第35話 魔剣、覚醒!
ズギュン―—!
「ブジュジュジューッ⁉」
手にしていた黒い魔剣が急激な熱と光を発したかと思うと、それまでナイフくらいの長さしかなかった刃が一気に天井付近まで伸び、僕の上にのしかかっていた大ナメクジの身体を刺し貫いた。断末魔の叫びを上げて敵の姿がかき消える。
「な、なんだこれ―—⁉」
動転しながらも立ち上がって確認すると、魔剣は元のサイズに戻っていた。
「あ、あれ―—?」
「いやあああああああああああ!」
背後でメアの悲鳴が上がる。見ると、吊り上げられた彼女の身体に無数のヌルヌルした触手が群がっていた。
こんな時に不謹慎とは思ったが、その光景はエ、エロい——って、うわっ!
ズギュン! グルンッ! ズパパッ‼
再び魔剣の刃が伸び、その勢いに押されて手元がブレたせいで、真横に薙いだ形になった。振りぬかれた刃の軌道は光の筋となり、天井から伸びていた触手の束をまとめて両断する。支えを失い、メアの身体がドサリと床に落下した。
「きゃん! い、痛~い……」
「メア、大丈夫⁉」
「ルクス様~! ありがとうございます~!」
よし、とりあえずメアの救出には成功した。触手の大部分を斬られて、ワーム本体も消滅したみたいだし。残るはティアナだ。
「大丈夫? ティア……ナッ⁉」
「やっ! バカッ! 今こっち見るな!」
振り向いた先には、ピンクスライスの溶解液であられもない姿にされたティアナがいた。
ニーソックスは穴だらけ、シャツもスカートもボロボロで、上下とも下着が見えそうになっているのを、両手で必死に隠していた。
エローいっ!
ズッギュン! ドガアァァァァン!
「ピギィィィィィィ!?」
三度魔剣が伸び、ピンクスライスを突き刺した。刃はスライムを引っかけたまま恐るべきスピードで尚も伸び続け、岩壁に魔物の身体を叩きつけて消滅させた。
気づけば、先にティアナが倒していた普通のスライム二匹以外、残りすべての敵を僕がひとりで倒していた。
不意に、全身に力が漲る感覚が走る。これは……!
◆メンバー1
名前:ルクス・ヴァーンズ
性別/年齢:男/18歳
職業:『色欲』のダンジョン・『不夜城 ファイト一発🖤』マスター
レベル:5→6 ←New!
HP:15→17 ←New!
MP:20→23 ←New!
BP:15→20 ←New!
装備:布の服
魔剣『ディザイア』(覚醒1) ←New!
『凪のトランクス』
セーブの腕輪
スキル:『ルーム』
おお! 魔物を倒したことで経験値が上がって、レベルアップしたみたいだ。
僕自身のステータス向上もさることながら、魔剣『ディザイア』が『覚醒1』となっている。さっきのあの急激な形態変化のことか。僕は、再び元のサイズに戻っている黒い魔剣をしげしげと眺めた。
正直これまで、リーチが短く扱いづらいと思っていたが、むしろどんな武器よりも長距離攻撃が可能な優れものだった。たとえ刃が伸びても、魔剣としての『切れ味』と『強度』は落ちていないように感じられるので、とても心強い。
しかし、問題はその『原理』だ。いったいどうしたら伸びるんだろう。それがハッキリしないことには、今後安定して使っていくことができない。
ついさっきまでは、戦いの最中使っていても、伸びる気配なんて微塵もなかった。なぜ突然覚醒したのか? 頭の中に響いた、誰かの声。あれが何らかのきっかけだったのだろうか?
いや待てよ、どの場合も直前に僕は何を見てた? それにあの声がささやいた言葉。『お前の欲望を流し込め』って……そうか、もしかしたら……!
「……ルクス」
僕の名を呼ぶ声に、思考が中断する。
顔を上げると、あいかわらず下着が見えないよう両手で必死に隠した体勢のティアナが、ゆっくりこちらに歩いて来た。
「その……あり……、ア、アンタも少しはやるわね!」
ティアナはそっぽを向きながらそう言った。
「ううん、僕が敵を倒せたのはホントに偶然だよ。それよりゴメン、すぐに助けに行けなくて……」
僕がもっと強ければ、ふたりのピンチにすぐ対処できたはずだ。いや、そもそもピンチになることすら、なかったはずなのだ。
「……バカね、謝ることじゃないわよ。私たち三人とも、まだまだ弱いせいなんだから。……これから皆で、一緒に強くなっていきましょ?」
「……ティア、」
「ルクス様~! 怖かったです怖かったです怖かったです~! 助けてくださってありがとうございました~~~!」
ドン! ベチャ! ムニュ。
背後から急にメアに抱きつかれる。うわわ、粘液でヌルヌルだ!? でも、この背中に伝わる弾力はひょっとして、
ズッギュン! ビ、ビリィィィ! ドガアァァァァン!
再び爆発的に伸びた魔剣の刃が、ティアナのすぐ脇を通過。彼女のスカートを引っかけたまま伸び続け、最終的に岩壁に激突した。スカートは亡きものになった。
「ゴ、ゴメン、ティアナ! わざとじゃないん……です……けど……ね?」
「……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
あーダメかー。まあそっかー、スカート破いて下着姿にしちゃったもんねー? ぶん殴られても仕方ないかー。でも不可抗力なんだけどねー。
頭の中には言い訳の言葉が溢れていたが、僕はそれらをぐっと喉の奥に押し込んで、目を閉じ心静かに制裁の時を待つのだった。
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