第12話 魔剣『ディザイア』

 突然のアクシデントをなんとかやりすごし、僕は安堵から、ソファにぐったりと沈み込んでいた。

 

 まったくひどい目にあった。この黒い板、『遠くの出来事を映し出せる仕掛け』だったなんて……。でも、使いようによっては、なにかの役に立つかもしれないな。なにより面白そうだし。

 それにしても、毎回『遠くの出来事を映し出せる仕掛け』と言うのは面倒くさいな。なにかいい呼び方はないものか。

 そういえば、さっき映った女性、かなりの美女だったうえに特徴的な髪型してたな。まさに時代の先を行く最先端の髪型……、最先端……、トレンディ(流行の最先端)な……、美女、びじょ、ヴィジョ……。――そうだ! 今後は『T(トレンディな)V(ヴィジョが映った不思議な仕掛け)』ということで、『TV』と呼ぼう!

 

 ……などど、ぼんやりとした頭が勝手に妙なネーミングをするにまかせていた僕だったが、TVの置かれている棚に付いている両開きの扉が、かすかに開いているのに気づいた。あそこは、まだ調べてなかったな。

 僕はおもむろに立ち上がると、扉に手をかけ全開にする。

 

 中にはなんと、『宝箱』が入っていた。

 

「なんか、はじめてダンジョンらしい展開!!!!」


 喜び勇んで宝箱を開けると、中からまばゆい光があふれ出た。思わず目を細める。光の波はゆっくりと引いていき、やがて消えていった。


「こ、これは……⁉」

 

 覗き込んだ宝箱の中には、『羊皮紙のロール(巻物)』と『トランクス(下着)』、それと『一振りのナイフ』が入っていた。


「……。どういう組み合わせ!?」


 僕は思わず虚空に向けてツッコンでいた。



 『トランクス』は、どこにでもある普通の男性用下着だった。ただ、白地に小さいピンクのハートが散りばめられた柄で、見るからに恥ずかしい代物だった。

 まあ、誰のものともわからないので、万が一にも僕が履くことなんてあり得ないが。――ん? 今、なんかフラグ立った?


 やはり目を引いたのは『一振りのナイフ』だった。夜の闇を集めて造ったがごとく真っ黒な、流線型の刀身。そこに、精緻な銀細工の意匠が施されている。 

 ナイフそれ自体が、‘’斬る‘’という強い意思の塊のようで、掴もうと手を伸ばすだけで「切り刻まれるのでは」という恐怖を見る者に与える、そんな存在感を周囲に放っていた。


 さて、残るは『羊皮紙のロール(巻物)』だ。  

 僕は、「ナイフはもちろんなんだけど、あのトランクスについても、何か説明されていますよーに」と、かすかな願いを込めてロールを開いた。

 えーっと、なになに……?



 この『×××しないと出られない部屋』に入り、これを読んでいることは、そなたこそ『色欲』の権能を継ぐ者であるという証拠だろう。

 よくぞ来た、我が末裔よ。


 此処に【魔剣『ディザイア』】と【『凪のトランクス』】を遺す。


 そなたの助けとなることを願って。


 『色欲』のラグニアが記す


  

 ラグニア・ヴァーンズ。名前だけは知っている。僕の曾祖父にあたる人物だ。

 彼が、子孫である僕のために、これらを遺してくれたことはわかった。

 このナイフは、小さいが『魔剣』なのか。魔剣は大概、普通の剣にはない恐るべき切れ味を有している。また、稀に特殊な効果を発揮したりするので、後で色々試してみたい。

 下着の方は『凪のトランクス』というのか。名前の他に説明なし。まさかご先祖様のお古じゃないだろうな。

 色々遺してくれるのはありがたいんだけど、説明書をつけてくれない辺りが微妙に不親切です、ご先祖様。というべきか、『×××しないと出られない部屋』について説明プリーズ!

 

 再度、虚空に向けてツッコみを入れる僕の背後で、風呂場に通じるドアが静かに開いた。


 

◆現在のステータス

名前:ルクス・ヴァーンズ

性別/年齢:男/18歳

職業:『色欲』のダンジョン・『不夜城 ファイト一発🖤』マスター

レベル:5

HP:15

MP:20

BP:8

装備:布の服、魔剣『ディザイア』、『凪のトランクス』←New!

スキル:『ルーム』 



★★★ 次回 ★★★

『第13話 彼女の決意』、お楽しみに!


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