第43話 ドロップアイテム

 魔物たちが倒れていた場所に落ちていたもの。それは二種類の武器であった。  


「これって、ドロップアイテム……?」

「そうでしょうね、きっと」

「『鞭』と『棍棒』……でしょうか……?」


 それらは、クイーンとホブゴブリンが持っていた『鞭』と『棍棒』だった。しかし、最前までと異なっている点がある。それは『サイズ』だった。 

 圧倒的巨体の魔物たちが手にしてちょうどいいくらいの巨大さだったそれらは、今は、僕らが扱うのに適したサイズにまで縮んでいた。ドロップアイテムって、こういうものなんだろうか? 不思議だ。


「とりあえず、持って帰ってアンナさんに見てもらいましょう? 私たちじゃ調べられないし」

「呪いのアイテムとかだったら、困りますもんね……」 

「こういう時、『鑑定』のスキルがあれば便利なのに……って、あれ?」  

 

 ぼんやり武器を眺めていた僕の頭に、ある『情報』が浮かんできた。これは……!

 

「『女王様の鞭』と『ゴブリン⭐バット』……、どっちも純粋な打撃系武器……、呪いの類いはない、みたい……」

「ルクス? どうしてアンタにそんなことがわかるの?」

「ルクス様、もしかして……」

「う、うん! 僕、レベルアップして『鑑定』のスキルをゲットしたみたい!」


 ふたりから歓声が上がる。これは嬉しい。冒険をする上で非常に役立つスキルだ。今のところは『アイテムの名前』と『基本的な性質』、それに『呪いの有無』しかわからないけど、さらにレベルアップすれば精度も上がって、より詳細な効果などもわかるようになるはずだ。


「ねぇ、メア。アンタ、この『女王様の鞭』を装備してみたら?」

「え? わ、私がですか?」

「あ、それいいかも! 金属製の武器より軽いし、遠距離攻撃もできるし。メアにピッタリじゃないか!」


 それに、サキュバスと『女王様の鞭』って、妙にしっくりくるし。

 ちなみに、もう片方の『ゴブリン⭐バット』は僕がもらうことにした。魔剣は確かに強力な武器だが、これから先、斬撃が通じにくい敵も現れることだろう。その際、この『打撃に全振り』な武器は役に立ちそうだ。マジックポーチに入れておけば、かさばらないし重くもないし。

 僕らは戦利品を手に『セーブポイント』に向かった。腕輪を水晶にかざして、セーブ完了。

 今日も死ぬかと思ったけど、なんとか無事に済んでよかった。それにレベルも上がったし、ドロップアイテムも手に入れたし、『鑑定』なんて便利なスキルも手に入れたし。

 苦労した分、きっちり見返りがある。僕は冒険の醍醐味ともいうべきものを感じ始めていた。


「よし。じゃあ、このまま地上に帰還しよう」


 ひそかな満足感を胸に、背後のふたりを振り返る。


「そうね。早く帰りましょう」


名前:ティアナ・ヴォルフガンド

性別/年齢:女/18歳

権能けんのう:『獣化じゅうか

職業:武闘家

レベル:10→11 ←New!

HP:25→30 ←New!

MP:13→15 ←New!

BP:30→35 ←New!

OP:A ←New!

経験人数:0 ←New!

装備:布の服

   セーブの腕輪

スキル:『獣王の爪』(斬撃)

    『獣王撃』(打撃)

『獣王脚』(蹴り) ←New!


「ーーん?」


 ティアナの顔を見た瞬間、頭の中に彼女の情報が浮かぶ。これも『鑑定』スキルの効果なのかな? 対人でも発動するのか。

 わざわざステータスを開示してもらわなくても色々わかるのは便利だけど、『OP』とか『経験人数』ってなんだ? 通常のステータスにはなかったけど……。

  

「お腹空きました~」


名前:メア

性別/年齢:女/20歳

種族:サキュバス

レベル:9→10 ←New!

HP:18→22 ←New!

MP:32→37 ←New!

BP:7→15 ←New!

OP:G ←New!

経験人数:0 ←New!

装備:誘惑のレオタード

   セーブの腕輪

   女王様の鞭 ←New!

スキル:『回復(弱)』

    『隠密』

    『幻惑(弱)』

    『誘惑(弱)』

 

 メアの情報も視える。

 ウーン、ティアナが「A」でメアが「G」と表示される、OPという能力値……。

 運動能力かな? 素早さとか? でもOPって……オーピー、オッパ……。


「!?」


 突如、頭の中に解答が閃く。

 たぶん、『オッパイのカップサイズ』だこれ。ティアナがA(なるほど)、メアがG……Gっ!?

 してみると、『経験人数』も『あっち方面』の意味なんだろうな……。  

 つくづく『色欲』なんだな、僕の権能って……。

    


 陽が沈む頃、『不夜城・ファイト一発🖤』に帰りつく。今日もアンナさんが豪華な夕食で僕らを出迎えてくれた。


「え!? 地下三階にホブゴブリンとゴブリンクイーンですって?」


 今日の出来事を報告していると、アンナさんが食事の手を止め、訊き返してきた。


「そうなんですよ! ゴブリンクイーンが一匹にホブゴブリンが二匹。途中、クイーンが仲間を呼んで、下っ端ゴブリンまで集まってきちゃって。もうダメかと思いましたよ……!」


 僕は最前までの恐怖を思い出して身震いする。


「わ、私……隠れてばかりで、ちっともおふたりのお役に立てなくて……」

「メア、アンタがとっさに『誘惑』でデコイをかって出てくれなかったら、私とルクスはあのままやられてたわ」


 「ティアナ様……!」と声を震わせたかと思うと、メアはティアナに抱きついた。ティアナは鬱陶しそうにそれを引き剥がす。うーん、百合フィールドは眼福だ。


「そうですか、ご無事で本当に何よりでした……。通常、ゴブリンクイーンやホブゴブリンは、地下十五階から二十階に生息するはずの魔物です。そんな強敵相手に勝利するなんて……。ルクス様のレベルが、昨日の今日で、さらにふたつも連続してアップしたとうかがって、どうしたのかと思いましたが、まさかそんなことがあったなんて……」


 アンナさんが深刻な顔つきになる。


「アンナさん。私たちがあんな化け物相手に勝てたのは、私たちが凄かったからじゃない。アイツらがすでに深手を負ってたからだわ。前に言ってたわよね? あの洞窟は『フロアをまたいで魔物が移動することはない』って。でも、現に奴らはフロアを登ってきた。……あの洞窟で何かが起こっているんじゃないんですか?」


 ティアナが疑問をぶつける。僕もまったく同じことを考えていた。


「……確かに妙です。ラッキースケベ様が創られたあのダンジョンは、フロアごとに結界が張られていて、魔物の流動を防いでいたはずです。しかし、ゴブリンクイーンの上層階での出現は、その仕組みのほころびを予感させます……」


 階段付近で目撃した、あのクイーンの奇妙な出現の仕方。身体を粘土細工のように歪ませながら現れていた。あれは結界を無理やり通過していたのか。


「……ルクス様、ティアナ様、それにメア。私は、あなた方の修練に適した場所と思ってあのダンジョンを薦めました。しかし、かえってあなた方を危険に晒すことになるなら、明日からは行かない方がよいかもしれません。どうなさいますか?」  


 アンナさんのその問いかけは、僕らが予想した通りのものだった。だから、あらかじめ考えていた回答を伝えることにする。


「実は帰りがけに、皆で話してたんです。明日からのこと。確かにあのダンジョンでは妙なことが起こっているのかもしれない。だけど、僕らはあと一月で、あの『傲慢』に打ち勝つ力を手に入れなければいけない。なら、危険は承知のうえで、あのダンジョンでもう少し頑張ってみよう、って。三人なら大丈夫かも、って」


 それを聞いて、アンナさんがほほえむ。

 

「そうですか。皆で決めたことでしたら、私は何も申しません。ただ、けして無理はなさらないでくださいね?」

「ええ、安心してください。僕も無理はしたくありません。絶対に!」

「アンタは多少無理しなさいよ!」


 ティアナの容赦ないツッコミに、食卓には笑い声があふれた。

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