第33話 ヌルヌルタイム🖤
「ちょっと、なんなのよ? さっきのザマは!」
スライムのタックルをみぞおちに喰らって気絶した僕が目を覚ました時には、すべてが終わった後だった。結局、ティアナが三匹とも敵を倒したのだという。
そして、再び洞窟の奥を目指して歩き出した僕らだったが、同時に始まったのは、先ほどのファーストバトルの反省会。責めるのはティアナ、責められるのは僕だ。
「で、でもルクス様は、私を背後にかばって戦ってくださいました……」
「メアは黙ってて。第一、スライム相手に守るも守らないもないわ」
メアの弁護を一蹴するティアナ。
「いや、この魔剣、リーチが短すぎるんだよ。だからギリギリで攻撃をかわして斬るしかなくて、タイミングがつかめなくてウニャムニャ……」
「問答無用! だいたい、腰が引けてるから刃が届かなくて攻撃が当たらないのよ! スライムの突進なんて、最悪、当たったって死にはしないんだから、真正面から斬りかかりなさいよ!」
ナイフどころか
「とにかく、次はもっと頑張ること!」
「は~い……」
気の抜けた返事をしたら、尻を蹴られた。体育会系は怖いなあ……。
◆
そのあと僕らは、割とスムーズに一階の最奥まで到達した。
途中、何度かバトルがあったが、現れたのはスライムばかり。ティアナはスライム程度、最初から問題にしていなかったけど、僕にしても、そばでティアナが(ガミガミと)アドバイスしてくれるおかげでだいぶコツをつかめて、リーチの短い魔剣でも安定して倒せるようになってきた。少なくとも、みぞおちにタックルを喰らうことはなくなった。
「ふたりとも見てよ、あれって階段じゃない?」
はたして、通路の突き当たりには階下へと伸びる階段があり、その脇には等身大の結晶があった。アンナさんがくれた腕輪をかざすと、呼応して発光する。これが『セーブポイント』なのだろう。これでこの位置までは、洞窟入り口からワープできるようになったわけだ。逆にここからなら、一瞬で入り口に帰還することもできる。
「まだたいして消耗してないし、帰還するには早いわ。今日のうちに、もっと奥まで進みましょう?」
「そうだね。でも、もうお昼過ぎだと思うから、アンナさんのお弁当を食べてからにしない?」
「「賛成(よ)(です~)」」
三人で固まって、適当な岩に腰を下ろす。身に付けていた荷物袋から弁当箱を取り出す。
「あ……そういえば、戦いの最中けっこう激しく動いてたけど、お弁当大丈夫かな? グチャグチャになってたりしないかな……」
「大丈夫ですよ~」
メアはクスリと笑いながら、蓋を開ける。中にはおにぎりと色とりどりのおかずが、可愛らしく整然と詰められていた。どこも崩れた様子はない。
「あ、僕のも崩れてない。あれだけ動いたのに……」
僕の場合、スライムタックルでぶっ倒れてたりもする。それでもお弁当の中身は、崩れるどころか片寄ってすらいなかった。不思議だ。
「実はこの箱に秘密があるんです。これは『ジャイロ弁当箱』っていうマジックアイテムで、どんなに傾けても中身は水平なままなんです。ちなみに『ジャイロ』の意味は、私にはよくわかりませんけど……」
ふーん、便利な道具もあるものだ。もしかしたら、壊れやすい貴重品や、倒したらマズイ爆発物なんかを運ぶのにも役立つかもしれないな。そんなケースがこの先あるかはしらないけど。
アンナさんの手料理を美味しくいただいて体力を回復させた後、僕らは慎重に階段を降りていった。
◆
「うわっ、ヌルヌルだ……」
僕は思わず声を上げた。
降り立った地下二階は、足元も岩壁も、まるで巨大なナメクジが這った後のように謎の粘液にまみれており、テラテラと光っていた。
「ふたりとも、滑りやすいから足元に気をつけてってってってっ!」
ツルン! ベチャッ!
言ってるそばから滑って尻餅をつく僕。うわー、尻がヌルヌルだ……。
「ル、ルクス様、大丈夫ですかっかっかっかっ!」
ツルン! ベチャッ!
「ひ~ん、ヌルヌルです……」
「まったく、何やってんのよアンタら。気を抜いてるからそうなるのよ」
ひとり、転ばないよう慎重に歩を進めるティアナ。
「え~、ティアナも滑ろうよ~」
「そうですよ~。ティアナ様も一緒にヌルヌルになりましょうよ~」
僕とメアは結託してティアナをヌルヌルへと誘う。
「い、や、よ! アンタらだけで勝手にやってなさいよ。って、ちょっと……そんなヌルヌルの身体で近付いて来ないでよ……。やめなさいよ、手ぇ伸ばすんじゃないわよ! あ、コラ、引っ張るなっなっなっなぁっ!」
ツルン! ベチャッ! ベチャア~
結果的に、一番派手にスッ転ぶティアナ。
「やった! これでティアナも仲間だ!」
「ヌルヌル仲間ですね~」
「……(怒)」
「イエーイ!」とハイタッチで喜ぶ僕らの尻に、ティアナの回し蹴りが炸裂した。
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