第12話 心が折られるし抉られる
「……うう、胃が痛い……なあ、やっぱり一人で会いに行ってくれないか?」
「嫌だよ! プライスの家族でしょ!? 僕だって、本当はあの人達に会いたくないんだからね!?」
グリーンさんに依頼された翌日、テレポーテーションで久し振りに王都にある俺の実家へとやって来た俺達は、これから嫌な人間に頭を下げに行かなければならないともあって、テンションはダダ下がり。
俺に至っては胃痛になるほど、身体が家族への再会を拒否していた。
「プライスさん、お帰りなさい。おや? アザレンカさんも一緒ですか?」
実家の前で、お前が先に行けよ……などとお互いに押し付け合っていると、黄色い腕章を付けていて、安そうな杖を持っている黒髪ロングの魔法使いに声を掛けられた。
騎士も魔法使いも一年目は黄色い腕章を付けて、新人だと分かるようにしている。
ということは目の前の魔法使いの女の子は新人で、俺達と同い年だ。
……うーん、でも新人魔法使いか。
王国騎士団にいる親父やバカ姉が、今どこにいるかなんて知らなそうだな……。
「……お入りにならないのですか? お二人とも?」
「あ、ああ……うん」
「ぼ、僕達、騎士王とセリーナさんに用事があるんだ! で、でも二人にも色々と予定あるだろうからさ! ね、ねえ? プライス?」
「そ、そうだな! いくら家族とはいえ急に邪魔するのも……って思ったから、連絡してからにしようって、話になってさ!」
無理矢理家へ入らない口実を作って、二人で口裏を合わせる。
ここで俺が正直に、家族に会いたくないんだよね……とか言ったら、子供達からも尊敬されているという騎士王のイメージが崩れちゃって、キレてきそうだもんな……親父が。
……この新人魔法使いから王国魔導士団にいるお袋や姉さん経由で、あの二人に会うことなくグリーンさんから依頼があったと伝わらねえかな……などと考えていた時だった。
「ちょっとー休憩もう終わるわよー? たっぷり休憩しようだなんて、まだ三年早い……って、あれ? プライス? それにアザレンカちゃんじゃない?」
俺達三人に、そう声を掛けてきた人間がいた。
振り向くとそこには、紫色の髪をしたボブヘアーの女性の魔法使いがいた。
杖なしの俺やアザレンカとは違って、その魔法使いが持っている杖は賢者の杖と呼ばれる超高級品の杖。
金貨数十枚は下らないですね。
さぞ稼いでるんだろうなあ……。
ああ、間違いない。
振り向いた先にいたのは、俺の姉であるエリーナ・ベッツだった。
こっちは、マシな方の姉で三つ年上。
ちなみに俺達が今用事があるのは、クソな方の姉で、五つ年上の茶髪のベリーショートの女だ。
「すいません、エリーナ様。プライスさん達がいたので……」
「あーなるほどね。二人の要件は私が聞いとくから、あなたは仕事に戻っていいよ」
「分かりました。では、プライスさん。アザレンカさん。失礼します」
新人の魔法使いは、そう言うと仕事へと戻っていった。
「……で? どうしたの? 二人が王都に来るなんて? 王都にいる人達なんて、二人にとっては会いたくない人達ばっかりでしょ? あ、私もその会いたくない人達の中の一人かな?」
……相変わらず、エリーナ姉さんのブラックジョークはキツくて笑えないぜ。
反応に困るんだよ、そんなこと言われても。
「実は、ラウンドフォレスト家から親父とセリーナに依頼があったんだ」
「へー、でもその依頼って二人じゃ何とかならないことなの? それじゃ何のために、二人は女王様の命令で色んな街に行ってるの? まあ、何とかならないんだろうな……って思われてるからパパやお姉ちゃんに依頼してるんだろうけど」
「……うわぁ、もう帰りたい」
俺もだよ、アザレンカ。
エリーナ姉さんは、無意識にこちらの心を抉るような発言もしてくるから困る。
「あーそれで家の前までは来たけど、やっぱりあの二人には会いたくないなあ……誰かに伝えて貰って、返事だけ聞きたいなあ……って感じでしょ?」
「げっ……なんで分かるんだよ」
「やっぱりね。あーでも、パパもお姉ちゃんもしばらく無理なんじゃないかな? 二人と違って忙しいみたいだし? どんな依頼か分からないけど、二人でやれるだけやってみたら? 失敗しても、みんな二人にはそこまで期待してないから大丈夫でしょ? あ! ちなみに、ママも私も忙しいからね! 手伝えないよ!」
「あっそう……」
「……もう、帰ろうか?」
今、親父やセリーナに依頼をしてもダメそうだということが分かった以上、あの二人に会いに行く意味は無いな。
何より、俺も本当今すぐ帰りたい。
心が抉られるどころか、バッキバキに折られました。
「一応二人には伝えておいてあげるよ。多分断られると思うし、OKしてもかなりの金額ふっかけられると思うけど? で、どんな依頼?」
「クラウンホワイト討伐……」
「あーダメだね。そんな時間掛かりそうなやつは無理だと思う。もう少し暇になった時に伝えてあげるよ。今、あの二人忙し過ぎてピリピリしてるから。じゃ、私も行くね」
そう言い残すと、エリーナ姉さんは仕事へ戻っていった。
もちろん、俺達もすぐに王都を去った。
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