第55話 反撃開始


 BP(攻撃力)「290」!?

 通常時の10倍になっているじゃないか! これってもはや、バフってレベルじゃない気がするけど……!

 それに、『魔剣』の覚醒も『状態2』になっていて、スキル欄には詳細不明の二種類の斬撃が追加されていた。

 これらのステータスアップは、バフによる一時なものなのだろう。だけど今、この状況では、僥倖としか言いようがない!


「メア、下がって! 僕がやる!」

「は、はい……!」


 僕は、魔剣を長さと形状を調節すると、刀身を鞘に納めたまま左の腰に添える。右足は前、左足は後ろ。右手を刀の束に軽く添えながら、しかし握らず、目を閉じ、呼吸を整える。  

 身体が自然と動く。まるでこれから放つ技が、僕の身体を動かしているかのように。


「はあん? 僕がやるぅ? ろくに腕に覚えもない素人が、ナニ格好つけてるんデスか? 忘れちゃいましたカ? さっきあなたが放った斬撃は、私には効かなかったじゃないデスかっ!!」


 怒りに顔をゆがめたショコラが、僕に向かって突進しようとした、その刹那。


拙者、早漏にて候うっ!ミコスリ・ハーン

 

 抜刀! 

 鞘から解放された刀剣が閃く。


 ズパンッ!

 

 次の瞬間には、ショコラの伸び上がった上半身と、ティアナを閉じ込めた下半身とが真っ二つに切断されていた。

 下半身の方はそのままトロトロと溶けていき、中から粘液にまみれたティアナの身体が吐き出された。


「なっ!? 飛ぶ斬撃……ですっテ? バカな、元に戻らナイ!」


 斬撃スキル『拙者、早漏にて候うミコスリ・ハーン』。

 速さと鋭さを旨とした抜刀術だ。

 これまで剣術はおろか、基礎的な鍛練すらしてこなかった僕には、本来扱うことなどできない高等スキル。それを今、この瞬間発動できたのは、『ルーム』によるバフ効果の恩恵に他ならない。言ってしまえば、修練の果てに得るはずだった力の、一時的な前借りだ。それが証拠に、一発撃っただけで僕の身体は極度の疲労と激痛に襲われていた。技の威力に、身体が付いていけていないのだ。


「ルクス様! 大丈夫ですか!」

「ハァ、ハァ……僕のことより、ティアナを……」

「は、はい!」


 メアはいつになく素早い動きで、裸のティアナを抱き上げる。


「この……クソが! この程度でいい気になってんじゃねーデスよ!」


 ショコラが怒気をはらんだ声を上げると、上半身の切断面がボコボコと泡立ち、『ボコォ!』、新たな下半身を吐き出した。元通りの見た目に戻ってしまう。


「そんな……」

「大丈夫だよ、メア。あれはさっきまでの、切断面をくっつけていたのとは違う。体力と魔力を使って、むりやり身体を再生したんだ。ダメージを受けていないわけじゃない」 

 

 僕は『鑑定』スキルで、ショコラのステータスを確認しながら言う。


「それより、アイツの身体のどこかに『核』があるみたいだ。それがヤツの唯一の弱点。メア頼む、アイツの『核』をむき出しにしてくれ! トドメは僕が刺すから!」

 

 『核』さえ狙えれば、僕の『もうひとつの斬撃スキル』で確実にアイツを仕留められる。そう確信していた。

 問題はバフの効果が切れる前に決着をつけられるか。時間との戦いだ。


「そ、そんな! 私、どうすれば……!」

「メアのステータスも、バフのおかげで大幅に伸びてる! 『幻惑』だ! スキルの声に耳を貸せば、身体は自然に付いてくる!」

「でも、失敗したら……」

「大丈夫! 僕を信じて!」


 僕は力強くうなづいて見せる。それを見て、いつもたよりなさげなメアの顔に、決意の表情が浮かんだ。


「は、はい! ルクス様! 私、イキますっ!」


 メアは、その大きな胸で前で両手を結ぶと、すっと瞳を閉じる。まるで祈りを捧げる聖女のような姿だった。 

 しかし、彼女は性欲と幻想を司る魔物・サキュバス。やがて見開かれたその瞳は、黄金色に妖しく光り輝いていた。


「『幻惑【強】』……、」

「ナマイキな! 八つ裂きに、」




「『夢で逢いましょうダ・チュラ』っ!」




名前:メア

性別/年齢:女/20歳

種族:サキュバス

レベル:10

HP:22

MP:37→370 ←Buffer!

BP :15

OP:G

経験人数:0

装備:誘惑のレオタード

   セーブの腕輪

   女王様の鞭 

スキル:『回復(弱)』

    『隠密』

    『幻惑(強)』←Buffer!

    『誘惑(弱)』

 


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