパの事も聞くと思うから、パパは寝室で寝てるって言ったの。そしたら、千佳ちゃんの事偉いってさ。分かっているけど。そして真太に真太、真太っていくら言っても、いつものように目が覚めないでしょ。由佳が、真太はまだ赤ちゃんだから寝かしといてって言ったけど、不味いなと思った。悪気は無いけど、ママの真似して言っただけだけど、きっと不味いって由佳に注意したの」

「そしたら、ひょろりがどうして不味いのか聞くから。赤ちゃんなのは秘密だって由佳が言うから、それも不味いけど、千佳は由佳の口は塞いだらいけないことになっているの。息が出来ないからね」

「わあ」

 真太が思わずがっくり言うと、由佳が反省したのか泣き出した。

「泣かなくても良いよ。気にして無いから」

 慰めるが、由佳が泣くとアボパパは目が覚める。どたどた二階から降りて来た。由佳は不味いと千佳に言われていたので、なおさら泣き続けた。

「どうした、由佳」

 パパが聞くが、話す気はないようだ。

「真太。どうして由佳は泣いている」

 とっさに聞かれて真太が口籠っていると、千佳が、

「由佳は今、反省している所なの。パパは由佳もまだ小さいから怒らないよねえ」

「そりゃ、怒らないよ。小さい子はね。良く分からないことが多いからね」

「ほら、由佳、泣かなくても良いってば」

「それで、どうして泣いているか。パパに誰か教えてくれる人は居ないのかな」

「千佳が言ってよ。俺はうまく言えない」

 そこで、千佳は先ほどの話を繰り返した。由佳はまだ泣いている。千佳が、不味いと注意した件で大泣きになった。

 アボはよしよしと、慰めて。

「すんだことをパパは怒らないよ。今度から黙っていようね。大丈夫、あいつらは誰にも言わないよ。心配しなくて良いから」

「良かったね、由佳」

 真太もほっとした。それにしても、アボパパはやけにあいつらを信用しているなと思った。

「そりゃあ、あいつらはもう16、7年生きている。お前たちと違ってね。人格が出来上がっているから、信用できる奴はパパには分かるんだ。お前よりあてになる奴らかもしれないな」

「俺はあてにならないっていう事」

「あてにしていいのか」

「あてって何」

「パパの後ろを任せられるかってところだ」

「戦う時に?」

「そうだ」

「そりゃあ、任せていいよ。この前の、俺の働き見ていなかった?」

「まだ前世の記憶があるからな」

「忘れてしまうと思っているの」

「そういう記憶は、数年でなくなるらしいぞ」

「あと数年で、デカいだけのアホの出来上がりって?」

「どうなるかな。千佳みたいになっていれば良いがな。5歳にしては利巧じゃあないか、千佳は」

「皆、そういうのよ」

 千佳は褒められ満足気だが、真太は前世の記憶が無くなると、千佳のようにはなっていないと自覚していた。

 アボパパは、

「彼らは、多分、来月から中学に編入するから、真太はどうするか様子を見に来たんだろう。まだ行けないと言っておくんだな」

「それじゃあ、俺は何時中学に入れるの」

「あの学校に通えていないんだから、入れやしないだろう。パパとママで何とか教えたいが、何時になったら字を覚えるかは、お前の方が予想できるんじゃあないかな。自分の頭の事だぞ」

「俺、あいつらと、同学年で中学行きたいなあ。きっと紅琉中学に通う気だろ。柳は。それとも川西中学かな。この前舞羅が、川西は生徒が多いからあの神社の近所は、紅琉の校区と言っていた筈だ」

「それは何時の話だ。そうだ、確か詩織さんの葬儀の時じゃあなかったか。お前そんな細かい事迄覚えているのか。じゃあ、人格がそのまま入っているのかな。ひょっとしたら、このまま前世を忘れず、大人になるかもしれんな」

 アボパパは驚いている様だ。真太もそうだと良いがと思った。デカいだけのアホには成りたくないものである。それで、

「千佳ちゃん、あの学習帳貸してよ。俺、字さえ思い出したら、中学に入れると思うんだ」

 真太は急に学習意欲が出た。アボはやる気さえ出れば、おそらく覚えるか、または思い出すかで、彼らと通えると励ました。

 香奈ママがデパートから帰って来た。皆でお勉強しているのを見て、感激である。

「まあ、皆でお勉強しているの、真太が中学に行きたいから?お友達がもう行くって?もうさ行迄覚えたの。じゃあ、明日でひらがなは覚え終るんじゃあないの。この勢いなら」

「うん、何だかひらがなさえ覚えたら、漢字とかは雰囲気で分かる気がする」

 香奈は、漢字に雰囲気があるとは、初めて聞くが、真太が行くと言って居るのだから、中学にはお勉強の進み具合が、どうなっていても行くだろうと思った。

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