第21話 真夜中の訪問者🖤

 僕とティアナはそれぞれの部屋で休むことになった。ちなみにティアナの部屋は僕の部屋の右隣で、『503号室』だった。


 部屋でひとりになった瞬間、一日の疲れがどっと押し寄せてきて、僕はベッドにダイブした。あーフカフカで気持ちいいー。

 それにしても、今日は朝から色々なことがあったなあ。胃の痛くなるダンジョンマスター就任式。ティアナとの再会。ピンク色の怪しいダンジョン。アンナさんとの出会い。ティアナと『ラブホ』探検して、ふたりして『×××しないと出られない部屋』に閉じ込められて、弟のキビルと対決することになって、メアちゃんと知り合って……。

 実に濃密な一日だった。20話分くらいあったんじゃないかと思えるほどだった。


 そのままベッドでうたた寝をしてしまった僕は、ノックの音に目を覚ました。

 ドアを開けると、廊下にメアちゃんが立っていた。

 

「お、お夕食をお持ちしました、ルクス様。し、失礼します」

 

 メアちゃんは一礼すると、配膳のワゴンを押して部屋の中に入って来た。そして、ガラステーブルの上にてきぱきと料理を並べていく。


「本日の献立は、『サラマンダーの厚切りステーキ』・『マンドラゴラのサラダ・オーロラ風』・『海ガメのスープ』に、『針コウモリとアスパラのスパゲティ・白ワイン風』です」

「わー、スゴイ! 実家の料理よりも豪華だよ。このダンジョン、おかかえのシェフもいるんだね?」


 僕の感想に、なぜかメアちゃんが顔を赤くする。


「あ、あの……。お料理を作るのは私のお役目でして……」

「え! じゃあこれ、全部メアちゃんが作ったの?」


 こくん、とうなずくメアちゃん。

 せっかくなのでステーキを一口食べてみると、これが絶品! 肉の焼き加減も絶妙だし、かかっているソースが肉の味わいを引き立てている。


「美味しいよ! こんなに美味しい料理、はじめて食べた!」

「……っ///!」


 あれ、メアちゃんの顔色がトマトみたいに真っ赤になっていく。この部屋、そんなに暑いかな?

 直後、メアちゃんは「ご、ごゆっくりどうぞ! し、失礼します!」とだけ言い残すと、脱兎のごとく部屋を出て行ってしまった。



 フー、美味しかった~。


 食事が済んだので、食器を下げてもらおうと思い、メアちゃんの部屋に『電話』してみることにした。

 えーと、たしかこの『受話器』っていうのを持ち上げて、耳に当てながら番号を押すんだよな。『5』、『0』、『2』、と。


 プルルルル、プルルルル……


『は、はい、もしもし。こちらメアです』


 わ、メアちゃんの声だ。まるで、耳元で話しかけられてるみたいに聞こえる。あと、『モシモシ』ってなんだろう。


「あ、メアちゃん? ルクスです。食べ終わったんで、食器を下げてほしくて」

『か、かしこまりました。すぐまいります』


 言葉通り、メアちゃんはすぐに部屋にやってきた。


「お、お粗末様でした……」

「いや、どの料理もすごく美味しくてビックリしちゃったよ! ごちそうさまでした。これから毎日メアちゃんのご飯が食べられるかと思うと、それだけでもここのダンジョンマスターになった価値があるよ!」

「……っ///!」


 メアちゃんがまたまた真っ赤になって黙り込んでしまった。料理の腕を称賛したたかっただけなんだけど、うまく伝わったかな? 僕口下手だから、たまに誤解されるし、ちょっと心配だ。



 少し食休みをしてから、僕は風呂に入ることにする。

 蛇口をひねって、浴槽にお湯を溜める。素晴らしい。便利だ。湯を沸かす手間がかからないなんて、まるで魔法みたいだ。

 洗い場にあるロープみたいなものの先からも、勢いよくお湯が出る。気持ちいい! 癖になりそうだ。

 やっぱり、異世界の技術ってこっちよりも色々進んでいるのかもしれない。パッと見には用途がわからないものでも、スゴい機能を持っていたりするので侮れない。きっとこの『股の部分がやたらと空いた形状の椅子』とか、『意味ありげに壁に立て掛けられているマット』とかにも、スゴい機能が隠されているんだろうな。これからじっくり解明していこう。


 ゆっくり湯船に浸かっていたら、いつの間にか、夜も深い時間になっていたようだ。

 脱衣場にあらかじめ用意されていたバスローブを身に纏い、ベッドに腰を下ろす。


 さて、このあとはどうしようかな?

 

 メアちゃんの手料理で『食欲』は満たされてるし、さっきうたた寝したおかげで『睡眠欲』も満たされている。となると残るは……うん、『性欲』に決まってるよね!

 だいたい、考えてもみてほしい。重度の童貞を患っている僕が、今日一日だけで受けた刺激の数々を!


・十年ぶりに再会した幼なじみが、超絶かわ 

 いくなっていた(+10点)

・ダンジョンに着いて早々、妖艶美女のアン

 ナさんに、胸元をチラチラさせながら『身

 体も命も、ご自由にお役立てくださいま

 せ』なんて言われる(+30点)

・ティアナとふたり、生まれて初めての連れ

 込み宿探険(+20点)

・ティアナと『×××しないと出られない部

 屋』に閉じ込められる(+80点)

・ティアナに『お風呂入ってくる』と言われ

 る(+100点)

・ティアナに『シないの? するなら早くシ

 て』と言われる(+2000点)

・ティアナにキスをおねだり(?)される(計測

 不能)

・『エレベーター』の中でメアちゃんのオッ

 パイが当たる(計器故障中)


 ……とまあ、童貞の僕からしたら致死量と言って過言ではないくらいのEP(エロスポイント)を摂取したわけなので、これをこのまま体内に留めておくことは命に関わる。

 ならどうすればいいか。賢明なる読者諸君ならお察しのことであろう。

 『ヌく』。

 これしか今宵、僕が安らかな眠りを得る手段はないのである。


「あれ~そういえばこの部屋にも『TV』なんてものがあったな~。異世界の道具にも慣れていかなきゃいけないし、色々調べてみようかな~?」


 僕は見えない何かに言い訳しながら、『TV』を操作する小さな板を見つけ出して、赤い突起を押そうとし、


 コンコン。


 チィッ! 誰だよこんな時間にっ!


「ハーイ、どなたー?」


 僕は多少不機嫌な声で問いかける。


『あ、あの……。メアです……』


 辺りをはばかるような、小さな声が返ってきた。

 メアちゃん? こんな夜更けに?

 僕はいぶかしみながらドアを開ける。

 そこには、果たしてメアちゃんが立っていた。

 問題はその格好だ。

 たしか『ベビードール』とか言うんだっけ? 黒色の、薄くてスケスケな布でできた、太ももまでの丈のワンピースのようなものを着ている。あんまり薄いから下着透けちゃってるし!


「メ、メメメメメ、メアちゃん……!?」


 突然のことにあわてふためく僕に、真夜中の訪問者はこう告げた。



「あ、あの……夜這いにうかがいました」




よばい【夜這い】……夜中に性交を目的に他人の寝ている場所を訪れる行為


★★★ 次回 ★★★

『第22話 ハジメテの夜這い🖤』、お楽しみに!

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