第13話 彼女の決意
開いたドアの向こうに、ティアナが立っていた。
その姿はバスタオルを巻き付けただけで、肩口と脚をあらわにした……というものではなく、先ほどとまったく同じ服装だった。
なーんだ残念、なんて軽口を頭の中に思い浮かべていた僕は、彼女の顔を見て小さく息を飲んだ。
ほんのり目の縁が赤い。泣いていたんだろうか。そうだとしても無理はない。突然、こんな不条理な状況に陥ってしまったのだから。浮かれていたさっきまでの自分をぶん殴りたい。
しかしまた、今の彼女の表情には一欠片の動揺も見られなかった。深い森の中を思わせる、静けさだけがそこにあった。
僕は、無性に恥ずかしくなった。
「あの……、ええと……、髪! お湯浴びたんでしょ? あんまり濡れてないみたいだけど、もう乾かしたの?」
「ん……、ああ、脱衣場に洗面台が付いてたんだけど、そこに『温かい風が出る不思議な道具』があったから借りたわ。すごいわね、あれ。やっぱり異世界の道具なのかしら」
ティアナは肩口にかかった髪に目をやりながら、それを指でもてあそびつつ、静かな声で応えた。
「ふ、ふーん。僕も後で見てみよう……」
――どうしよう。気のきいた言葉が何も思いつかない。いや違うだろ、まずは話さなきゃいけない当面の問題があったはずだ。
「あのさ、部屋の中を調べてみたんだ。宝箱があって、中にナイフくらいの大きさの魔剣と、僕のご先祖様からのメッセージが入ってたんだけど、この部屋から脱出する方法の手がかりはなかったよ……」
僕はさりげなくトランクスについての報告は割愛した。
「そ……。……ねえ、ルクス。お願いがあるんだけど」
彼女がまっすぐ僕の目を見る。
「なに……?」
「もう一度だけ、あのドアに挑戦させてくれない?」
◆
ティアナが入り口のドアの前に立っている。
脚を肩幅に開き、腰を深く落とした姿勢。左手は前に突き出され、右手は身体の横に軽く添えられている。
目を閉じ、深い呼吸を繰り返す。
何かが満ちていくような、弓矢が引き絞られていくような、そんな‘‘’力‘’の高まりが感じられた。
そして、限界まで水滴を湛えた木の葉が一気に弾けるかのように、その瞬間は訪れた。
ティアナの瞳が開かれる。
「獣・王・撃———!」
キーーーーーン
まばゆい光。それとともに、先ほどまでの暴力的な爆発音とは違う、澄んだ、甲高い、美しい音が響き渡った。
やがて、静寂。
ドアは無傷でそこにあった。
「――あは、ダメだった」
ティアナは照れたような顔して苦笑すると、小さくため息をついた。軽くうつむき、すぐまた顔を上げ、僕を見てこう言った。
「いいわ。シましょう? ルクス――」
★★★ 次回 ★★★
『第14話 ドキドキ !? 初・体・験🖤』、お楽しみに!
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