第14話 上級氷属性魔法
ラウンドフォレストの街を南側へ歩いていくと、数十分ほどで森へ着いた。
といっても、かなり広い森だから大変そうだな。
しかも、困ったことに色んな場所で、ウルフ系モンスターの群れの目撃情報があるし。
森の北側は、ラウンドフォレストへ向かう道なので、引き返すことになるから行く必要が無い。
で、確か森の東側へ進んで行くと、王家や貴族御用達の高級野菜や果物を育てている農園があるんだよな。
東側でウルフ系モンスターの目撃情報は聞いたことないし、何より王家や貴族御用達の農園なんだから、いざとなれば王国騎士団や王国魔導士団が、なんとかしてくれるだろうし、守ってくれるだろ。
よし、森の東側にも行かなくて良いか。
「クラウンホワイトの目撃情報があった洞窟がある森の西側と、元々ウルフ系モンスターがよく出没する森の南側のどっちへ行く?」
「まずは南側へ行こうよ。もし洞窟の方へ行って、途中でクラウンホワイトに遭遇したら大変だし」
「それもそうだな……っと、そんなこと言ってる間にブラックウルフ達のお出ましだ」
「やっぱり、南側から街の方へ向かってきてるね」
「全く、困ったもんだ……ん?」
「どうしたの?」
「……いや、何でもない」
一瞬だけだが、ブラックウルフ達の背後に人の姿が見えた気がした。
あくまで一瞬なので、気のせいかもだけど。
……いや、もしくは本当に人がいたのかもしれないけど、どうせこの森にいるのは、新米冒険者だから逃げてただけかもしれないな。
「それにしても……数多過ぎないか? 絶対三十匹以上いるよな? これもクラウンホワイトが出現した影響なのか?」
「それは分からない……けど、普通じゃないってことは分かるね。でも、ブラックウルフか……なら僕一人に任せてくれる?」
そう言うとアザレンカは、剣を杖代わりにして魔法を詠唱し始めた。
「絶対なる氷よ。全てを凍てつかせ、息の根を絶えさせろ。アブソリュート・ゼロ」
アザレンカが詠唱した魔法に俺は驚く。
アブソリュート・ゼロ。
氷属性の上級魔法で、この魔法を使える人間なんてあまり見たことねえぞ。
とてつもなく凄まじい威力で、あっという間に凍死状態にする技だ。
体の外側だけを凍らすだけじゃない、血液、呼吸器、消化器、脳、そして心臓。
体の内側まで一瞬で凍てつかせる。
しかも、攻撃対象に集中して攻撃出来る魔法だから、ここみたいな森で使うにはうってつけの魔法だな。
いや……本当に、アザレンカって聖剣を使う勇者ということにこだわらせなければ、剣技も優秀な氷属性魔法のスペシャリストとして、王国魔導士団で出世出来たんじゃねえのか?
そんなことを考えている間に、ブラックウルフの群れは白い煙に包まれてしまった。
あれ、なんかしかも寒い。
おかしいな夏が近いんだけどな。
「ふう……全滅かな? でも、もしかしたら避けることが出来たブラックウルフがいるかもしれないから、残りはお願いね」
「流石、魔力量と氷属性魔法の天才と言われただけはあるな」
「いやいやそんなことないよ。僕はまだまだだね。この魔法を使うと、とてつもない疲労感に襲われちゃって、身体の動きが悪くなるし。プライスのお母さん……大賢者はこの魔法を涼しい顔で使っているからね。あのクラスの人間を天才って呼ぶんだよ」
……一応、イーグリット王国ナンバーワンの魔法使いの証である大賢者のお袋と比べてどうするんだ。
そこまで、謙遜なんかしなくて良いのに。
「氷属性魔法がからっきしの俺には、分からない領域だな。よし、それならブラックウルフの死体処理は全部俺がやるか」
今はアザレンカの魔法で氷漬けになっているから良いけど、時間が経って外の気温で溶け出したりしたら、森にいる他のモンスターに食い荒らされてしまうだけではなく、夏が近いこともあって、死体の肉が腐ること待ったなしだし。
ただでさえ、森なんだから虫が多いのに、こんな多くのブラックウルフの死体を放置したら、死体の腐敗臭とか、死体に大量の虫が集ってしまうとか、いろいろと別の問題が出てくる。
「大丈夫? 結構な数だと思うけど?」
「なんとかなるだろ。面倒臭くなったら、燃やして灰にすりゃいい。ブラックウルフの牙と皮なんて、あんまり金にならないからな。初心者向けのモンスターなだけはあって、売りに出される数が多いし。あ、アザレンカ。その剣貸してくれ。聖剣じゃ流石に死体処理は出来ないから」
「え? 解体用のナイフとか持ってないの? ……もう、キレイにして返してよ? 普段、駆け出しの冒険者の人達に素材あげるから死体処理してって、頼んでばっかりいるから、こういう時に困るんだよ」
アザレンカは、嫌そうに文句を言いながら剣を貸してくれた。
……そうなんだよな。こんな時、駆け出しの冒険者辺りが近くにいてくれたら、ブラックウルフの死体処理なんかやらせるのに。
牙や皮のようなお金になるところは、全部あげるからって言って。
そう言うと喜んでやってくれるんだけど、どうしてこんな時に限っていないんだよ。
はぁ……とため息を吐きながら、俺はブラックウルフの死体が転がっている所へ行く。
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