第13話 それぞれの派閥
テレポーテーションで王都から戻った俺達二人は、ラウンドフォレストの街を歩いていた。
……いつもだったら、もっと人も多くて街も盛況なんだけど今日はあまり人がいないな。
「なあ、アザレンカ? なんか今日人少なくないか? 森で一稼ぎした冒険者達が、昼間から街で酒を飲んだり遊んだりしているのが、ラウンドフォレストの日常なのに」
「そうだね……僕もこんな人がいないラウンドフォレストは始めて見たよ」
俺達の目に映る街の光景は、不思議としか思えなかった。
それなりの期間をこの街で過ごしていたが、こんなにも街が閑散としているなんて、一日たりとも無かったからだ。
「……それで、どうする? 王国騎士団と王国魔導士団を頼れないとなると僕達二人でクラウンホワイト討伐しなきゃかな?」
アザレンカはため息を吐きながら、憂鬱そうにこれからどうするのか聞いてくる。
俺にそんなことを聞かれても困るんだけど。
「……とりあえず、森へ行ってホワイトウルフとブラックウルフを、二人で狩れるだけ狩るか? そうすれば、ウルフ系モンスターが街に出没する頻度も減らせるだろうし」
「そうだね。それにプライスが聖剣をもっと使いこなせるようになって欲しいし。僕が言えることじゃないけど……正直、ホーリーマジックが使えないと、あんまり聖剣を持っている意味が無いんだ」
「……ホーリーマジック?」
アザレンカから、聞き慣れない言葉を言われた俺は当然分からなかった。
というか、初耳だし。
元々の火の聖剣の所有者だったアザレンカとは違って、先代の勇者であるマルクから説明されてもいないんだから、聞いたことあるわけ無いのは当然なんだろうけど。
「ホーリーマジックは、聖なる魔法。昔の人は聖魔法って呼ぶ人もいるね。聖剣を持った勇者にしか使えない魔法だよ」
「……魔力消費激しそうだな。あんまりそういう魔法使うと俺、すぐに魔力切れを起こすんだけど大丈夫か?」
「魔力? 魔力なんかほとんど使わないよ。それなのに威力抜群で、聖剣の持ち主が攻撃しないと決めた人や、破壊しないと決めた物には影響を与えない優れ物だよ!」
「そこまで聞くと、メリットしかないな。ホーリーマジックってのは。……で? そのホーリーマジックを使えるようになるのが、メチャクチャ難しいってオチだろ?」
「……うっ」
どうやら図星だったようだ。
アザレンカが一気にトーンダウンする。
「おじいちゃん……先代勇者も、若い頃はホーリーマジックを沢山使ってたみたいなんだけど、歳を重ねるようになるにつれて、使えなくなっていったみたいなんだよね。……それからだったかな、王都でおじいちゃんの意見が突っぱね始められたり、存在が軽視され始めたのも」
「勇者が衰え始めた辺りから、俺の親父やお袋、この二人と同じ年代の連中が、国の要職に就き始めたのもあるんだろうけど……アイツららしいよ、全く」
ああ、嫌な大人達だねえ。
王都にいる四十代辺りの連中は特に。
こんな奴らが国の要職だったり、貴族とかで無駄に金を持っていたり、多くの人間を従えていたりするから、醜い派閥争いなんてものが起きるんだよ。
あ、派閥で思い出した。
「そういえば、前々から聞きたかったんだけどさ。先代勇者って派閥で言うとどの派閥だったんだ?」
先代勇者が亡くなるちょっと前ぐらいから、多くの貴族がアザレンカのことを、第一王子派に勧誘していたことは聞いたが、先代勇者がどこの派閥だったのかは知らないんだよな。
「……中立派だね。女王様は四十代だから、まだまだ死なないだろ? って言ってた。結構多くの貴族もその派閥だったんだけど、おじいちゃんが死んじゃってからは、別の派閥に行った貴族が多かったな」
「なるほどな。確かにそりゃそうだ。醜い派閥争いなんかするよりも、やることは他に沢山あるのに……王都の貴族は本当嫌だなあ」
「プライスもその王都の貴族でしょ」
「……一応な」
自分で言ってて悲しくなるぜ。
一応、王都の貴族だけど国の要職に就くことは一生ない人間だからな俺は。
そもそも、派閥争いなんか醜いと言って、逃げてるような奴に務まる国の要職なんざあるわけが無いけど。
あるんだったら是非紹介して欲しい。
楽に大金貰えそうだし。
「そういえば、ベッツ家は派閥どこなの?」
「多分第一王女派だろ。お袋と姉二人が第一王子のことを大嫌いだし。親父は知らねえ」
「……そっか。やっぱり、第二王女派はほとんどいなそうだね」
「……え? アザレンカお前、第二王女派なの?」
「第二王女、そんなにダメかな?」
第一王女派、第一王子派、中立派、第二王女派と派閥がある中で、アザレンカは第二王女派なのかよ。
……一応、第二王女は俺達と昔からの知り合いだが、俺個人としては二番目に選びたくない派閥なんだけど。
「さっさと、森行って早く宿に帰ろうぜ。お前、きっと疲れてるよ」
「第二王女派ってだけで、その反応は酷くない!?」
「第二王女派とかお前含めても、両手で足りるぐらいしかいないんじゃないか?」
「流石にもうちょっといるよ!」
そんな言い合いをしながら、森へと向かうのだった。
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