第44話 真夜中の訪問者🖤(リターンズ)

 ーーコンコン。


 ノックの音に目を覚ます。どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい。

 ドアを開けると、廊下にメアが立っていた。

 

「こんばんは~。あの、入っても……?」

 

 彼女の雰囲気がいつもと違うことにいぶかしみながらも、部屋の中に招き入れる。

 なんだろう、こんな時間に。


「あの……今日はありがとうございました。私ひとり隠れてばかりで、ルクス様とティアナ様にはご迷惑を……」


 なんだ。昼間のこと、まだ気にしてたのか。


「あのね、メア。パーティーは支えあうのが基本なんだから、これ以上気にしないで。それに『誘惑』を使って、立派に下っ端ゴブリンたちを足止めしたのは、メアなんだから」


 そう。むしろ今日のMVPはメアだといってもいいくらいだ。誘惑するだけのスキルを使って、とっさの機転でデコイ(おとり)役を果たしたのだから。


「だから、胸を張って。さ、今日はもう遅いから早く休んで、明日も頑張ろ?」


 メアには悪いが、今日は自分も疲れたので、早く眠りたい。彼女に背を向けて、寝巻きに着替える。


「そうです……ね」


 どうやらわかってくれたらしい。よかったよかった。安心したとたん、急激に眠気が襲ってくる。


「うん、じゃあオヤスミ……って、なんで脱いでるの!?」


 振り返ると、一糸まとわぬ、生まれたままの姿のメアが立っていた。

 

「あの……よければ今夜、一緒に寝ませんか? あ、私のことは抱き枕かなにかと思っていただければいいので……」


 艶やかな黒髪が、雪のように白い肌の上に垂れている。隠そうとして添えた手からはみ出るほどの巨乳に、悩ましくくびれた腰。どこか幼げな顔立ちに反して、成熟した女の身体つきだった。

 こんな豊満な肉感を兼ね備えた抱き枕、あってたまるか!


「なななななんで裸!?」

「あ、私んち裸族なんで、お部屋だと基本裸なんです。服着るの、なんかきゅうくつで。もちろん寝るときもなんですけど~」


 なにその告白!? ーーん? 私んちってことは、アンナさんも……? あの妖艶な美人も、部屋ではこんな格好なんだろうか。


「と、とにかく服着て!」


 ダメだとわかっているのに、おかしな気分になってくる。まさか、昼間の『誘惑』がまだ効果を発揮し続けているのだろうか。それとも単純に、メアが魅力的なせいか。


「いいじゃないですか~。私のこと、抱いてくださいよ~」

「抱き枕的な意味で、でしょ? いい加減にしなさいよ、メア! アンタ酔ってんでしょ!」


 『私は』メアの桃のようなお尻を軽くひっぱたく。


 ペチン!


「ピッ! 痛いっ! やめてください、ティアナ様~」

「いくら女同士だからって、一緒に寝る趣味はないのよ! ほらほら、私は眠いんだから、さっさと出ていく!」

「チェ~。私、お酒呑むとひとりで寝るのがさみしくなるんですよ~。いいです、それならルクス様と一緒に寝ることにします。オヤスミなさい~」

「ちょちょちょ、待ちなさいよ!」 



 ドタンバタン!


 隣のティアナの部屋から騒がしい音が響いてくる。何してるんだろう、こんな時間に……。スパーリングかな?

 僕は寝巻きに着替えて、ベッドにもぐりこむと、部屋の灯りを消した。

 あー疲れた。今日はよく眠れそうだ……。



 そんな、それぞれの夜を過ごした翌日。

 僕らは、ダンジョンの『本当の恐怖』を知ることになった。

 まさか、あんなことになるなんて。その時の僕らは知るよしもなかった。

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