第4話 生まれる絆、消えてゆく絆

 空き腹を抱えてひたすら眠ることにした翔こと真太は、必死で眠るが空き腹は耐えがたいほどになって来た。今何時ごろだろう。目を開けると、昼間である。どう考えても翌日である。むっくり起き上がると、ふらふらしながら台所に向かう。背の高さから見て、10歳ぐらいでは無いだろうか、台所に行くと折悪しくアボが居る。というよりアボが台所の冷蔵庫前を陣取っているのだ。仕方なく、何気無さそうに、

「千佳由佳は?」

 と、聞いてみる。

「公園で遊んでいるよ」

「一緒に居なくて良いの。小さな子の守りの方が大事じゃない?」

「お前の方が実のところ、小さい子なんだが。生まれて三日目だからな」

「ふうん、そうなの」

 此処に居ても無駄なので、寝直そうと思ったが、振り返り、

「ちなみに、ママのおっぱいはどうなんでしょうね」

 と聞くと、

「それこそ、究極の人間の食いもんだろうが」

 ため息交じりに二階の子供部屋に行こうとしたが、どう考えても二階に上る体力は無い気がした。後戻りし、ばったりと椅子に倒れこんだ。椅子二脚に渡って寝ころび此処で寝る事にする。

「二階に行けよ」

「動けない」

「今から、千佳由佳の昼飯の用意をするぞ。良いのか」

「俺にも食わしてよ」

「今、小六位だぞ」

「十分デカくなってない」

「魔物と戦えるのか」

「シンは助けに来ないの」

「シンが来るのは人間の救助だ」

 驚いて起き上がると、

「俺って人間じゃあないのか」

「アマズンで聞いてなかったのか、皆、龍神寄りのハーフと言って居なかったか。それも限りなく龍神寄りのハーフだ」

「そんなこと言っていたのか。なんで教えてくれないんだ」

「聞いていただろうが。理解していたと見たがな」

「皆、見誤ったんだよ。ううう、腹好いた。何かくれ」

「皆が皆、見誤る筈はない。二階に行け。命令だぞ」

「命令って、何だっけね」

 すると、アボは真太の足を掴み引きずって、二階に引きずって行こうとした。

「あ、これに近いことあったねえ。あんときのこと覚えている。どうしてアボ、引きずられて行ったの」

 言いながら真太は思い出した。アボは毒にやられて気を取り入れられず、龍神でありながら、その辺のワニぐらいの大きさしかなかった。

「思い出した。アバや極み殿のデカさを思って悲しくなったんだった。解ったよ。自分で行くから」

 どたっと足を離された真太は、自分で二階に上がった。二階から、

「ごめんねアボ」

 と言っておいた。

 空き腹を抱えて眠ろうとしていると、何やら下が騒がしくなった。香奈ママのお帰りのようだ。千佳由佳のはしゃぐ声もしてきた。真奈姉ちゃんの声がする。真奈姉ちゃんの車で帰って来たんだ。

 それにあの声は翔のママだった人の声だ。死ぬ間際、魔物に取りつかれていたんだった。誰か始末してくれたんだっけ、それとも取りついた奴は自分で出て来たのか。だけどその後どうなったんだろう。そう言えばシンは人間同士の事には関われないんだったな。でも,あの時シンが来たって事は、魔物も居たんだ。

 ママに取り付いていたのは魔物?それとも俺を殺めた人間だった奴?そこんとこよく見ていなかったな。

 襖が開いた。美奈である。手には御神刀がある。何処に御神刀を隠していたのか知っていたのか?おそらく香奈から聞き出したのだろう。

「そこんとこ見ていなかったねえ。人間どもの霊魂が、わさわさやって来たから、任せたのさ。人間の霊魂は霊獣が手出しは出来ないからねえ。だけどまた性懲りも無く戻って来たな。目障りなんだよ。お前はな。真太郎、よくもまあ我々の邪魔をしに、懲りずに現れる事よの。今日始末すればお前は霊獣の黄泉に行き、二度とはお目に掛かれまいなあ。これ以上生かすと又人間の黄泉に行くだろう。生きながらえるにつれ、人間に近くなるからな」

 やはり母に取り付いていたのか。一度取り付いたら、御神刀で、払わない限りまた取り付かれるのだろう。アボは気付いてくれるだろうか。このピンチを。

 美奈が御神刀を振りかざしたその時、美奈は吹っ飛んで階段をゴロゴロと転げ落ちて行った。恐るべき香奈の結界の威力である。

 階下では音に驚いた皆がやって来ていて、美奈に取り付いていた魔物は、アボにやられた様である。どうやったか知らないが。

 真太は見ていないので、後で千佳に聞いた所、青い光で焼き殺したと言った。人間には何ともないようだが、魔物はのた打ち回って美奈から出てきた挙句、終いには黒焦げになったそうだ。アバと似たような技である。

 なんせ、パパだからね。二人で納得し合ったものである。千佳は、

「おばあちゃんがどうなったか聞かないの」

 鋭い質問をしてきた。

「聞いた方が良いかな。言いたいの?だったら言ってみて」

「おばあちゃんの事は憶えていないの」

「覚えているよ。おばあちゃんはどうなったの。階段から落ちて怪我でもしたの」

「全然、平気だった。でも翔叔父ちゃんは聞かなかったね」

「翔じゃないってば。真太なの。理由はね、もう翔叔父ちゃんではないんだし、あの人には、というか本物には会った事ないから、まだ真太には知らない人だよ」

「今憶えているって言ったでしょ」

「覚えているけど、思い出だけ。今は生まれて来てから、知っている人だけ気にかけているだけ」

「ふうん、そう言えば、パパが真太はまだ赤ちゃんだからって言っていたっけ」

「そういう事だな。」

 下から香奈の声がした。

「千佳、ご飯よ。パパが作ってくれたの」

 夕食の準備が出来たようだ。

「香奈ママのお呼びは千佳だけだな。うえーん、腹空いた」

「パパに真太が腹空いたって言っているって言ってあげよか」

「聞こえているよ、無駄、無駄。まだデカくなるまで待てって言うんだ」

「ふうん。でも、ママはどうして真太のとこに来ないのかな。会いたくないのかな」

「パパに止められているのさ。きっと。多分、俺がおっぱいに吸い付くと思っているんだな。そしてこれ以上大きくなれなくなる。千佳、どう、俺。今何歳くらいだと思う」

「立ってみて」

「立てない。動きたくないんだ。腹が空いて」

「寝てるだけじゃあね」

 と言いながら千佳は翔こと真太の様子を見て、

「多分中学生位」

「ホント、昼間は小6位だったんだ。良い傾向だな。数時間でデカくなったようだ」

 そこへアボが、やって来て、

「千佳、早く飯にしようよ。言っておくが真太、さっきとあまり変わっていない。千佳の言う事はあてにはならんぞ。5歳の子には皆デカく見えるんだ」

「うう、段々成長が止まって来た。もう皆向うに言ってよ」

 真太はもうひと眠りすることにした。

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