第9話 アボの心配
家までアボパパは黙って運転していたが、家に帰り着くなり真太を掴み玄関を開けると、中に放り込み、
「なぜ戻ってこなかった。ひょろひょろ赤んぼ龍が飛びおって、魔物が十二、三体はやって来おったぞ。俺はそいつらとやり合うのに手いっぱいでなあ、シンも来たが、北の極み殿も煩わせねばならなかった。お前はどういうつもりで、本性でうろうろする気になったんだ。ママの結界は効かなくなったな、人間ではないからな。これからどんどんお前を殺しに魔物がやって来る。どうするつもりだ。御神刀はよく切れるから、お前にはまだ持たせられないからな」
怒鳴り散らすので、千佳由佳やママは何処に行ったのかなと思っていると、
「危ないから、アマズンに行かせた」
息を弾ませながらアボパパが言った。
「じゃあ今日から、パパと僕と二人で此処に住むわけ。新婚なのに」
最後の「新婚なのに」の台詞はパパの逆鱗に触れたようである。真太には分かった。急に黙ったからである。パパは、しゃべっている間はまだ良いと本能的に判った。
黙って、キッチンに夕飯の用意をしに行った。さっきのパパの質問について考えた。
「分からないなあ」
思いついただけである。大体、何かするのに、一々理由が要るのか?真太としては、一々理由を考えていたら動けやしないと思った。結論が出たので、リビングのソファに座っていると、眠くなって眠ってしまった。今日はかなり運動した。
揺り動かされて目が覚め、黙って夕飯を食べた。千佳や由佳が居ない。ママも居ないし、などと思いながら食べていると、段々悲しくなる。終いには、うえーんと泣き出した。
「千佳由佳が居ないとつまらない。ママが居ないと寂しいし」
アボパパには睨まれながら、しくしくすすり泣いていると、泣いても居られない事態になりつつあるのが分かった。
それに、思ったのは、烈にあの刀を借りたいと言う事である。今日は間に合わないが。
御神刀を手にしたアボを見て、真太はアボがかなり疲労しているのが分かった。さっきゼイゼイ言っていたのは、大声を出したからでは無かった。段々心配になって来た。五、六体やって来そうである。
真太が心配になって来ていると、烈がやって来た。
生まれ変わっても、この俺のピンチが分かるのだろうか。
「最近お前が生まれ変わって来たと、強が知らせて来たんだ。この刀が欲しいんだろう。お前の方が、強より大部腕が立つようになったと聞いている。お前か持っていた方がこの刀が役に立つだろうさ。俺が持っていても宝の持ち腐れだ」
「ありがとう、烈」
魔物たちが現れて、真太は思い切って切りつけてみると、あの時、黄泉で培った技を忘れてはいなかった。自分でも驚くような技を繰り出し、アボが何とか一匹やっつける間に、残りの五体を次々切り倒し急所を刺して殺すことが出来た。アボはゼイゼイ言いながら、
「なるほど、前世の記憶はあるのだな」
と言った。
「アボパパ、何だか疲れているみたいだね。ごめんね、僕がバカな事して。明日から僕が料理とかするよ。掃除とか洗濯とかも」
「止めろよ、妙な事言い出すのは。怒っていないよ、気にするな。少し休めば回復する」
アボはにっこりした。真太が魔物を殺すことが出来るので、ほっとして機嫌が直ったようである。
「烈、来てくれてありがとう。この刀僕が借りていて良いの」
「俺は必要ないさ、人間っぽいから龍神が助けに来てくれるさ。お前のところには、もう来そうも無いな。お前が龍神っぽくて。アボ、香奈さん達をまた、呼び戻しても良いんじゃあないか。真太が自分の面倒は自分で見れそうだし。さっき泣き出していたろう」
「どうして分かった。そうだ。大体どうして俺らのピンチが判ったのかな」
「何だか、俺にも母方の能力が出て来たみたいだ。霊魂になる方の能力は、あまり長時間は出来なくなっている。じゃあな、元翔の真太。もう帰るぞ」
「そうなのか、どうも有難う」
「烈、世話になったな」
「いいんだ、アボ。お大事に」
そう言って、烈は帰ったが、
「アボパパ、烈はどうしてお大事にと言ったの」
「さあな、俺がひょろ付いていたからかな」
「どこか怪我したの」
「別に、何でもない」
じっと真太は、アボパパを見つめた。
「朝、怪我したんじゃないの、何処かを」
「いやいや、何処も何ともない」
そう言われたが、真太は何故かまた涙が出て来た。きっとどこかを怪我している。
真太はそう感じて、わあわあ泣いて、兎に角、朝飛んで学校に行こうと思いついたことを反省していると、アバが皆を連れて来てくれた。
真太は嬉しくなって、泣き止むことが出来た。
「お前の泣き声が、頭に響いて来るんだ。親子でもないのにな」
「まあまあ、真太ったら、見かけは大きいけど、赤ちゃんだったのよねえ」
香奈ママに頭をなでられた。千佳由佳にも撫でられ、ほっとした真太は眠くなって、ソファでまた寝てしまった。眠った後、香奈はアボに、
「傷はどうなの、あの薬凄い効き目ね」
「うん、烈がすぐ薬を持って来てくれて、良かったよ。昼ごろにはもう塞がったんだ。真太の奴、感づいて泣き出すから困っていたんだ。アバ、皆を守ってくれてありがとう」
「いや、構わぬ。だができれば泣かすなよ。頭に響くんだ。子守も大変そうだな、ぞっとするぞ、見ているだけで」
そう言ってアバは、立ち去った。
「この刀は烈が持って来てくれたの」
「そうだ。烈は今朝もだったが、こっちの様子が分かるそうだ。千里眼と言うものだろう。これは、真太用だ。これなら真太が間違えて怪我をしても大丈夫だ。普通の怪我と言う事だよ。だからすぐ自然治癒力で直る。しかし、学校に持って行くと、見つかれば何と言われるだろうかな。だが持たせるしかあるまい。このバックに入るのか」
「あら、入らないわ。もう少し大きくないとね。買い直すしかないわね。そうだ、今度はスポーツバックにしましょう。大概、スポーツバックって底板があるでしょ。そこに隠しとけばいいんじゃない。このバックだって、ほら、こんな風になっているでしょ。見つからないように2枚重ねておけばどうかしら」
バックを見ながら、香奈は考え付いたのだった。
「そうと決まったら、俺らも寝よう。真太は良く寝ているからほっといて、皆で風呂にしようかな」
アボは機嫌よく言った。一時はどうなる事かと、気分が悪くなったが、一安心である。
真太が目覚めるといつの間にか、皆で眠っていた。もう朝になる。風呂に入らず寝ていたことに気付き、一人風呂場に行った。鏡を見ると、何だかまたデカくなったうえに、老けた気がする。はっとした。昨日の朝、必死で飛んだせいで、気を沢山吸い込んでしまった。もう大きくはならないと思っていたのに、吸い込み過ぎたと言う事だろうか。
不味いことをしてしまったと、つくづく反省したのだった。
風呂から上がって来ると皆も下に降りて来た。キッチンでげっそりした真太の様子を見て、香奈ママにどうしたのか聞かれ、
「またデカくなったし、老けた感じもしない?これじゃあ変に思われるよ。縮まないかなあ。そう言えば龍神って人間に化けているんじゃあないかな。だったらもう少し小さくなれないのかな」
そんな事を呟いていると、アボパパが、
「やろうと思えばできるはずだ、自分で何とかして見ろ」
「教えてくれないの」
「見ろ、俺は素のままで大丈夫だろう。だから教えようがない」
アボは急に本体になって見せた。確かに、記憶どうり普通のワニほどの大きさの龍神である。真太が飛んでいる時もそういう感じで、まだもう少し小さかった気がする。
「わあ、千佳達が乗ってお空を飛ぶのに、丁度良い大きさだね」
千佳が思いついたことを言ったので、慌ててアボは人間に戻ると、
「そんな事は危ないから、絶対しないからね」
と断った。真太も千佳達の前では絶対本性は見せまいと決心した。上手く言いくるめられて、実行に移しそうで怖い。
香奈ママから、
「今日は学校は休むわよ、真太。御神刀の入るスポーツバックが無いと、学校には行かせられないわ」
と言われ、なるほどと思った。
しかし学校では、その日担任が、
「今日は紅琉さんは欠席よ」
と皆に説明すると、柳君や、あの金沢君迄、心配そうな顔をした。
「どういうことかしら」
首をかしげる事態である。
電話の様子では、母親に不審な感じは受けなかった。腹痛だと、ありがちなさぼりの理由ではあるが、あの親子の先日の様子には、問題は無さそうだった。時々あの年頃の子は、母親にさぼりの電話をしてもらうことは在る。だがすぐ出て来ることが多い。様子を見るしかないだろう。坂田先生はそう判断した。
真太はママの買い物に、ついて行きたかったが、家に居るように言われた。それでは休んでも、退屈なだけである。パパに睨まれながらでは、千佳ちゃん達のテレビゲームで遊べもしない。千佳由佳が帰って来るのを待つしかない。遊び相手風に、それでいて実は真太が中心となってやるゲームである。パパはゲームが始まると、子供たちに興味を失い昼寝し出す。
そこも良い所である。
千佳由佳が、幼稚園から帰って来た。最近幼稚園が近所に出来ていて、歩いて帰れる距離である。それで例の保育園は止め、幼稚園に代わった。この辺は団地で、治安はかなり良かった。それでも、千佳がこっそり、怪獣が時々現れては飛んで行く。と真太に話す。香奈ママの結界が効いている様である。
真太は、千佳由佳とゲームを始めた。アボが眠ったのを確かめ、昨日の顛末を聞いた。
「千佳、昨日俺が出かけてから、実際の所何があったの」
「パパやママから聞いていないの」
由佳が質問した。千佳は、
「真太が泣き出すから、言わないことにしたのよ、きっと。泣き出さないなら教えてあげる」
千佳は小さくても、お姉さん面はする。きっとあと十数年したら、逆転して、問題なくお姉さんになる事だろうが、
「言ってよ、泣かないから」
「あのね、パパと一緒に幼稚園に行こうとしたら、真太が山の上の公園からお空を飛んでいるのが見えたの。パパが『あの野郎』と言って追いかけようとしたら、何処からか沢山、空を飛ぶ怪獣が現れて、真太を追いかけだしたの。パパは御神刀を持って、こっちから追いかけた。千佳達はママと見ていたら、間に合わないみたいに見えて、ママ泣き出した。そしたら、キンキラ龍や、黒い龍やら来て、あと火を噴くのも来て、お空は大騒ぎだけど、人間には見えないみたいだった。ママが騒いでいるのを近所の人が不思議そうに見ているから、千佳が、騒がない方が良いって言ったの」
「偉いねえ、千佳」
「まあ、真太よりはね」
真太はがっくり来て、先を促した。
「そしたらパパが翼のある怪獣の爪に突き刺さって、地面に落ちちゃってねえ」
「何だって」
「しっ、大きな声出さない。ママが泣きながら、落ちた所に走って行ったの。千佳と由佳も走った。そしたら、怪獣が来たけど、ママは弾き飛ばした。パパのとこに着いたら、何だか死んだのかなって感じ。大きな声出さないでよ。そうしたら、アバが来て、お家に運んで、運んだ頃に、烈が来てアバと烈とで薬付けたり、骨折れていそうな所、添え木したりいろいろしていた。だから死んでいないと分かった。ママが泣いていたから、直しているから死んでいないって、千佳が教えてあげたけどまだ泣くの。真太の泣き虫はママ似だね。ぶつならもう言わない」
「しっ、パパが目が覚めそうだ」
三人でゲームの続きを慌てて始めた。
アボがやって来て、
「お前ら、ずっとここで遊んでいたか?」
「うん、どうしたの」
「最近、ぐっすり眠れないなあ」
「俺が心配させるからな。ごめんね」
アボはじっと真太を見て、
「あまり知恵を早くつけさせるのも、不味いのかな」
と言って、寝床に戻った。
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