第3話 故郷でお披露目
アボは赤ちゃんを抱いていそいそと駐車場へ急いだ。千佳と由佳も後ろから付いて来る。
赤ちゃんは物珍し気にキョロついているが、アボに、
「黙っていろよ」
と言われ、言う事が分かったらしく黙っている。車に乗り込むと、千佳は黙っていられず、
「もう良いよね、パパ」
と念を押し、赤ちゃんに、
「翔叔父ちゃんなの」
と聞いてみる。
「そうさ、良く察したな。さすが千佳だな。俺、生まれ変わってきたようだな。実のところ、アボ。俺は翔の時からどうやら夕霧の息子の真太郎の生まれ変わりだったらしい。黄泉に行ったら、夕霧っていう人が来てね、あ、夕霧さんの事知ってる?」
「お前の葬式の時、聞いた」
「そうなんだ。つまりシンの実の息子の霊魂の生まれ変わりだな。そこんところシンは知っていたのかなあ」
「知らなかっただろうな。そんな話はしたことが無い」
「だよな。こっちも死んでみるまで知らなかった。それで、機は熟したってところで、俺は生まれてきてシンを手伝って焔の童子を討ちとったって事だな。シンに言わせると、あっけなかったって事になるけど。あ、このセリフは俺が魔王っぽい奴をシンが倒したときに言ったんだけど。シンは俺の見解を真似て言ったんだ。それにしても、何だかしゃべりにくいな。そうか、歯が無いからだな。千佳ちゃん鏡無かったっけ」
「あるよ」
千佳ちゃんは自分の小さなバックから可愛い手鏡を出した。翔に渡そうとすると、
「ううむ、まだそれはつかめそうも無いな。俺の顔映るように持っていてくれる。ありがとう。あれ、そうか産湯の途中でずらかったんだったな。俺が場違いなしゃべりで看護師さんを驚かせたからな。まだばっちいぞ。家に帰ったら洗ってよね、アボ。あれ、この顔大部アボに似ているねえ、前とだいぶ違う。あーん、歯が生えてない。それになんかばっちい。香奈には失礼だが。早よ帰って洗ってね。あれ、これ歯と違うか。生えだしたのか。はえー、成長速いねえ」
「叔父ちゃん、おしゃべり変わってないねえ」
「そうだね、千佳ちゃん達のかわいい赤ちゃんじゃなくてごめんね。バブバブとか言わなくて」
「いいのよ、逃げ足が速くなくちゃ困るんだって」
「うん逃げ足だけは負けないと思う。きっとね」
家に着くとアボは、
「産湯はアマズンの川で洗いたいな。今から連れて行こうと思う。良いかな翔。アマズンの奴らにも、千佳ちゃんや由佳ちゃんも紹介したいし」
「良いけど、俺らを見せびらかしに来たと思うかもしれないな、誰かさんは。寝起きが悪いと」
「実際そのつもりだ」
「香奈は連れて行かなくて良いの」
「もう連れて行った、霊魂でね。お前らは実態で連れてゆく」
「何処に行くって、パパ」
「アマズンだよ、パパの故郷だ」
と言う事になり、皆をアボは運ぼうとすると、翔は自分で実体でも飛んで行けた。どちらかというと人間より龍神寄りの様である。飛びながら、由佳が、
「パパ、翔叔父ちゃんは今度はなんていう名前なの」
と聞いてきた。
「そうだねえ、ママにも聞いてみないと」
翔は思わず、
「希望を言えば、真太郎に近いのが良いな」
と口をついて出てきた。
「ううむ、何故か言っちまった」
「真太郎の事思い出してきたんじゃないかな。飛んでいるうちに」
アボは言いながら、
「今、香奈に聞いてみたよ。真太にしよう」
「わあい、真太叔父ちゃん」
「もう、叔父ちゃんはいりません。ひょっとしたら、そのうち前世の事は忘れちまうかもしれないし。夕霧さんがそんなこと言っていたからね」
翔はそう言いながら、自分の体を見下ろすと、もう3歳ぐらいの大きさになっている。帰りは6歳かなと思えた。
そうこうするうちにアマズン川に着き、上流の綺麗なところで、皆で川遊びとなった。きゃあきゃあ言って遊んでいると、ぞろぞろ、見た事のない龍神達がやって来た。その中に不機嫌そうなアボもいる。やっぱりねと思った翔、ではなく真太である。
以前は不思議な言葉に聞こえたが、今日は何故かよく聞き取れて、意味が想像できた。後でアボに念を押してみるが、多分真太には意味が自然と分っていた。
『人間との間に出来たにしては、随分元気が良い事だな。龍神の方に近いようだな』
『しかし、霊魂は人間の者のようだぞ』
『いや霊魂も、龍神に近いようだ。以前の霊魂がまた入っておる』
『その様じゃな』
『翔ではないか』
アバが驚いて言った。アマズンの言葉である。真太が思わず口をついて出した言葉は、
『アバ、ヒサシブリ』
何故かアマズンの言葉をしゃべることが出来ていた。聞き取れるだけでは無かった。自分でも不思議な能力だった。アボは、翔から聞いた事を皆に話していた。
『不思議な事だな』
アバは真太と名乗ることになった翔を見ながら、呟いた。そして一人さっさと居なくなった。多分寝なおすのだろう。
アボはひとしきり遊んで眠った三人を抱えて、家路に就いた。
真太の予想通り、家に帰り着くと、6歳児ぐらいになっていた。帰ったのが分かって目覚めた真太は、まだ前世の記憶はあった。鏡を見ると、6歳児のアボ似の自分が居る。歯も生えそろったようである。
「ねえアボ、ご飯は?」
「人間の飯が食いたいのか。もう少し待て。高校生ぐらいまでにならないと危ないからな。人間の飯を食うと大きくならない」
「ええっ、あとどの位で15、6歳になれるのかな」
「段々成長が鈍くなるようだからな。2,3日かかるんじゃあないかな」
「2,3日?飲まず食わずって?」
「しかし、アマズンの川の水を飲んだだろう、あの水は飲んでも故郷の川だからいいようなものの、やはり成長が鈍る」
「それ、最初に言ってよ。知ってたら、あまり飲まなかったのに」
「そうかな」
「いや,多分飲んだ」
「今度からデタラメ言うなよ」
何だか急にアボが厳しくなったような気がした。親だからな。納得した翔こと真太は、きっと何か飲み食いしたら、こっぴどく叱られることが察せられ、空き腹の気分を晴らすには寝るしかないと決心した。
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